異世界 恋愛短編 シリアス

リコピン

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Ⅲ【完結】迎えに来てくれる人【19,450字】

Ⅲ 6.

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屈辱的な一言、それを、口にしようとした瞬間。私の選んだ答えがわかっていたのだろう、口角を上げて笑っていた男が、その表情を驚きに変えた―

―待たせたな、秋穂

「っ!!」

目の前、突然、現れた光。瞬く間に膨らんで、部屋中を明るく染めたその光の中央に見える、人の姿。長い黒髪に金の瞳。そして、何より、私の名を呼んだその声の優しさは―

「黒龍さまっ!」

「ああ、」

考える前に身体が動いていた。目の前の背の高い男の人に飛びついた。

「黒龍さま、黒龍さま、黒龍さま!」

「…遅くなったな。不安にさせてすまなかった。」

「いいえ!いいえ!」

来てくれた。ちゃんと、迎えに来てくれた。嬉しくて、ほっとして、喜びが心の底からあふれてくる。

「…泣くな。」

「!」

拭われた涙に、変な顔で笑ってしまう。

それに笑い返してくれた優しい金の光が、すっと向きを変え、部屋にいる男たちを見渡した。

「…役者は、そろっておるようだな。」

「…貴様、何者だ。王宮内での転移などあり得るはずがない。…先ほどの力は、何だ?」

「それに答える義務はないが。…お主が、この国が求めた力、と言えば分かるか?」

「まさかっ!?」

驚愕を受かべた男の顔、だけどそれも一瞬のこと、喜びに表情を変えて、男が笑う。

「ハハッ!では、貴様はあの時の聖獣か!?死してなお、人の姿で舞い戻ってくるとはな!」

「死んではおらん。この地に縛られた肉体を一度捨て去ったまでのこと。」

「ほお?では、肉体を捨ててまで帰還した異界より、何故またこの地へと現れた?聖女を救うため、とでも言うか?」

「聖女?」

黒龍さまの凪いだ瞳が、一瞬だけ、こちらに向けられた。

「…愚かよな。」

「…何?」

「異界より神を招くに飽き足らず、界を渡る力を持たぬ人の子にまで手を出すとは。…本当に、愚かな真似を。」

「…」

黒龍さまの言葉の最後、じわりとにじみ出るようにして溢れだしたのは、明白な怒り。それが、目の前の男たちに向けられる。

「かつて、白き虎がこの国に力を貸したは、未熟な国の行く末を憐れんでのこと。彼の者が去りし後、国を盛り立てるは人の定め、もはや神の領分ではあり得ぬ。それを…」

「待て、貴様、一体、何の話を、」

「神の力に頼みし国造りなど、いつかは破滅を呼ぶ。それが分かっておるからこそ、多くの同胞がこの地に呼ばれながらも、力貸すことなくこの地を去った。」

「それは…」

「だが、それが許されたは、神に界を渡る力あるからこそ。その力を持たぬ人の子では、界を渡ることさえままならぬ。…ぬしらの傲慢がこの娘の命を奪いかけたのだぞ。」

「っ!」

黒龍さまの言葉に驚いたのは私だけじゃなくて、私を呼んだ男たちも。でも、そうか、こちらに落とされたあの時、もし、黒龍さまが拾ってくれなかったら、私はもうとっくに―

その想像に、黒龍さまの服を握る手に力がこもる。

「…主らは、触れてはならぬものに触れた。…選べ、人の王よ。」

「なに、を…」

男が何かを言おうとした瞬間、窓の外、闇夜を切り裂く光が天を割った。

「なんだっ!?これは!?」

突然の轟音とともに、窓に叩きつけるような勢いで振り出した大雨。本当に、窓ガラスを割ってしまいそうなほどの―

「…これが、主らが欲した神の力。…神威とは、元来、人の手には余るもの。」

「これが…」

唖然と窓の外を眺める男に、黒龍さまがもう一度、告げた。

「人の王よ、選べ。…主の命か、この国か。」

「!?」

「主の命ある限り、この雨は降りやまぬ。…山を崩し、田畑を流し、人の命を奪い去る。」

「っ!馬鹿な!?」

「言ったであろう?主らは、触れてはならぬものに触れた。…主の命か、この国か。いづれかなくしては、その罪、贖うことなど出来ぬ。」

「そんな、ことが…」

男の視線が黒龍さまと窓の外、それから、私へと向けられる、直前―

男の視線から守るようにして黒龍さまに抱きしめられた。その胸元へと顔を埋める。

「そこな魔導士。主は、これより先、異界よりの召喚が二度と行われぬよう、この世の全ての召喚陣を破壊し、存在を抹消せよ。」

「…世界中、それは…」

「やらねば、世界が滅びるまでよ。」

「!」

黙り込んだ男達。黒龍さまの腕の中では、その様子をうかがい知ることはできない。

抱きしめる温もりに、頭の上で囁かれた声、

「…帰るぞ、秋穂。」

「はい…」

頷いて、訪れた浮遊感に目を閉じた―




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