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Ⅰ 【完結】愛に殉ずる人【57,552字】

Ⅰ 5. Side L

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―まただ…また、彼女が

「私は神子よ。私を信じなさい」

―駄目だ…行かないで…

もう、二度と―

二度と行かせぬと誓った場所、己では、辿り着く術さえ持ち合わせないその場所へ、行ってしまう、彼女が、昇っていこうとしている。

腕の中、捕えたはずの、意識戻らぬ子どもを奪われた。小さな身体を抱き締めた、彼女の身体が力を失う。止まりそうな鼓動、手を伸ばし、抱き止めた身体は、小さな身体を抱き締めたまま。決して離しはしないと、強く、強く、その身の内に抱え込む。

瞳を閉じた彼女。意識無い子ども。蘇る光景、忘れることの出来ない絶望に飲み込まれていく―





―リュシアン、何を考えているの!?

未だ、七に満たない、小さな身体で、

―行かせないわ!セシルを放して!

必死に己の前に立ち塞がる。

―セシル!駄目!行かないで!

上がる水飛沫、

―リュシアン!違えるな!

穢れに飲まれる二つの影。

―神子たるべきは、この私!私が、神子よ!





ああ、彼女が行ってしまう―

「神官長!」

失われてしまう、私の、唯一―

「神官長!」

私の、私の―

「神官長!っ兄上!!」

「っ!」

何だ、コレは、彼女は。私を兄と呼ぶ、コレは―

「兄上!お気を確かに!」

「…」

「神子様をお部屋にお連れください!」

「…」

重い、腕の中の存在。動かない、だが、未だ、失われてはいない。

「この子は私が引き受けます。兄上は、神子様をお部屋へ。…アリアーヌ様は、必ず、戻ってきて下さいます」

「…」

力を失なったまま、未だ魂の戻らぬ肢体。血の気の無い頬。そっと、手を触れ、抱き上げた。

何も出来ない己を知っている。かつてと同じ失態を犯した愚も。だから、己に許されるのは、彼女を待つ、ただそれだけ。

誰よりも強く尊い己の神子が、愚かな己の元へ再び戻ってきてくれることを信じて、彼女無しでは息さえ出来ぬこの身に、慈悲深き彼女が与えてくれる奇跡を希う―





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