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Ⅰ 【完結】愛に殉ずる人【57,552字】
Ⅰ 4-1. Side A
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4-1.
王宮よりの呼び出し。常なら無視してやることも出来るそれに応じたのは、自分つきの女官であるセシルの言葉があったから。
『神官長が、王宮に参じている』
儘ならない男だ、と思う―
彼の『神子』への忠誠を、今まで一度も、疑ったことなどない。代々、神官長を努めてきたフルーリーの、狂信的とも言えるそれに、疑いを挟むことほど馬鹿らしいことはないと思っているし、そのフルーリーにおいても、歴代一二を争うのではないかというほど『神子』に心酔していた先代神官長、父親であるその男からの薫陶を受けて育ったリュシアンもまた、父親に負けず劣らずの『神子』信奉者であることは間違いない。
男の持つ強すぎる信念を、鬱陶しく思うし、愚かだとも思うが、それでも、彼を彼たらしめているその想いを否定するつもりはない。
ただ―
信念ゆえの行動を、全て受け入れられるかというと、それは話が別だ。
時として、完全に相容れない行動をとる男の、その行動原理である信念を理解はしていても、腹は立つし、絶対に容赦出来ないことだってある。
新王即位後に、リュシアンが色々と動いているのは知っているが、現状、自身のことで手一杯の我が身では、彼の動向を知る由もなし。神殿の外のこととなれば、これはもう、リュシアンが居なければ、全くのお手上げ。
私が最後に頼るのも、結局は、その儘ならない男なのだから―
「ようこそ、神子殿。本日は、突然の招きに応じて頂き、感謝する」
「…」
形ばかりの挨拶を述べる男に、鷹揚に頷いて返す。こちらのそんな態度がお気に召さなかったらしい、男の腹心が、険しい顔を浮かべるが、結局、何かを口にすることは無かった。
それにしても―
(気にくわない…)
部屋の中央に座すエドモンと、その隣に立つディオ。その二人から離れて、部屋の隅、目立たないようにしているのか何なのか、並んで押し黙る二人の姿に神経を逆撫でされる。
自身に似た色彩を持ちながら、全く異なる雰囲気を持つ少女の隣に、本来なら、私に付き従うべき男が寄り添っているのだ。これが、気にくわなくて何だと言うのだ。
こんな居心地の悪い空間、やはり、さっさと引き上げてしまおうと、呼び出した男に視線を戻す。
「それで?私がここに呼び出された用件というのは、何?」
「…先ずは、あなたに会わせたい者達がいる」
「私に…?」
一体、何だと言うのだ。私の世界は狭い。神殿の外の世界に、私が知る者、私に用がある者など、
「…子ども達を、中へ」
(子ども…?)
主の声に従った侍従が、部屋の奥の扉を開けた。そこから、ぞろぞろと入室してきた子ども達。年の頃、十ばかりの、男の子と女の子、合わせて五人。その誰もが同じ髪色、瞳の色をした―
「っ!」
思わず、リュシアンを振り向いた。涼しい顔、自分は何も関係が無いと言わんばかりの態度、だが、だけど、彼らがここに居るということは、彼が、リュシアンが、やったのだ。彼らの存在を、目の前の男達に露呈させた。
「…彼らについて、心当たりは?」
「…」
暴かれた罪故に、心が軋む。何故、リュシアンは、このような真似を。またしても、私を裏切るような。
荒れ狂う心のままに、リュシアンを言い募り、彼の背信を責め立てたい。そう、思ったけれど、
(…いいえ、違うわね…)
リュシアンに彼らの捜索を命じたのは、他でもない私自身。「どんなことをしても見つけるうに」と厳命した。私にとって、『神子』にとって、それが至上であることを、リュシアンは誰よりも理解していた。
それでも結局、三年前を境に途切れた彼らの調査報告。半ば諦めていた私は、それ以上、リュシアンに何も言わなかったし、リュシアンも何も言わなかった。だからてっきり、調査は打ち切り、彼も忘れていると思っていたのに―
(…諦めて、いなかったなんて…)
自身の手には負えないと、判断したのだろう。だから、王宮の、王の力を使ってでも、彼は成し遂げたのだ。私の、神子の命を。例えそれが、私の望む形ではなかったとしても。
(…あなたのその忠心に、神子はどうやったら、応えられるのかしらね…?)
決して口にすることのない問いを、振り払う。
「…彼らで、全員なの?」
「何?」
「残りの…探していた者達の残りが、全員ここに居るの?」
こちらの問いに答えたのは、王の隣、憎悪を隠しもせずに睨み付ける男。
「…全員、調査済みだ。一覧に名があって、この場に居ないものは、既に…」
「…そう…」
未だ何か言い足りなさそうな男の視線は無視して、子ども達へと視線を向ける。
一様に、ほの暗い視線。友好的でないのは一目瞭然。彼らのその髪、瞳の色に、忘れ去りたい過去が甦る。
王宮よりの呼び出し。常なら無視してやることも出来るそれに応じたのは、自分つきの女官であるセシルの言葉があったから。
『神官長が、王宮に参じている』
儘ならない男だ、と思う―
彼の『神子』への忠誠を、今まで一度も、疑ったことなどない。代々、神官長を努めてきたフルーリーの、狂信的とも言えるそれに、疑いを挟むことほど馬鹿らしいことはないと思っているし、そのフルーリーにおいても、歴代一二を争うのではないかというほど『神子』に心酔していた先代神官長、父親であるその男からの薫陶を受けて育ったリュシアンもまた、父親に負けず劣らずの『神子』信奉者であることは間違いない。
男の持つ強すぎる信念を、鬱陶しく思うし、愚かだとも思うが、それでも、彼を彼たらしめているその想いを否定するつもりはない。
ただ―
信念ゆえの行動を、全て受け入れられるかというと、それは話が別だ。
時として、完全に相容れない行動をとる男の、その行動原理である信念を理解はしていても、腹は立つし、絶対に容赦出来ないことだってある。
新王即位後に、リュシアンが色々と動いているのは知っているが、現状、自身のことで手一杯の我が身では、彼の動向を知る由もなし。神殿の外のこととなれば、これはもう、リュシアンが居なければ、全くのお手上げ。
私が最後に頼るのも、結局は、その儘ならない男なのだから―
「ようこそ、神子殿。本日は、突然の招きに応じて頂き、感謝する」
「…」
形ばかりの挨拶を述べる男に、鷹揚に頷いて返す。こちらのそんな態度がお気に召さなかったらしい、男の腹心が、険しい顔を浮かべるが、結局、何かを口にすることは無かった。
それにしても―
(気にくわない…)
部屋の中央に座すエドモンと、その隣に立つディオ。その二人から離れて、部屋の隅、目立たないようにしているのか何なのか、並んで押し黙る二人の姿に神経を逆撫でされる。
自身に似た色彩を持ちながら、全く異なる雰囲気を持つ少女の隣に、本来なら、私に付き従うべき男が寄り添っているのだ。これが、気にくわなくて何だと言うのだ。
こんな居心地の悪い空間、やはり、さっさと引き上げてしまおうと、呼び出した男に視線を戻す。
「それで?私がここに呼び出された用件というのは、何?」
「…先ずは、あなたに会わせたい者達がいる」
「私に…?」
一体、何だと言うのだ。私の世界は狭い。神殿の外の世界に、私が知る者、私に用がある者など、
「…子ども達を、中へ」
(子ども…?)
主の声に従った侍従が、部屋の奥の扉を開けた。そこから、ぞろぞろと入室してきた子ども達。年の頃、十ばかりの、男の子と女の子、合わせて五人。その誰もが同じ髪色、瞳の色をした―
「っ!」
思わず、リュシアンを振り向いた。涼しい顔、自分は何も関係が無いと言わんばかりの態度、だが、だけど、彼らがここに居るということは、彼が、リュシアンが、やったのだ。彼らの存在を、目の前の男達に露呈させた。
「…彼らについて、心当たりは?」
「…」
暴かれた罪故に、心が軋む。何故、リュシアンは、このような真似を。またしても、私を裏切るような。
荒れ狂う心のままに、リュシアンを言い募り、彼の背信を責め立てたい。そう、思ったけれど、
(…いいえ、違うわね…)
リュシアンに彼らの捜索を命じたのは、他でもない私自身。「どんなことをしても見つけるうに」と厳命した。私にとって、『神子』にとって、それが至上であることを、リュシアンは誰よりも理解していた。
それでも結局、三年前を境に途切れた彼らの調査報告。半ば諦めていた私は、それ以上、リュシアンに何も言わなかったし、リュシアンも何も言わなかった。だからてっきり、調査は打ち切り、彼も忘れていると思っていたのに―
(…諦めて、いなかったなんて…)
自身の手には負えないと、判断したのだろう。だから、王宮の、王の力を使ってでも、彼は成し遂げたのだ。私の、神子の命を。例えそれが、私の望む形ではなかったとしても。
(…あなたのその忠心に、神子はどうやったら、応えられるのかしらね…?)
決して口にすることのない問いを、振り払う。
「…彼らで、全員なの?」
「何?」
「残りの…探していた者達の残りが、全員ここに居るの?」
こちらの問いに答えたのは、王の隣、憎悪を隠しもせずに睨み付ける男。
「…全員、調査済みだ。一覧に名があって、この場に居ないものは、既に…」
「…そう…」
未だ何か言い足りなさそうな男の視線は無視して、子ども達へと視線を向ける。
一様に、ほの暗い視線。友好的でないのは一目瞭然。彼らのその髪、瞳の色に、忘れ去りたい過去が甦る。
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