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第八章(終章) それでも、私は
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久しぶりにチサと歩く、大学までの道。寒くてたまらないだの、まだ布団に入ってたかっただの、何ならもう勝手に冬休みに突入したいとかグチグチ言いながらも学校に向かうのは、会いたい人が居るから。
昨夜、「また明日学校で」と電話で約束した秀とは、講義の後にオカ研の部室で待ち合わせをしている。早く会いたいなぁなんて思いながら、ニヤけそうになる顔を慌てて引き締めたところで、気づいた。
「…チサ、やばい」
「?」
「私、テンパっててよく覚えて無いんだけど、秀に『好き』って言われた気がする」
「…」
泣きまくってたし、抱き締められてたから、あの時は流してしまったけれど。
「でも、気のせい、いやむしろ、願望からくる幻聴だったかもしれない。あれ?なんか、その可能性の方が高い気がしてきた」
「…確かめればいい」
「え?」
何だかおざなりな答えが返ってきたぞ。
「…花守に、直接、確かめればいい」
それって―
「『ねえ、秀?私のこと好き?』って?」
「…」
頷くチサに思いっきり首を振る。
「ムリムリムリムリ!」
どんな顔してそんなことを言えというのか。そんなハードクエスト受注するくらいなら、ゴルダスの魔要塞を単独撃破する方がまだやれる気がする。
無理だよ無理だよとチサに甘えてみたけれど、返ってきた視線の冷たさに、早々に心が挫けた。
どうするよ。今日、直接会う約束してるのに。いっそ真相が判明するまで逃げる、いやでもそれじゃ、どうやって真相を解明すればいいのか。また、グルグルと考え込みそうになったところで、チサが後ろを振り向いた。
「…本人に確かめるのが一番早い」
「え?」
チサの言葉に、つられて後ろを振り返る。
「明莉ちゃん、お早う」
「っ!?おはよう、ございます」
眩しいくらい、てか、こんな距離まで気づかなかったのかってくらい、近い、秀の笑顔。思わず変な声が出た。
「?どうかした?」
「え、いやー」
目が泳いでいる自信がある。さっきまでのグルグルを思い出して、秀を直視出来ない。
「?」
ん?て顔してる秀も格好いい、なんて現実逃避してたら、今度は私でも気づけた気配。秀の背後、近づいてくるその姿に、面倒だなと思ってしまった。
「明莉!」
「あー、来叶」
「お前、もういいのか?」
「え?あー、うん」
まあ、一応、来叶にも心配かけた気もしないでもない。「大丈夫。ありがとう」と伝えるつもりが、顔を上げても来叶の視線はこちらを向いていない。来叶の視線の先、明らかに睨み付けている相手は秀で、
「お前、明莉の家に居たやつだよな?こいつとどういう関係なんだよ?」
来叶の不躾な質問に、ニッコリ笑ったはずの秀の視線が恐い。
「友人だよ。だけど、僕は明莉ちゃんが好きで、彼女に気持ちも伝えてある」
「えっ!?」
「っ!?」
ノー!!
まさか、こんな形でさっきまでの疑問が解決するなんて。やばい、顔が熱い。これは赤い、確実に赤くなってる。
「明莉!お前はこいつのこと!?」
こちらへ近づこうとした来叶だが、秀とチサの素晴らしい連携プレイに阻まれた。
「邪魔すんじゃねぇ!おい、明莉!お前、本気でこいつが好きなわけじゃないよな!」
秀を『こいつ』呼ばわりする来叶にカチンときた。そもそも、こんなトコで、こんな人前で、そんな質問に答えるわけがない!黙っていれば、代わりに口を開いたのはチサで、
「…明莉、良かった。花守の気持ちが解らなくて、不安がってたから」
「ちょっ!?チサ!?」
「そうなの?明莉ちゃん?」
「っ!?」
秀が嬉しそうだ。恐いニコニコが、本物のニコニコになってる。恥ずかしい。居たたまれない。これは、アレだろうか?私がチサと幸助をくっつけると宣言したことへのチサの意趣返し的な。
確かめるようとチサを見れば、無表情のサムズアップが返ってきた。
「っ!?騙されんなよ!明莉!お前みたいな地味女が男に好かれるわけねぇんだよ!いいように利用されてるだけに決まってんだろ!」
まだ横から何かを叫んでいる来叶に反論しようと口を開きかけて、やっぱりやめた。何も来叶に何かを弁明する必要も、彼を納得させる必要もないのだから―
「…秀、チサ、行こう?講義始まるし」
「!?待て!明莉!」
引き留めようとする来叶の声をBGMに歩き出す。追いかけては来ないが、声を張り上げる来叶―
「明莉!俺はお前のことが!」
そこから先は聞かないことにした。でないと、せっかく秀が言ってくれた『僕は明莉ちゃんが好き』という言葉、その言葉に膨らんだ私の中の温かくて優しい、大事なものが、萎んでしまう気がしたから。
久しぶりにチサと歩く、大学までの道。寒くてたまらないだの、まだ布団に入ってたかっただの、何ならもう勝手に冬休みに突入したいとかグチグチ言いながらも学校に向かうのは、会いたい人が居るから。
昨夜、「また明日学校で」と電話で約束した秀とは、講義の後にオカ研の部室で待ち合わせをしている。早く会いたいなぁなんて思いながら、ニヤけそうになる顔を慌てて引き締めたところで、気づいた。
「…チサ、やばい」
「?」
「私、テンパっててよく覚えて無いんだけど、秀に『好き』って言われた気がする」
「…」
泣きまくってたし、抱き締められてたから、あの時は流してしまったけれど。
「でも、気のせい、いやむしろ、願望からくる幻聴だったかもしれない。あれ?なんか、その可能性の方が高い気がしてきた」
「…確かめればいい」
「え?」
何だかおざなりな答えが返ってきたぞ。
「…花守に、直接、確かめればいい」
それって―
「『ねえ、秀?私のこと好き?』って?」
「…」
頷くチサに思いっきり首を振る。
「ムリムリムリムリ!」
どんな顔してそんなことを言えというのか。そんなハードクエスト受注するくらいなら、ゴルダスの魔要塞を単独撃破する方がまだやれる気がする。
無理だよ無理だよとチサに甘えてみたけれど、返ってきた視線の冷たさに、早々に心が挫けた。
どうするよ。今日、直接会う約束してるのに。いっそ真相が判明するまで逃げる、いやでもそれじゃ、どうやって真相を解明すればいいのか。また、グルグルと考え込みそうになったところで、チサが後ろを振り向いた。
「…本人に確かめるのが一番早い」
「え?」
チサの言葉に、つられて後ろを振り返る。
「明莉ちゃん、お早う」
「っ!?おはよう、ございます」
眩しいくらい、てか、こんな距離まで気づかなかったのかってくらい、近い、秀の笑顔。思わず変な声が出た。
「?どうかした?」
「え、いやー」
目が泳いでいる自信がある。さっきまでのグルグルを思い出して、秀を直視出来ない。
「?」
ん?て顔してる秀も格好いい、なんて現実逃避してたら、今度は私でも気づけた気配。秀の背後、近づいてくるその姿に、面倒だなと思ってしまった。
「明莉!」
「あー、来叶」
「お前、もういいのか?」
「え?あー、うん」
まあ、一応、来叶にも心配かけた気もしないでもない。「大丈夫。ありがとう」と伝えるつもりが、顔を上げても来叶の視線はこちらを向いていない。来叶の視線の先、明らかに睨み付けている相手は秀で、
「お前、明莉の家に居たやつだよな?こいつとどういう関係なんだよ?」
来叶の不躾な質問に、ニッコリ笑ったはずの秀の視線が恐い。
「友人だよ。だけど、僕は明莉ちゃんが好きで、彼女に気持ちも伝えてある」
「えっ!?」
「っ!?」
ノー!!
まさか、こんな形でさっきまでの疑問が解決するなんて。やばい、顔が熱い。これは赤い、確実に赤くなってる。
「明莉!お前はこいつのこと!?」
こちらへ近づこうとした来叶だが、秀とチサの素晴らしい連携プレイに阻まれた。
「邪魔すんじゃねぇ!おい、明莉!お前、本気でこいつが好きなわけじゃないよな!」
秀を『こいつ』呼ばわりする来叶にカチンときた。そもそも、こんなトコで、こんな人前で、そんな質問に答えるわけがない!黙っていれば、代わりに口を開いたのはチサで、
「…明莉、良かった。花守の気持ちが解らなくて、不安がってたから」
「ちょっ!?チサ!?」
「そうなの?明莉ちゃん?」
「っ!?」
秀が嬉しそうだ。恐いニコニコが、本物のニコニコになってる。恥ずかしい。居たたまれない。これは、アレだろうか?私がチサと幸助をくっつけると宣言したことへのチサの意趣返し的な。
確かめるようとチサを見れば、無表情のサムズアップが返ってきた。
「っ!?騙されんなよ!明莉!お前みたいな地味女が男に好かれるわけねぇんだよ!いいように利用されてるだけに決まってんだろ!」
まだ横から何かを叫んでいる来叶に反論しようと口を開きかけて、やっぱりやめた。何も来叶に何かを弁明する必要も、彼を納得させる必要もないのだから―
「…秀、チサ、行こう?講義始まるし」
「!?待て!明莉!」
引き留めようとする来叶の声をBGMに歩き出す。追いかけては来ないが、声を張り上げる来叶―
「明莉!俺はお前のことが!」
そこから先は聞かないことにした。でないと、せっかく秀が言ってくれた『僕は明莉ちゃんが好き』という言葉、その言葉に膨らんだ私の中の温かくて優しい、大事なものが、萎んでしまう気がしたから。
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