異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた

リコピン

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第七章 わすれられない

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4.

彼女の様子が、おかしい―

「明莉ちゃん!?」

突然、動きを止めた彼女が、幽鬼の攻撃をまともに食らってしまった。弾かれた彼女に反射的に駆け出した。僕じゃ、彼女の盾にもならないかもしれないけど―

「明莉!?っ部長!幽鬼を抑えて!」

「くそっ!何がどうなった!?」

チサさんの叫びに、背後で悠司達が法力を発動するのを感じた。一先ずは何とかなる、今は彼女を、

「明莉ちゃん!?」

慌てて駆け寄った彼女は怪我はなさそうなものの、目の焦点が合っていない。こっちを見て欲しくて体を揺さぶるが、反応が返らない。どうする?どうしたら、彼女を守れる―?

「花守!!」

「っ!?」

呼ばれた声に反射的に振り向く。

「門を!この前、解析したやつ!あれを再現する!手伝って!」

「!?」

門を、再現―?

チサさんの口から飛び出した、信じられないような言葉。だけど、彼女がそれをやるというのなら―

「…明莉ちゃん、ちょっとだけ、待ってて」

一人にするのは心配でたまらない。だけど、今、自分が成すべきことがある。チサさんに駆け寄れば、彼女の手元から生まれるエネルギーを感知する。

「私の分析だけじゃ、門の再現に足りない。花守、あなたの知識、思考力がいる」

「僕はどうすればいい?」

「あなたの頭の中を勝手に覗く。多分、あなたが結構しんどい。でも、やる」

「…わかった」

チサさんと向かい合う。彼女の両手から溢れるエネルギーに包まれた。

瞬間―

激しい目眩と頭痛に、思わず膝をついた。気が遠くなる。

「倒れちゃダメ。意識を保って」

遠ざかる意識の向こうで聞こえた声に、歯を食い縛った。閉じた目の奥、グルグルと無秩序な場面がフラッシュバックしていく。指一本動かせずにそれに耐え続ける。

時間にすれば僅かなものだったのだろう。拷問のような時間は唐突に終わった。

「花守、終わった。ありがとう、これでやれる」

「…」

頭の上で聞こえるチサさんの声。浅い呼吸を繰り返しながらその言葉の意味を理解する。彼女を見上げれば、そこに膨らんでいくのは、馴染みのある幽界の気配と僅かに混じる不可思議な気配。

この、感じは―

かつて、二度だけ感じたことのある気配。立て続けに発生し、しかし、結局、見つけることの出来なかった、あの時の。初めて、彼女達と出会ったあの場所で感じた、

―ああ、そうか

幽界への門を形成していく小柄な背中を見ながら、合点がいった。あれは、彼女の―

「花守!もうすぐ貫通する!どこか歪みは無い!?」

「大丈夫!完全に繋がってる!」

背中を向けたままの彼女の問いに答える。

「部長!幽鬼を!押し込んで!」

「!?そういうことかよ!おっし!」

悠司達の法力の指向性が変わった。幽鬼が、門の方へと押しやられる。

「花守!門を見て!私の力じゃ維持だけで限界!歪みを教えて!」

「三時方向!強度が足りてない!」

「!」

指摘すれば、直ぐに歪みは解消される。本当に、世界を繋ぐ門を一人で構築してしまうなんて、目の前の少女の持つ力に戦慄した。

彼女が門の調整をしている間にも、幽鬼がジリジリと門の方へと後退していく。腕を振り回し抵抗しようとしているが、それも、別の方向から飛んでくる呪によって瞬時に縛られてしまう。

「よし!もうちょいだ!一気に押し込め!!」

「グギャァァァア!!」

限界まで高められた法力の集中砲火を受けた幽鬼が、咆哮を上げながら門の中へと落ちていく。それを見届けたチサさんが両手を降ろした。そのまま崩れ落ちていく小さな体、門が消失した。

「チサさん!」

「秀、佐藤は俺が見とく。お前は橋架はしかけを」

「…任せる」

明莉ちゃんのところへ―

近づいた彼女は自分の膝を抱えてうずくまっていた。伏せられた顔、彼女の表情が見えない。

「…明莉ちゃん?」

「…」

反応が無いことに、堪らなく不安になる。

「大丈夫?病院に行こうか?うちのかかりつけ医を呼ぶ?」

「…」

今度は首を振って応えた彼女。ようやく反応があったことに僅かに安堵した。

「病院は嫌なんだね?明莉ちゃんはどうしたい?」

「…」

「え?」

小さく囁かれた声を拾えずに、彼女の口元へと耳を寄せる。もう一度、呟かれた言葉、

「…うちに、かえりたい」

「…うん、わかった。帰ろう?送るよ」

初めて聞く、彼女のものとは思えないほど、力の無い声。彼女に何があったのか、何をしてあげられるのか。何一つわかってあげられない。

いつか、彼女が怪我を負ったあの時よりも。今、自分の無力が無性に腹立たしい。




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