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第六章 元勇者とお姫様
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―なぜ、屋外?
「綺麗な格好して来い」と言う部長の言いつけを守って、一応よそ行きワンピースで決めて来ているけれど。総会とやらが、まさか屋外であるとは。
私が想像していた『会議室で難しい顔をして』という要素は一切ない、何やら華やか~な雰囲気に包まれた会場、@ホテルの中庭。これは会議の類いではなく、所謂ガーデンパーティーというものでは?
思わず、隣に立つ男を恨めしげに見上げる。心の準備の仕方を間違ってしまったのは、この男の説明不足のせいだ。
「あ?どうした?」
視線に気づいた男が、手にしていたグラスを口元から離す。何だよ、その格好は?アロハはどうした、アロハは?呪術的なあれじゃなかったのか?ジャケットなんかでビシッと決めて。まあ、そういう格好をしてると大分イイ男風であることは認めよう。だが、それとこれとは話が別だ。
「…部長の嘘つき。秀、来てないじゃないですか」
見渡すかぎりのきらびやかな集団に、彼の姿はない。その気配も―
「あー、お前が来るって言ってないからな」
「?」
「何もなきゃ、総会なんて張り切って参加したいもんでもねぇんだよ。多分遅れてくるつもりなんだろうな。閉会までには顔出すと思うぜ?」
部長の言葉に周囲を見渡す。確かに、こちらを遠巻きにするような雰囲気には先程から居心地悪いものを感じている。私が新参者だからこの扱いかと思っていたけれど、部長や秀も同じような扱いなのだろうか?
「この手の集会を完全にバックレると、後がうるせえんだよ」
経験者なのか、心底嫌そうに部長が吐き出す言葉には実感がこもっていた。
突然―
会場の一角で、大きな歓声があがった。既にある人だかりに、吸い寄せられるように次々と人が集まっていく。
「お出ましだな」
「?」
人だかりを眺める部長の言葉に、ざわめきの中心を目を凝らして見てみる。見えた。あ、これ何かスキル働いたなってわかるくらいはっきり見えた。
透明感のある色白の肌、モデルさんのような整った顔立ちとスタイル。まさに、お人形のように可愛い女の子が、大勢の人間に囲まれて穏やかに微笑んでいる。
「あれが、朱桃家のお姫様、『朱桃菖』だ。朱桃ってのは、俺達五家の筆頭だな」
彼女の周囲を、老若男女を問わず大勢の人間が取り囲み、二重三重の人の垣根が出来てしまっている。
「朱桃の家は、一番古くから幽鬼と戦ってきた一族だ。古い分、『見る力』は強いが、そこから派生した『戦う力』についてはそれほど強くない」
「部長や秀のおうちはどうなんですか?」
「『花守』は、その朱桃家から『戦う力』に特化した分家として生まれたんだよ。朱桃家を守る役目を担ってな」
『花守』は、本来なら戦闘力に優れた一族だった―
「その後、他の三家がそれぞれ生まれたわけなんだが、守役の筆頭は変わらず花守のままだった。今までは、な」
部長の苦々しげな顔は、秀の、『花守』の家の苦労を思っているのだろう。
「今の花守には戦える奴が居ない。秀は『見る力』に関しては馬鹿みたいに優秀なんだが、『戦う力』については、はっきり言ってゼロだ」
部長が、深くため息をついた。
「…当たり前なんだよ」
「?」
「花守は朱桃と血が近しい。幾度も婚姻を結ぶことで互いの結束を強めてきたからな。お姫様と秀だって従兄妹同士だ。だがそれは、同時に花守から『戦う力』を奪っちまった。『見る力』へ、血が傾いてしまった結果な」
だとしたら尚更、辛いだろうな。秀にとって、本来の役目を果たすことが出来ない現状は。
「秀だけじゃない。花守には今、戦える奴が一人も居ない」
―なぜ、屋外?
「綺麗な格好して来い」と言う部長の言いつけを守って、一応よそ行きワンピースで決めて来ているけれど。総会とやらが、まさか屋外であるとは。
私が想像していた『会議室で難しい顔をして』という要素は一切ない、何やら華やか~な雰囲気に包まれた会場、@ホテルの中庭。これは会議の類いではなく、所謂ガーデンパーティーというものでは?
思わず、隣に立つ男を恨めしげに見上げる。心の準備の仕方を間違ってしまったのは、この男の説明不足のせいだ。
「あ?どうした?」
視線に気づいた男が、手にしていたグラスを口元から離す。何だよ、その格好は?アロハはどうした、アロハは?呪術的なあれじゃなかったのか?ジャケットなんかでビシッと決めて。まあ、そういう格好をしてると大分イイ男風であることは認めよう。だが、それとこれとは話が別だ。
「…部長の嘘つき。秀、来てないじゃないですか」
見渡すかぎりのきらびやかな集団に、彼の姿はない。その気配も―
「あー、お前が来るって言ってないからな」
「?」
「何もなきゃ、総会なんて張り切って参加したいもんでもねぇんだよ。多分遅れてくるつもりなんだろうな。閉会までには顔出すと思うぜ?」
部長の言葉に周囲を見渡す。確かに、こちらを遠巻きにするような雰囲気には先程から居心地悪いものを感じている。私が新参者だからこの扱いかと思っていたけれど、部長や秀も同じような扱いなのだろうか?
「この手の集会を完全にバックレると、後がうるせえんだよ」
経験者なのか、心底嫌そうに部長が吐き出す言葉には実感がこもっていた。
突然―
会場の一角で、大きな歓声があがった。既にある人だかりに、吸い寄せられるように次々と人が集まっていく。
「お出ましだな」
「?」
人だかりを眺める部長の言葉に、ざわめきの中心を目を凝らして見てみる。見えた。あ、これ何かスキル働いたなってわかるくらいはっきり見えた。
透明感のある色白の肌、モデルさんのような整った顔立ちとスタイル。まさに、お人形のように可愛い女の子が、大勢の人間に囲まれて穏やかに微笑んでいる。
「あれが、朱桃家のお姫様、『朱桃菖』だ。朱桃ってのは、俺達五家の筆頭だな」
彼女の周囲を、老若男女を問わず大勢の人間が取り囲み、二重三重の人の垣根が出来てしまっている。
「朱桃の家は、一番古くから幽鬼と戦ってきた一族だ。古い分、『見る力』は強いが、そこから派生した『戦う力』についてはそれほど強くない」
「部長や秀のおうちはどうなんですか?」
「『花守』は、その朱桃家から『戦う力』に特化した分家として生まれたんだよ。朱桃家を守る役目を担ってな」
『花守』は、本来なら戦闘力に優れた一族だった―
「その後、他の三家がそれぞれ生まれたわけなんだが、守役の筆頭は変わらず花守のままだった。今までは、な」
部長の苦々しげな顔は、秀の、『花守』の家の苦労を思っているのだろう。
「今の花守には戦える奴が居ない。秀は『見る力』に関しては馬鹿みたいに優秀なんだが、『戦う力』については、はっきり言ってゼロだ」
部長が、深くため息をついた。
「…当たり前なんだよ」
「?」
「花守は朱桃と血が近しい。幾度も婚姻を結ぶことで互いの結束を強めてきたからな。お姫様と秀だって従兄妹同士だ。だがそれは、同時に花守から『戦う力』を奪っちまった。『見る力』へ、血が傾いてしまった結果な」
だとしたら尚更、辛いだろうな。秀にとって、本来の役目を果たすことが出来ない現状は。
「秀だけじゃない。花守には今、戦える奴が一人も居ない」
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