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第五章 近づいたり、離れたり
7.
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7.
次の日から、気がつけば来叶が傍にいる。避けようにも、講義室では既に着席している私の隣に座ってくるので避けようがない。学食でも同じ現象が起きる。移動中に遭遇しても寄ってくる。
キラキラ集団から離れて話し相手が欲しいんだろうとは思うけど、何故、それが私なのか。今までではあり得ないチョイス。正直、かなり鬱陶しいが、避けるために労力をさく元気が私に無い。
「うー、会いたい人には会えないのに」
「会いたいの?」
カフェテリアでの一時。ついつい溢れた愚痴を、向かいに座るチサに拾われてしまった。『誰に』とは聞かれなかったけれど、チサさんならお見通しだろう。
「…会いたい、なあ」
「会いに行けばいい」
「そうなんだよね。会いに行けばいいだけなんだけど」
「何の話だ?」
背後から話に入ってきた人物に、ため息が漏れる。
「…何でもないよ」
「んだよ」
不機嫌になった来叶だけれど、結局、立ち去らずにそのまま隣に座ってくる。それに対して思うところはあるものの、反応する元気も追い払う気力もない。私、自分で思っていた以上に重症かもしれない。
「…明莉、あそこ」
「んー?」
テーブルに沈もうとしていたところを、チサの声に顔を上げた。チサの指差す先に、ノロノロと視線を向ける。
「!?」
視界に入った人物に、慌てて立ち上がる。カフェテリアの入口、その人の元へと早足で向かった。
「秀!」
「…久しぶりだね」
「うん!」
「話中みたいだったけど、邪魔してごめんね?」
「いやいや、全然!」
邪魔される要素は何も無かったから。
「…あっちの彼は、明莉ちゃんの?」
「うん。友達?ではないけど、幼馴染みなんだ」
「…そうなんだ。仲がいいんだね」
「仲良くはないよー。腐れ縁ってだけで。秀は?お茶しに来たの?」
それなら、是非ともご一緒したい。
「ううん。明莉ちゃんを見かけたから、ちょっと顔を出しただけだよ」
「そうなの?えーっと、じゃあ、良かったら、一緒に」
「ごめんね?これから用事があって、帰るところなんだ」
「…そっかぁ」
断られた。あれ?これは結構クル、ね。
「…それじゃあ」
申し訳なさそうにしながらも、手を振って出ていく秀に手を振り返す。その背を見送って、ますます気分が落ち込んでいく。
―無かったなあ、「またね」が
思いっきり沈んだままチサの元に戻ると、盛大に不機嫌な来叶の「あの男は誰だ」攻撃が始まった。鬱陶しさのあまり席を立ち、チサと二人で家へ帰り始めたのだが、諦めない男がしつこくついてくる。家までついて来られるのは流石に勘弁して欲しい。根負けして、口を開いた。
「…さっきの人は、サークルの先輩」
「…お前、サークル入ってんのか?」
「うん」
答えた、話は終わりだとさっさと帰ろうとすると、今度は腕を捕まれた。
「どこのサークル?」
「何で?」
「別に、面白そうなら俺も入ってもいいかと思ったんだよ」
「テニスサークルは?」
捕まれた腕を振り払う。
「辞めた。テニスなんか全然しないで遊んでばっかのサークルだったからな。くだらねえ」
「…」
そんなことは入る前にわかっていそうなものだけど。来叶だって、別に本気でテニスに打ち込みたいわけではないだろうし。
「そんで、何のサークルなんだよ?」
「『オカルト研究サークル』」
「…」
目の前の顔がひきつった。その口から「俺も入る」という言葉は出てこない。まあ、そうだろう。来叶はオカルト系にものすごく弱い。それがわかっているからこそ、彼の質問に答えたわけだけど。
怯んだ来叶を放って、今度こそ帰途につく。浮かぶのは、カフェで会った秀の顔。
久しぶりにあった。いつもみたいに笑ってくれなかった。どことなく辛そうだったのは、どうして?言いたいことも、聞きたいこともたくさんあるのに。
―強く、なったと思ってたんだけどなぁ
次の日から、気がつけば来叶が傍にいる。避けようにも、講義室では既に着席している私の隣に座ってくるので避けようがない。学食でも同じ現象が起きる。移動中に遭遇しても寄ってくる。
キラキラ集団から離れて話し相手が欲しいんだろうとは思うけど、何故、それが私なのか。今までではあり得ないチョイス。正直、かなり鬱陶しいが、避けるために労力をさく元気が私に無い。
「うー、会いたい人には会えないのに」
「会いたいの?」
カフェテリアでの一時。ついつい溢れた愚痴を、向かいに座るチサに拾われてしまった。『誰に』とは聞かれなかったけれど、チサさんならお見通しだろう。
「…会いたい、なあ」
「会いに行けばいい」
「そうなんだよね。会いに行けばいいだけなんだけど」
「何の話だ?」
背後から話に入ってきた人物に、ため息が漏れる。
「…何でもないよ」
「んだよ」
不機嫌になった来叶だけれど、結局、立ち去らずにそのまま隣に座ってくる。それに対して思うところはあるものの、反応する元気も追い払う気力もない。私、自分で思っていた以上に重症かもしれない。
「…明莉、あそこ」
「んー?」
テーブルに沈もうとしていたところを、チサの声に顔を上げた。チサの指差す先に、ノロノロと視線を向ける。
「!?」
視界に入った人物に、慌てて立ち上がる。カフェテリアの入口、その人の元へと早足で向かった。
「秀!」
「…久しぶりだね」
「うん!」
「話中みたいだったけど、邪魔してごめんね?」
「いやいや、全然!」
邪魔される要素は何も無かったから。
「…あっちの彼は、明莉ちゃんの?」
「うん。友達?ではないけど、幼馴染みなんだ」
「…そうなんだ。仲がいいんだね」
「仲良くはないよー。腐れ縁ってだけで。秀は?お茶しに来たの?」
それなら、是非ともご一緒したい。
「ううん。明莉ちゃんを見かけたから、ちょっと顔を出しただけだよ」
「そうなの?えーっと、じゃあ、良かったら、一緒に」
「ごめんね?これから用事があって、帰るところなんだ」
「…そっかぁ」
断られた。あれ?これは結構クル、ね。
「…それじゃあ」
申し訳なさそうにしながらも、手を振って出ていく秀に手を振り返す。その背を見送って、ますます気分が落ち込んでいく。
―無かったなあ、「またね」が
思いっきり沈んだままチサの元に戻ると、盛大に不機嫌な来叶の「あの男は誰だ」攻撃が始まった。鬱陶しさのあまり席を立ち、チサと二人で家へ帰り始めたのだが、諦めない男がしつこくついてくる。家までついて来られるのは流石に勘弁して欲しい。根負けして、口を開いた。
「…さっきの人は、サークルの先輩」
「…お前、サークル入ってんのか?」
「うん」
答えた、話は終わりだとさっさと帰ろうとすると、今度は腕を捕まれた。
「どこのサークル?」
「何で?」
「別に、面白そうなら俺も入ってもいいかと思ったんだよ」
「テニスサークルは?」
捕まれた腕を振り払う。
「辞めた。テニスなんか全然しないで遊んでばっかのサークルだったからな。くだらねえ」
「…」
そんなことは入る前にわかっていそうなものだけど。来叶だって、別に本気でテニスに打ち込みたいわけではないだろうし。
「そんで、何のサークルなんだよ?」
「『オカルト研究サークル』」
「…」
目の前の顔がひきつった。その口から「俺も入る」という言葉は出てこない。まあ、そうだろう。来叶はオカルト系にものすごく弱い。それがわかっているからこそ、彼の質問に答えたわけだけど。
怯んだ来叶を放って、今度こそ帰途につく。浮かぶのは、カフェで会った秀の顔。
久しぶりにあった。いつもみたいに笑ってくれなかった。どことなく辛そうだったのは、どうして?言いたいことも、聞きたいこともたくさんあるのに。
―強く、なったと思ってたんだけどなぁ
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