上 下
37 / 65
第五章 近づいたり、離れたり

6.

しおりを挟む
6.

「よぉ、久しぶり。学校じゃなかなか会わないよな」

「久しぶり。確かに、全然会わなかったね」

遠目には見かけたし、目が合うことも何度かあったのだけれど。そんな時は直ぐに目をそらされたし、来叶らいとが近寄ってくることなんてなかった。なのに。

「…」

「…」

「あのさ、ちょっと、話、しないか?」

来叶らいとが?私と?」

一体どういう心境の変化があったというのか、マジマジ見つめてしまう。ばつの悪そうな顔が下を向いた。

「悪かったよ、昔のことは。その話もしたいからさ、どっかで飯でも食おうぜ?」

「うん、まあ、いいよ。今は時間あるし」

美歌に「ライトに会ったら話してみる」って約束したし。

「じゃあ、駅前の、」

「いや、そこのカフェテリアにしよう」

立っている場所からもよく見える、学内カフェテリアを指差した。

「はぁ?何で、あんなとこ。もっと、駅前のさ」

「そんなとこまで行かないよ。美味しいよ。カフェのコーヒー」

「…」

渋々だか、頷いた来叶。先に帰ると言うチサとは別れ、大きなガラス張りの明るい店内へと足を踏み入れた。

「あ、来叶の話の前に、言っとかないと。美歌がね?寂しがってたよ、来叶に会えなくて」

「…いいんだよ、あいつのことは、もう」

「え?もういいって、どういうこと?」

もしや―

「別れちゃったの?美歌と」

「…まあな、遠距離なんてそんなもんだろ」

不機嫌そうではあるけど、落ち込んではいなさそうな来叶。いや、それにしても、

―マジかぁ

美歌と会ってから三ヶ月くらいしか経っていないのに。展開が、急過ぎる。

「うん、でも、まあ、そっか。それは二人の問題だもんね。わかった、外野はこれ以上は言わない。黙っとく」 

面倒なことには巻き込まれまい。

「…お前は?」

「うん?」

「誰かと付き合ってんのか?」

「!?いやいやいや!」

『誰か』で、一瞬浮かんでしまった彼の顔。素直すぎる自分の欲望を、首を振って思いっきり否定する。

「ふーん、まあ、そうだろうな」

「…」

何だその反応は。まあ、確かに私に彼氏がいないことは不思議でも何でもないけど。その「当然だな」みたいな納得のされ方は、それはそれで腹が立つ。

「お前さ、明日、何限から?」

「?三限からだけど?」

「岡島教授の講義だよな?俺、二限からあるからさ、お前、早めに出てこいよ。どっかで一緒に昼飯食ってから三限出ようぜ。そこでゆっくり話してさ、」

「…何で?」

ちょっと、本気で来叶が何を言ってるのかわからない。

「何でって…」

いやいや、そんな「信じられない」みたいな顔されても。私の方が意味がわからん。

「何で急にそんなこと言い出したの?いつも一緒にいる人達は?」

きらびやかな一団がいつも一緒にいるではないか。お昼だって、講義だって、彼らととればいい。

「あいつらは…」

「…?」

「あいつらとは話が合わねえんだよ。どこに旅行に行ったとか、誰のパーティー呼ばれたとか、話題がくだらなすぎる。大学に遊びに来てるだけなんだよ。自己中なやつらばっかだし」

「…」

「馬鹿なやつらと付き合ってたら、こっちが疲れる」

それからも、少なくともしばらくは友人だったであろう人達に対する愚痴を延々と垂れ流す来叶の話を聞いていたけれど、何か、ようするに、僻みにしか聞こえない。

来叶はイケメンだ。地元では有名だったし、高校では、他校でも名が知られていたくらいには。それに、難関大学と言われる晴山に入れるだけの頭の良さもある。

だけど、それはあくまで地元での、高校までの話でしかない。晴山は流石に都会にあるだけあって、客観的に見て、来叶よりイケメンはたくさんいる。皆、同じ大学に通っているのだから、頭の良さも来叶の優位にはならない。大学から始めたテニスに関しても、今から大活躍出来るほどの運動神経は持ち合わせていない。

高校までとは、周囲の評価がまるで違う―

それが、来叶の愚痴の端々から感じられた。

まだまだ続きそうなその愚痴を遮って、引き止める来叶に別れを告げて席を立つ。もちろん、明日のランチも断った。

店を出ても、来叶は追って来ない。席を立った時に慌ててはいたけれど、まあ、彼の性格上「追う」ことはしないだろう。のんびり歩いて50メートルほど店を離れたところで、声をかけられた。

「ねえ、あなた嘉島かしま来叶の新しい彼女?」

「…彼女じゃないよ」

「ふーん」

初対面の女の子からの喧嘩腰の第一声にも驚くが、その「ふーん」は何だ。更に言えば、相手をジロジロ見るのも失礼だよ。

「まあ、あいつのタイプじゃないか。でも、一応言っておくけど、嘉島来叶には関わらない方がいいよ?」

「それは自分で決めるんで」

関わるつもりはないけど、それを人に決められるつもりもない。

「…何よ、こっちは親切で言ってんだけど。アイツに関わって痛い目見るのはアンタだから!」

言うだけ言うと、ふん、と鼻息荒く去っていってしまった。確か、来叶と同じキラキラ集団に居た子だとは思うんだけど。

何だったんだ、一体。




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

聖女になんかなりたくない少女と、その少女を聖女にしたがる王子の物語

真理亜
恋愛
聖女求む! 第2王子リシャールは国を救い自身の婚約者となる予定の聖女を必死に追い求めていた。 国中探し回ってやっと見つけた!...と思ったら、なんかこの聖女思ってたのと違う!? 見た目は超絶美少女なのに中身はまだ子供!? しかも冒険者やってて魔法バンバン打ちまくるし、弓の腕前も一流だし。 聖女にはならないとか言い出すし... どうすればいいんだ!? 自由奔放な聖女に振り回される王子の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜

アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。 そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。 とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。 主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────? 「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」 「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」 これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラや攻略不可キャラからも、モテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます

富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。 5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。 15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。 初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。 よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!

処理中です...