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第四章 夏合宿で開いた門
8.
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8.
―夜明けまでまだ少しあるから、宿に帰って朝まで寝てろ
部長の言葉に従って、またテクテクと夜道を歩いて港まで戻った。辿り着いた民宿で、シャワーを浴びて早々に布団に入る。文明の利器、冷暖房完備って素晴らしい。
布団の中、横になって暗い天井を見上げれば、浮かんでくるのはさっき見たばかりの奇妙な生き物?の姿。
「チサ、あれ、何だったと思う?」
「…向こうで、魔王が出現した時と似ていた。あいつの配下で増えたモンスターとも」
「チサもそう思った?私は魔王が現れたとこは見てないけど、モンスターが沸くところは何度か見たことあるんだ。…似てたよね?」
「…」
見えないけれど、この沈黙は多分肯定。つまり、
「チサが『オカルト』に興味を持ったのって、あちらの世界との共通点を感じたから?」
「始めは違う。ただの興味。だけど河川敷で、本当に一瞬だけ、気配を拾った。その気配が、奴らに似てた」
「そういうことかぁ」
大魔導師モードが発動するほどに興味をひかれていたから、何事かと思ったけれど。うん、納得した。
「…明莉は?」
「んー?」
「…使ってた。『ゴースト』系のモンスターに対する攻撃スキル」
「あー、あれね?『物理無効無効』」
ゴースト退治で手にいれたスキル。本来なら物理攻撃の効かない相手を、その特性を無視して攻撃できる。師匠がつけてくれた正式名称は何かもっと学術的だったけど、長すぎて忘れた。
魔法のある異世界と言っても、ステータスが見えたり、スキル名が脳裏に浮かんだりするわけではなかったから、一個一個のスキルをきちんと覚えてなんていられない。決して私の物覚えが悪かったわけでは―
「いつから気づいていた?スキルが使えること」
「んー、何か、色んなことに鈍くなったというか。幽霊も、前ほど怖くなくなったし、来叶達とゴタゴタした時も割りと平気だったんだよね。そんなに落ち込まなかったというか、直ぐに復活出来た」
だから―
「なんか、精神系のスキル働いてるんじゃないかなーって」
確信に近いものではあったけれど。チサ同様、はっきりわかるまでは、何となく口にすることも躊躇われたのだ。
「…アカリ、平気?」
「うん」
「本当に?」
唐突な言葉。チサが何度も念を押すのは、多分、私の精神面を心配してくれているから。こうなりそう、と言うか、チサが気にするかもしれないと思ったからこそ、スキルについて黙っていたというのもある。
「本当に大丈夫だよ。師匠に特訓受けてた頃にね、バルドの館で24時間耐久ゴースト退治をやったことがあってね?」
ゴースト系をボコボコに殴り続けるという、単純作業の繰返し。ただし、不眠不休で24時間。
「師匠の目的としては『魅了』とか『干渉』とかの精神汚染系に対する耐性をつけさせたかったんだろうけど。その時ついでに『恐怖耐性』やら『平常心』やらのパッシブスキルもゲットしちゃったんだよね。多分、それが働いてるだけだから」
「…あの、脳筋女」
チサさんの声が低くなった。暗闇でもわかる。これは相当に怒っていらっしゃる。師匠にはセインジの祠やパルサスの地下迷宮にも連れていかれたんだけど、これは黙っておこうと思う。
「まあ、そういうわけだけど、うん、私は私に出来ることをするだけだからさ。嫌だったり、しんどかったりしたら、ちゃんと言うよ?」
「…」
「そもそも、無理なものを頑張れるほど根性無いから、私。安心して?」
これは、謙遜でも何でもない、本当のこと。
「…それでも、心配はする」
「私も、チサのことは心配するよ。じゃあ、お互い様と言うことで」
「…」
「よし!寝よう、チサ。ちょっとだけでも。でないと、明日しんどい」
それ系のスキルもあったはずだから、本当に『しんどい』と感じてしまった時は、スキルが働いてしまうだろうけど―
「…おやすみ」
「おやすみー」
言葉と同時に、目を閉じた。
本当に、心配なんてしなくていいのに。私はそんなに強くない。だから、無理をしようにも、しようがないから。ただ私は、私の力の及ぶ範囲で、大切な人たちを守りたいだけなのだ。
―夜明けまでまだ少しあるから、宿に帰って朝まで寝てろ
部長の言葉に従って、またテクテクと夜道を歩いて港まで戻った。辿り着いた民宿で、シャワーを浴びて早々に布団に入る。文明の利器、冷暖房完備って素晴らしい。
布団の中、横になって暗い天井を見上げれば、浮かんでくるのはさっき見たばかりの奇妙な生き物?の姿。
「チサ、あれ、何だったと思う?」
「…向こうで、魔王が出現した時と似ていた。あいつの配下で増えたモンスターとも」
「チサもそう思った?私は魔王が現れたとこは見てないけど、モンスターが沸くところは何度か見たことあるんだ。…似てたよね?」
「…」
見えないけれど、この沈黙は多分肯定。つまり、
「チサが『オカルト』に興味を持ったのって、あちらの世界との共通点を感じたから?」
「始めは違う。ただの興味。だけど河川敷で、本当に一瞬だけ、気配を拾った。その気配が、奴らに似てた」
「そういうことかぁ」
大魔導師モードが発動するほどに興味をひかれていたから、何事かと思ったけれど。うん、納得した。
「…明莉は?」
「んー?」
「…使ってた。『ゴースト』系のモンスターに対する攻撃スキル」
「あー、あれね?『物理無効無効』」
ゴースト退治で手にいれたスキル。本来なら物理攻撃の効かない相手を、その特性を無視して攻撃できる。師匠がつけてくれた正式名称は何かもっと学術的だったけど、長すぎて忘れた。
魔法のある異世界と言っても、ステータスが見えたり、スキル名が脳裏に浮かんだりするわけではなかったから、一個一個のスキルをきちんと覚えてなんていられない。決して私の物覚えが悪かったわけでは―
「いつから気づいていた?スキルが使えること」
「んー、何か、色んなことに鈍くなったというか。幽霊も、前ほど怖くなくなったし、来叶達とゴタゴタした時も割りと平気だったんだよね。そんなに落ち込まなかったというか、直ぐに復活出来た」
だから―
「なんか、精神系のスキル働いてるんじゃないかなーって」
確信に近いものではあったけれど。チサ同様、はっきりわかるまでは、何となく口にすることも躊躇われたのだ。
「…アカリ、平気?」
「うん」
「本当に?」
唐突な言葉。チサが何度も念を押すのは、多分、私の精神面を心配してくれているから。こうなりそう、と言うか、チサが気にするかもしれないと思ったからこそ、スキルについて黙っていたというのもある。
「本当に大丈夫だよ。師匠に特訓受けてた頃にね、バルドの館で24時間耐久ゴースト退治をやったことがあってね?」
ゴースト系をボコボコに殴り続けるという、単純作業の繰返し。ただし、不眠不休で24時間。
「師匠の目的としては『魅了』とか『干渉』とかの精神汚染系に対する耐性をつけさせたかったんだろうけど。その時ついでに『恐怖耐性』やら『平常心』やらのパッシブスキルもゲットしちゃったんだよね。多分、それが働いてるだけだから」
「…あの、脳筋女」
チサさんの声が低くなった。暗闇でもわかる。これは相当に怒っていらっしゃる。師匠にはセインジの祠やパルサスの地下迷宮にも連れていかれたんだけど、これは黙っておこうと思う。
「まあ、そういうわけだけど、うん、私は私に出来ることをするだけだからさ。嫌だったり、しんどかったりしたら、ちゃんと言うよ?」
「…」
「そもそも、無理なものを頑張れるほど根性無いから、私。安心して?」
これは、謙遜でも何でもない、本当のこと。
「…それでも、心配はする」
「私も、チサのことは心配するよ。じゃあ、お互い様と言うことで」
「…」
「よし!寝よう、チサ。ちょっとだけでも。でないと、明日しんどい」
それ系のスキルもあったはずだから、本当に『しんどい』と感じてしまった時は、スキルが働いてしまうだろうけど―
「…おやすみ」
「おやすみー」
言葉と同時に、目を閉じた。
本当に、心配なんてしなくていいのに。私はそんなに強くない。だから、無理をしようにも、しようがないから。ただ私は、私の力の及ぶ範囲で、大切な人たちを守りたいだけなのだ。
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