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第四章 夏合宿で開いた門

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完全武装―

長袖長ズボンに帽子。木の生い茂り具合から逆に必要無いかもしれないけれど、日焼け止めも塗りまくった。虫除けはスプレータイプだから、外に出てから塗装しよう。

民宿の玄関を出て、隅っこでスプレーを盛大に噴射させていると、何やら大きな荷物を抱えた花守さんが通りかかった。

「あれ?明莉あかりちゃん達、海に行かないの?」

「うん、ちょっと山登ってくる」

民宿の裏手に広がる雑木林を、格好よく親指で指し示す。途端、真面目な顔になる花守さん。外したか。反応が良くない。

「二人で行く、んだよね?危なくないかな」

「大丈夫でしょー。何かあったら、電話する」

「うーん。やっぱりちょっと待っててくれる?誰か此処に残る人つかまえて後を任せてくるから。僕も一緒に連れてって欲しい」

山登りリーダーであるチサを振り向けば、無言の頷きが返ってきた。

「わかった。待ってるね」

「ありがとう」

そう言って、民宿の中に入っていった花守さんを待つことしばし。五分も経たない内に戻ってきた彼だったけど―

「…増えた」

「本当だ」

彼の後ろには、何故か、見慣れたアロハシャツが。

「悪いな、待たせた。じゃあ、行くか?」

「…そして、すごいナチュラルに合流してくる」

「いいじゃねえか。俺も連れてけよ。面白そうだから」

「ごめんね?途中で見つかっちゃって」

申し訳なさそうな花守さんが可哀想だったし、リーダーがアロハの存在をあまり気にする様子が無かったので、結局、いつぞやの四人で山登りを開始することにした。

緩い登り坂を、どうでもいい話をしながらゆっくりと上っていく。

「部長、山でもアロハなんですね?危なくないんですか?」

「あ?平気だろ?これくらい。お前らの方こそ、暑くねえのか?その格好」

何を言っているのだろう、このアロハは。暑いに決まっている。アロハにイライラするくらい暑い。だけど、

「山をなめないで下さい!」

「山?これ山か?山ってほどは、」

「花守さんは去年も来たんだよね、ここ。何か面白いことあった?具体的にはチサが喜びそうな何か」

「…無視か」

裏山サイズでも山は山。虫とか、いっぱい居るって言っていたじゃないか。山以外のなんだと言うのだ。

「僕は特に何も無いかな。毎年、面白い写真は撮れるらしいんだけどね?」

「…この辺」

獣道さえ無かった林の中、チサが突然立ち止まったのは、他よりは若干拓けているように見えなくもない場所。倒木があるせいか、草は生え放題だけど空が見えていて、他よりは少し明るい気がする。

「この辺?何かあるの?」

「…」

「うっ!?」

チサに、無言で差し出された写真。うっかり直視してしまった。写っているのは木々の生い茂る中、白いモヤのようなものが浮かんでいるだけ。血だらけのナニかじゃなかったから、叫ばずに済んだ。

「…この木の角度から、あの辺りをこっちから撮ったもの」

説明しながら、チサが白いモヤが写っている場所へと移動していく。チサの無防備っぷりから、危ない気配は無いのだろうけど。

「…ここ」

立ち止まったチサが、花守さんを振り返る。

「…何か、感じる?」

「いや、何も」

首を振る花守さんに、チサが納得したように頷き返した。

「…戻る」

「え!?もう、おしまい??」

「あと五ヶ所、まわる」

「!?」

普段はインドアなチサがここまでアクティブになるなんて。完全に、研究対象に没頭する大魔導師様になっていらっしゃる。




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