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第四章 夏合宿で開いた門

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第一印象は、「誰だよ、こんなとこ見つけたのは」だった。

オカルト研究会の恒例行事だという夏合宿。その内、ここ十年ほどお世話になっているらしい「狭島さしま」。無人島ではないし、海の向こうには船で出てきた港もうっすらと見えてはいる。だけどまあ、何というか、うん、雰囲気は抜群だ。

しかも、宿泊施設となる南風なんぷう荘は海の見える丘?森?にポツンと一軒だけある民宿で、夏のみの営業。電気とガスは通っているものの、常駐のスタッフも居ない。オーナーは、地元の人達の住む町、島の反対側にご在住らしい。

こんな人里離れたところでなんかあったらどうすんだ?と思ったけれど、「携帯の電波は繋がるから大丈夫」ということらしい。どう見てもインドアな方々にしか見えないサークルメンバーの妙なアグレッシブさに戦く。

橋架はしかけ、いいから諦めてさっさと中に入れ」

「…うぃーっす」

私はジャパニーズホラーも好きではないけれど、虫的な何かが出てきそうなところも好みではない。生粋の現代っ子だから。

明莉あかり、こっち」

「はーい」

事前に割り振られた部屋割りに従って、チサとの二人部屋に向かう。歩きながらも、周囲への警戒は怠らない。特に、あの黒いヤツ。

「いや、普通に居んだろ。ゴ、」

「ドン!スピーク!」

不用意な発言をしようとする部長の言葉を遮る。

「…周り雑木林で、こんだけ木に囲まれてんだから、普通に色々出てくんぞ」

「っ!?」

「…悠司ゆうじ、わざわざ脅かすようなこと言う必要無いだろ?大丈夫?明莉ちゃん」

「…余裕」

でムリだけど、仕方ない。合宿に参加すると決めたのは私だ。今更グダグダ言っても始まらない。言うけど。心の中とチサ相手に愚痴るけど。「こんな野趣あふれる場所だって聞いてない」って。

ギシギシ鳴る階段を上がり、突き当たり、一番奥の部屋の鍵を、チサが開ける。軽い木の扉を開けば、中は普通の六畳間。荷物を置いて二人分の布団を敷いても、中々の広さがある。掃除もしてあるのだろう、新しくは無いけれど清潔な室内にホッとした。

荷物を解いて、部屋の反対側のチサに声をかける。

「チサ、夕飯まで何する?自由時間」

「調査」

「ですよね。付き合います」

チサはその為に来たのだから、そりゃそうだ。海でキャッキャッするのは、もう少しタイミングを見計らってからにしよう。

「明莉がついてくる必要は無い。遊んでて」

「えー、チサ一人じゃ危ないよ。私も一人で遊んでも楽しくないし。チサについてくよ」

「…わかった、ありがとう」

ボソリとお礼を呟くチサは可愛い。思わず撫でたくなるほど。伸びそうになる右手を必死で堪えた。チサは可愛いけれど、怒らせると恐いのだ。




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