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第三章 大学生活と再会とオカルト
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夏真っ盛り。屋根の下とはいえ、屋外での待ち合わせは完全に失敗したと思い始めたのは、待ち合わせの時間から15分が過ぎた頃。10分前には着いていたから、30分近くここに居ることになる。お店に入って、メールでもするかと考えたところで、背後から懐かしい声がした。
「明莉ちゃん、お待たせ、ごめんね。なかなか洋服が決まらなくて」
「ううん。そんなに待ってないから、大丈夫だよ」
反射で模範解答を返しながら、背後を振り向く。予想通りの声の持ち主は、白を基調にした涼しげな格好で立っていた。全体的にフリフリしているのは昔と変わらないが、少し大人びた気がするその姿。
「おー、美歌、なんかますます可愛くなったね。綺麗」
「そんな!私なんて全然、可愛くなんてないよ」
恥ずかしそうに首を振る様子は昔と変わらず、こちらを上目遣いに見上げてくる。
「明莉ちゃんの方こそ、痩せて可愛くなったね」
「そうかなー?でも、ありがとう」
可愛くなったかは疑問だけれど、痩せたのは事実。賛辞はありがたく受け取っておく。
「でも本当は…。こんなこと、私が言う資格なんてないんだろうけど、私は前の明莉ちゃんの方が良かったな」
「そうなの?」
「うん。ごめんね、明莉ちゃんを追い詰めてそんな風にしちゃったのは私達なのに。私、勝手だよね」
しゅんとする美少女は、そんな姿も可愛い。だけど、「美歌のせいではない」と今までに何度も言った言葉は、彼女にはなかなか受け入れてもらえないらしい。あと、「そんな風」ってどういう意味だろう。
「うーん、まあ、私のことはいいや。どこ行く?お昼は食べて来たよね?どこかでお茶する?」
「この前、駅の南口側に新しく出来たカフェがあるの。そこに行ってみない?」
「うん、良いね。行こう行こう」
地元を離れてそんなに経っていないのに、もう新しいお店が出来ている。自分が知らないところで地元が変わっていくのは何となく不安にもなるけれど。せっかく帰ってきたのだ、不安になる前に、新しいお店もがんがん抑えておこう。
入ったお店の窓際の席。向かい合って座り、互いの近況なんかの世間話をしつつ、ケーキを食べ、コーヒーもお代わりした。その間、特に彼女が何かを言い出すこともなく時間が過ぎ、さて帰ろうかというタイミングで、何やらぐずぐずとし出した美歌。
それとなく水を向けても話が始まらないことにも疲れてきたので、地雷とわかりつつ、思いっきりぶち抜いてみることにした。
「それで?今日は結局、何の用だったの?」
「…用、っていうか、明莉ちゃんと久しぶりにおしゃべりしたくて」
本当に用がそれだけなら、何の問題もない。満面の笑顔で答える。
「うん、したね。楽しかったよ!じゃあ、そろそろ本当に帰ろう、」
「あの!待って!まだ、あの」
「?」
この期に及んでもまだ言いにくいのか、美歌の言葉の歯切れが悪い。
「あの、来叶くん、どうしてるかなって思って」
「来叶?」
「うん、大学で、どんなかなと思って」
意外だった。まさか、美歌に来叶のことを尋ねられるとは―
「来叶とはほとんど会わないよ。遠くから見かけるくらい。見かけても話はしないし」
「…そうなの?」
「うん。て言うか、あれ?美歌はまだ来叶と付き合ってるんだよ、ね?」
「…うん、ごめんね」
ここで謝る意味がわからない。何度「不要」と言っても美歌が口にする謝罪については、もうこの際流して、疑問に思ったことを尋ねた。
「連絡、取り合ってるんだよね?」
「…うん」
なら何故―?
私なんかより余程、美歌の方が来叶のことを知っているはずで、私に彼のことを聞く必要はないと思うのだけれど。
「あの、来叶くん、大学でのことは全然教えてくれなくて。それで、明莉ちゃんなら何か知ってるんじゃないかなって」
「ああ、そういうことか。でも、本当に来叶のことは知らないんだよね。学部もサークルも違うし」
「…本当に?」
「ほんとほんと」
「…」
言い方が軽すぎただろうか?美歌の表情が、「納得していない」と言っている。
「えーっと、それを聞きたかったの?なら、答えられなくてごめんね。でも、本当にそろそろお店だけでも出よう、」
「来叶くん、夏休みは帰ってこないって言ってて。バイトを始めたからって。でも、何のバイトなのかも教えてくれなくて。私、どうしたらいいのかわからなくなっちゃって」
「う、なるほど。わかった、よし、取り敢えずお店は出よう」
下を向き、今にも泣き出しそうになってしまった美歌を引っ張って、店を出た。駅までの道を歩きながら、うつ向いたままの美歌に話しかける。
「まあ、大学で来叶を見かけたら伝えとくよ。美歌が寂しがってたって」
「…」
「それに、そんなに会いたいんだったら、美歌の方から会いに行けばいいんじゃない?」
「…」
「あー、何というか、経験不足でいいアドバイスも出来ないけど、来叶と話をするしかないんじゃないかなーと思うよ?」
「…」
恋愛初心者による精一杯の慰めとアドバイスが、どれくらい美歌の力になったかは不明だけれど、これが私の限界だ。
そのまま駅につき、乗る電車はばらばらだから、ホームで美歌に別れを告げる。
「じゃあね、美歌」
「…明莉ちゃんは、まだ怒ってるんだね」
「え?」
ワッツ?この子は本当に、一体何を言い出すのか。
「…私のこと、許せなくて、こんな、意地悪、するんだよね?」
「意地悪??」
「来叶くんのこと、何も教えてくれないのは、そういうこと、何でしょう?」
顔を上げた美歌の目からは、大粒の涙が溢れている。
「でも、だけど、悪いのは私だって、わかってるから」
「あ!ちょっ、美歌」
言い捨てて、走り去った美歌。完全に置いてかれた。そして、見られてる。周囲から、美少女を泣かせた悪い男みたいな目で凄く見られてる。
周りからの突き刺さるような視線を感じながら、ため息をついた。目を閉じて、周囲の気配を遮断する。最後の最後で、本当、ひどい目にあった。
まあ、せめて―
家に二人きりで残してきた幸助とチサのことを思う。
―幸助の勉強、見てやってくれる?
夏休みの宿題に苦労していた弟のために、チサに頼んだなんちゃって家庭教師役。去年、今年と、姉弟揃ってお世話になることになるが、致し方ない。
姉のアシストという名の小さな企みが、効を奏してくれていると良いのだけれど―
家を出てくる直前、真っ赤になってチサを出迎えていた幸助の姿を思い出して、顔がにやけた。
夏真っ盛り。屋根の下とはいえ、屋外での待ち合わせは完全に失敗したと思い始めたのは、待ち合わせの時間から15分が過ぎた頃。10分前には着いていたから、30分近くここに居ることになる。お店に入って、メールでもするかと考えたところで、背後から懐かしい声がした。
「明莉ちゃん、お待たせ、ごめんね。なかなか洋服が決まらなくて」
「ううん。そんなに待ってないから、大丈夫だよ」
反射で模範解答を返しながら、背後を振り向く。予想通りの声の持ち主は、白を基調にした涼しげな格好で立っていた。全体的にフリフリしているのは昔と変わらないが、少し大人びた気がするその姿。
「おー、美歌、なんかますます可愛くなったね。綺麗」
「そんな!私なんて全然、可愛くなんてないよ」
恥ずかしそうに首を振る様子は昔と変わらず、こちらを上目遣いに見上げてくる。
「明莉ちゃんの方こそ、痩せて可愛くなったね」
「そうかなー?でも、ありがとう」
可愛くなったかは疑問だけれど、痩せたのは事実。賛辞はありがたく受け取っておく。
「でも本当は…。こんなこと、私が言う資格なんてないんだろうけど、私は前の明莉ちゃんの方が良かったな」
「そうなの?」
「うん。ごめんね、明莉ちゃんを追い詰めてそんな風にしちゃったのは私達なのに。私、勝手だよね」
しゅんとする美少女は、そんな姿も可愛い。だけど、「美歌のせいではない」と今までに何度も言った言葉は、彼女にはなかなか受け入れてもらえないらしい。あと、「そんな風」ってどういう意味だろう。
「うーん、まあ、私のことはいいや。どこ行く?お昼は食べて来たよね?どこかでお茶する?」
「この前、駅の南口側に新しく出来たカフェがあるの。そこに行ってみない?」
「うん、良いね。行こう行こう」
地元を離れてそんなに経っていないのに、もう新しいお店が出来ている。自分が知らないところで地元が変わっていくのは何となく不安にもなるけれど。せっかく帰ってきたのだ、不安になる前に、新しいお店もがんがん抑えておこう。
入ったお店の窓際の席。向かい合って座り、互いの近況なんかの世間話をしつつ、ケーキを食べ、コーヒーもお代わりした。その間、特に彼女が何かを言い出すこともなく時間が過ぎ、さて帰ろうかというタイミングで、何やらぐずぐずとし出した美歌。
それとなく水を向けても話が始まらないことにも疲れてきたので、地雷とわかりつつ、思いっきりぶち抜いてみることにした。
「それで?今日は結局、何の用だったの?」
「…用、っていうか、明莉ちゃんと久しぶりにおしゃべりしたくて」
本当に用がそれだけなら、何の問題もない。満面の笑顔で答える。
「うん、したね。楽しかったよ!じゃあ、そろそろ本当に帰ろう、」
「あの!待って!まだ、あの」
「?」
この期に及んでもまだ言いにくいのか、美歌の言葉の歯切れが悪い。
「あの、来叶くん、どうしてるかなって思って」
「来叶?」
「うん、大学で、どんなかなと思って」
意外だった。まさか、美歌に来叶のことを尋ねられるとは―
「来叶とはほとんど会わないよ。遠くから見かけるくらい。見かけても話はしないし」
「…そうなの?」
「うん。て言うか、あれ?美歌はまだ来叶と付き合ってるんだよ、ね?」
「…うん、ごめんね」
ここで謝る意味がわからない。何度「不要」と言っても美歌が口にする謝罪については、もうこの際流して、疑問に思ったことを尋ねた。
「連絡、取り合ってるんだよね?」
「…うん」
なら何故―?
私なんかより余程、美歌の方が来叶のことを知っているはずで、私に彼のことを聞く必要はないと思うのだけれど。
「あの、来叶くん、大学でのことは全然教えてくれなくて。それで、明莉ちゃんなら何か知ってるんじゃないかなって」
「ああ、そういうことか。でも、本当に来叶のことは知らないんだよね。学部もサークルも違うし」
「…本当に?」
「ほんとほんと」
「…」
言い方が軽すぎただろうか?美歌の表情が、「納得していない」と言っている。
「えーっと、それを聞きたかったの?なら、答えられなくてごめんね。でも、本当にそろそろお店だけでも出よう、」
「来叶くん、夏休みは帰ってこないって言ってて。バイトを始めたからって。でも、何のバイトなのかも教えてくれなくて。私、どうしたらいいのかわからなくなっちゃって」
「う、なるほど。わかった、よし、取り敢えずお店は出よう」
下を向き、今にも泣き出しそうになってしまった美歌を引っ張って、店を出た。駅までの道を歩きながら、うつ向いたままの美歌に話しかける。
「まあ、大学で来叶を見かけたら伝えとくよ。美歌が寂しがってたって」
「…」
「それに、そんなに会いたいんだったら、美歌の方から会いに行けばいいんじゃない?」
「…」
「あー、何というか、経験不足でいいアドバイスも出来ないけど、来叶と話をするしかないんじゃないかなーと思うよ?」
「…」
恋愛初心者による精一杯の慰めとアドバイスが、どれくらい美歌の力になったかは不明だけれど、これが私の限界だ。
そのまま駅につき、乗る電車はばらばらだから、ホームで美歌に別れを告げる。
「じゃあね、美歌」
「…明莉ちゃんは、まだ怒ってるんだね」
「え?」
ワッツ?この子は本当に、一体何を言い出すのか。
「…私のこと、許せなくて、こんな、意地悪、するんだよね?」
「意地悪??」
「来叶くんのこと、何も教えてくれないのは、そういうこと、何でしょう?」
顔を上げた美歌の目からは、大粒の涙が溢れている。
「でも、だけど、悪いのは私だって、わかってるから」
「あ!ちょっ、美歌」
言い捨てて、走り去った美歌。完全に置いてかれた。そして、見られてる。周囲から、美少女を泣かせた悪い男みたいな目で凄く見られてる。
周りからの突き刺さるような視線を感じながら、ため息をついた。目を閉じて、周囲の気配を遮断する。最後の最後で、本当、ひどい目にあった。
まあ、せめて―
家に二人きりで残してきた幸助とチサのことを思う。
―幸助の勉強、見てやってくれる?
夏休みの宿題に苦労していた弟のために、チサに頼んだなんちゃって家庭教師役。去年、今年と、姉弟揃ってお世話になることになるが、致し方ない。
姉のアシストという名の小さな企みが、効を奏してくれていると良いのだけれど―
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