異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた

リコピン

文字の大きさ
上 下
21 / 65
第三章 大学生活と再会とオカルト

8.

しおりを挟む
8.

「…誰だよ、あんた」

夏休み三日目。実家最寄り駅のロータリーで再会した、実の弟の第一声がこれである。

「ひどいよ、幸助こうすけ明莉あかりだよ!幸助の大事なお姉ちゃんだよ!」

「…姉ちゃんには言ってねぇ。そっちの男、そいつ誰?」

目付きの悪い弟が、目線だけで指し示す「そっち」に居るのは、仲良く電車に揺られてやってきた花守さん。

「ちょっと、幸助。それはそれで言い方に問題あるでしょ!失礼だよ、年上に対して!」

「…」

姉ちゃん、そこのところは厳しくいくよ!と鼻息荒く怒ってみるが、当の花守さんにドウドウと宥められた。

「明莉ちゃん、気にしてないから、大丈夫。ありがとう。弟さん?なんだよね?彼には、僕のこと言ってなかったの?」

「…」

その言葉にちょっと考える。幸助の不機嫌そうな顔。思い出した。  

「そう言えば、言ってなかったね」

言い訳をさせてもらえるなら、幸助が先に帰省しているとも、駅まで迎えに来てくれるとも思っていなかったのだ。まあ確かに、「いつ頃帰るの?」のメールに、何でそんなこと聞くのかと疑問に思いながら電車の到着時間は返信したけれど。

「なるほど。それじゃあ、余計に不審に思うよね」

花守さんが幸助の方へと向き直り、軽く頭を下げた。

「はじめまして、明莉さんと同じサークルの花守と言います」

「…」

丁寧なご挨拶に対して、返事もしない我が弟をにらんた。流石にまずいと思ったのか、しぶしぶといった表情で返事を返す幸助―

「…ども」

何という感じの悪さ。

「警戒させてごめんね。僕もたまたまこっちに用があったから一緒に移動しただけで、明莉さん達とは元からここで別れる予定だったんだ」

「…」

納得していませんという顔の弟に代わって花守さんに頭を下げれば、困ったような苦笑が返ってきた。

「それじゃあ、長居してもなんだから、僕はここで。明莉ちゃん、チサさん、また、三日にね」

来月の三日、夏合宿の初日―

「はい、花守さんも、夏バテとか気を付けて」

そう言って、笑って手を振り去っていく花守さんを見送った。その後ろ姿が完全に消えたところで、動き出す。

「さて、それじゃあ、私達も帰りますか」

「…それ、貸して。持つから」

「え?いいよいいよ。自分で持つよ。あ、じゃあチサの荷物持ってあげて」

まさか、まだまだ子どもだと思っていた弟の口からそんな紳士な言葉が出てくるとは。嬉しいけれど、つい反射的に断ってしまった。

「両方持つ。いいから、さっさと貸せ」

不機嫌なままの幸助に、結局、チサのバッグだけではなく、自分のバッグも奪い取られてしまう。

「幸助、重いでしょ?大丈夫?」

「平気」

「本当?知らないうちに頼もしくなっちゃって。弟の成長に感動するわー」

「…」

言葉通り、両手に荷物を抱えていても、前を行く幸助の足取りは軽々としている。その背に、チサの小さな声が届く。

「…ありがとう」

「別に。本当に平気だから」

一瞬、振り返り、チサにそう返した幸助。その表情が―

あれ?幸助くん、何か、チサに対しては言い方優しくないですか?あと、何か、顔赤くない?あれ?今日、迎えに来てくれたのって、あれ?荷物持ってくれるのって、あれ?




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...