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第三章 大学生活と再会とオカルト
3.
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3.
―来てしまった
結局、新歓コンパの一週間後、出来たてホヤホヤだという河川敷の心霊スポットに来ることになってしまった。
発案者の部長には、「出来たてホヤホヤって何だよ!」とクレームをつけたが、最近、霊らしき存在が何度か目撃されている話題のスポットということらしい。
「…話題のスポットと言う割には、人が少ない」
具体的には、私とチサと部長の三人。
「まあ、深夜にこんなとこウロウロすんのは普通に危ないからなー」
「…オカ研のメンバーさえ居ない」
「はは。俺の企画は外れが多いから嫌なんだと」
「…」
そんな企画に参加させられた不運を呪うべきか、外れなら心霊現象に会わずに済んでラッキーだと思うべきか、迷うところだ。
「明莉は、家で待ってても良かった」
「やだよ。幽霊よりも、チサが私の知らない所で危ない目に会う方が恐いよ」
「…」
「お前ら、仲いいなー」
そして、その『危ない目』には、チサをこの男と二人きりにすることも当然含まれている。
「お?何だよ?その目は」
「何でもないっす」
「ほんとかー?あ、わりぃ、電話だ。ちょっと待って」
着信音は聞こえなかったが、ズボンのポケットから携帯を取り出した部長は、こちらに背を向けながら、電話口に向かって話をし出した。
短いやり取りの後、こちらを振り返った部長の顔が液晶の灯りに照らされる。
「何か、もう一人参加したいってやつが増えた。そいつ来るまで、暫く待機な。駅前らしいから、10分くらいか?」
「誰が来るんですか?」
「お前らは知らないやつ。ウチのメンバーだけど、四年になってから忙しいらしくて、ほとんどサークルには顔出してないからな」
『四年』と言うキーワードに引っ掛かった。
「…たしか、部長も四年生ですよね?」
「おー、そうだな」
「…暇なんですか?」
「暇じゃねえよ。でもまぁ、俺は就職先決まってっから。サークル活動は、将来の予行練習みたいなもんだ」
―幽霊探しが将来の予行練習に?
部長の就職先が俄然気になりだしてしまった。聞いて良いものかと悶々としながら雑談に応じていると、部長が河川敷の上に向かって手をあげた。
確かにそこには人影があって、川沿いに街灯はあるものの、この距離でよく見えたなと感心する。三人で見守る中、土手の上に居た人影は危なげ無く河川敷へと降りたった。近づいてくる相手に、部長が声をかける。
「よぉ、お前が来るなんて珍しいな?」
「『部長を野放しにするな』って、サークルの子から連絡が来たんだよ。また、新入生を巻き添えにしてるんでしょ?」
「!?」
耳を疑った―
記憶が朧気なせいで、聞き間違ってしまったかと。だけど、この声は―
「あれ?」
「…」
こちらを認識し、動きを止めた相手と暫し見つめ合う。驚きに見開かれていた瞳が、徐々に弧を描き出す。
「はは、すごい、こんなとこで会えるなんて。久しぶり、だね?アカリちゃん」
「…ご無沙汰しております」
―花守秀一
私を『アカリちゃん』と呼ぶ彼との、全く予想もしていなかった場面での再会に、動きがぎこちなくなる。
「あ?何だ、お前ら知り合いか?」
「知り合い、かな?僕はまた会いたかったから、知り合いだと思って貰えてたら嬉しいけど」
「…」
彼の言葉に、何と答えるのが正解なのか。
―私も会いたかったです?
―もっと知り合いになりたい?
頭の中を、言葉がグルグル回っている。と、突然、服の袖を引かれた。
「…明莉、霊は二人で探そう。『普通じゃない』のが、二人に増えた。危険」
「いや、待て待て!こんなとこに女二人の方がよっぽど危ねえよ!」
チサの言葉に、部長が焦った声を上げる。その隣で、花守さんもうなずいた。
「そうだね。この場所はあまり良くない」
「お!本当か!?じゃあ、今回は当たりか?」
「アカリちゃんと、チサさん?だっけ?今日は、調査はやめにしてくれないかな?本当に、危険かもしれないんだ」
急にテンションが上がった部長のことは完全に無視する花守さんの声には、真剣な響きがあって、
「…花守さんは、霊感的なものをお持ちなんですか?」
「うーん、まあ、そんな感じです。嘘っぽいかもしれないけど、今だけでも信じて欲しいな」
「ちなみに俺は、霊感ゼロ!何にも見えない!お前らは?何か、感じたり、見えたりしてないか?」
「恐いこと言わないで下さい。何も見えません。でも、恐いので帰りたい。チサは?何か感じる?」
「…」
チサは黙って首を振った。
「じゃあ、駅まで送るから、今日は解散、てことで納得して貰えるかな?」
「します!」
「…わかった」
案外あっさりと了承したチサにホッとして、歩き出した部長の後を追う。
河川敷から、街灯の灯りに照らされた土手の上まで上がったところで、花守さんが背後、土手の下をじっと見つめていることに気づいた。
私の視線に気づいた彼は、直ぐに視線を戻して笑ってくれたけど―
彼の見つめていた先、見えないはずの何かが見えた気がして、背筋に冷たいものが走った。
―来てしまった
結局、新歓コンパの一週間後、出来たてホヤホヤだという河川敷の心霊スポットに来ることになってしまった。
発案者の部長には、「出来たてホヤホヤって何だよ!」とクレームをつけたが、最近、霊らしき存在が何度か目撃されている話題のスポットということらしい。
「…話題のスポットと言う割には、人が少ない」
具体的には、私とチサと部長の三人。
「まあ、深夜にこんなとこウロウロすんのは普通に危ないからなー」
「…オカ研のメンバーさえ居ない」
「はは。俺の企画は外れが多いから嫌なんだと」
「…」
そんな企画に参加させられた不運を呪うべきか、外れなら心霊現象に会わずに済んでラッキーだと思うべきか、迷うところだ。
「明莉は、家で待ってても良かった」
「やだよ。幽霊よりも、チサが私の知らない所で危ない目に会う方が恐いよ」
「…」
「お前ら、仲いいなー」
そして、その『危ない目』には、チサをこの男と二人きりにすることも当然含まれている。
「お?何だよ?その目は」
「何でもないっす」
「ほんとかー?あ、わりぃ、電話だ。ちょっと待って」
着信音は聞こえなかったが、ズボンのポケットから携帯を取り出した部長は、こちらに背を向けながら、電話口に向かって話をし出した。
短いやり取りの後、こちらを振り返った部長の顔が液晶の灯りに照らされる。
「何か、もう一人参加したいってやつが増えた。そいつ来るまで、暫く待機な。駅前らしいから、10分くらいか?」
「誰が来るんですか?」
「お前らは知らないやつ。ウチのメンバーだけど、四年になってから忙しいらしくて、ほとんどサークルには顔出してないからな」
『四年』と言うキーワードに引っ掛かった。
「…たしか、部長も四年生ですよね?」
「おー、そうだな」
「…暇なんですか?」
「暇じゃねえよ。でもまぁ、俺は就職先決まってっから。サークル活動は、将来の予行練習みたいなもんだ」
―幽霊探しが将来の予行練習に?
部長の就職先が俄然気になりだしてしまった。聞いて良いものかと悶々としながら雑談に応じていると、部長が河川敷の上に向かって手をあげた。
確かにそこには人影があって、川沿いに街灯はあるものの、この距離でよく見えたなと感心する。三人で見守る中、土手の上に居た人影は危なげ無く河川敷へと降りたった。近づいてくる相手に、部長が声をかける。
「よぉ、お前が来るなんて珍しいな?」
「『部長を野放しにするな』って、サークルの子から連絡が来たんだよ。また、新入生を巻き添えにしてるんでしょ?」
「!?」
耳を疑った―
記憶が朧気なせいで、聞き間違ってしまったかと。だけど、この声は―
「あれ?」
「…」
こちらを認識し、動きを止めた相手と暫し見つめ合う。驚きに見開かれていた瞳が、徐々に弧を描き出す。
「はは、すごい、こんなとこで会えるなんて。久しぶり、だね?アカリちゃん」
「…ご無沙汰しております」
―花守秀一
私を『アカリちゃん』と呼ぶ彼との、全く予想もしていなかった場面での再会に、動きがぎこちなくなる。
「あ?何だ、お前ら知り合いか?」
「知り合い、かな?僕はまた会いたかったから、知り合いだと思って貰えてたら嬉しいけど」
「…」
彼の言葉に、何と答えるのが正解なのか。
―私も会いたかったです?
―もっと知り合いになりたい?
頭の中を、言葉がグルグル回っている。と、突然、服の袖を引かれた。
「…明莉、霊は二人で探そう。『普通じゃない』のが、二人に増えた。危険」
「いや、待て待て!こんなとこに女二人の方がよっぽど危ねえよ!」
チサの言葉に、部長が焦った声を上げる。その隣で、花守さんもうなずいた。
「そうだね。この場所はあまり良くない」
「お!本当か!?じゃあ、今回は当たりか?」
「アカリちゃんと、チサさん?だっけ?今日は、調査はやめにしてくれないかな?本当に、危険かもしれないんだ」
急にテンションが上がった部長のことは完全に無視する花守さんの声には、真剣な響きがあって、
「…花守さんは、霊感的なものをお持ちなんですか?」
「うーん、まあ、そんな感じです。嘘っぽいかもしれないけど、今だけでも信じて欲しいな」
「ちなみに俺は、霊感ゼロ!何にも見えない!お前らは?何か、感じたり、見えたりしてないか?」
「恐いこと言わないで下さい。何も見えません。でも、恐いので帰りたい。チサは?何か感じる?」
「…」
チサは黙って首を振った。
「じゃあ、駅まで送るから、今日は解散、てことで納得して貰えるかな?」
「します!」
「…わかった」
案外あっさりと了承したチサにホッとして、歩き出した部長の後を追う。
河川敷から、街灯の灯りに照らされた土手の上まで上がったところで、花守さんが背後、土手の下をじっと見つめていることに気づいた。
私の視線に気づいた彼は、直ぐに視線を戻して笑ってくれたけど―
彼の見つめていた先、見えないはずの何かが見えた気がして、背筋に冷たいものが走った。
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