異世界から帰ってきたら、大好きだった幼馴染みのことがそんなに好きではなくなっていた

リコピン

文字の大きさ
上 下
8 / 65
第二章 あ、忘れてた

3.

しおりを挟む
3.

「…つまり、あの男は幼馴染みで、アカリの初恋相手だということ?」

「そうです。あと、ついでに言うとご近所さん。マンション同じだよ」

「…」

家への帰り道。チサを相手に必死の説明会。『同じマンション』という言葉に、チサの眉間にシワがよった。

「…『初恋相手』のね?」

「ん?」

「…過去形?」

「ああ!うん、そうそう!それは本当にそう!」

心底、不機嫌そうなチサに何度も全力でうなずく。

「わかった。一応、納得しておく」

「ありがとうございます」

ふざけて頭を下げれば、深いため息が返ってきて、思わず笑ってしまう。

「チサはさぁ、そんなに来叶らいとのこと嫌い?会ったの、今日が初めてだよね?ダメだった?」

「アカリへの態度が嫌い。アカリが何であんな男を好きだったのか理解出来ない」

「まあ、月並みだけど、あれでイイ所もあるんだよ?」

「…」

チサの疑いの眼差しがきついけれど、本当に、来叶を好きだと思えるところはたくさんあったのだ。

今の姿からは想像できないけれど、人見知りの激しかった来叶と、体型のことでからかわれることの多かった私。同じ幼稚園、小学校と、二人でずっと一緒に居た。

ずっとずっと、先の未来も一緒に居られると思っていた来叶との間に溝が出来たのは、小学校五年生頃から。仲の良い男女をからかう周囲の声に、二人の間に次第に距離ができてしまい、気づけば、私をからかう集団の中に、来叶の姿が混じるようになった。

それでも―

「…昔は、優しかったんだよー。かばってくれたり、一緒に遊んでくれたり」

その思い出がある限り、ずっと彼のことを好きでいるのだろうと思っていた。

「だけど、まあ、あれだね?私ももう大人になったわけだし、そろそろ初恋にも別れを告げる時が来たってことなんだろうね?新しい恋でも始めてみるかー」

「気になる相手でもいるの?」

「全くいない」

なんなら、勇者として喚ばれたのだから、あちらの世界で恋の一つや二つ、あってもよかったはずなのに。

「…みんな、可愛かったからなー」

「…」

向こうで出会った人達は、可愛らし過ぎて、かえって恋愛感情を抱くことが出来なかった。

「師匠とか、みんな元気かなー?」

くわえて、チサを初めとして、師匠も旅の仲間達も、周囲に居たのは皆『女性』だったから、浮いた話など一切無いストイックさで三年間を過ごして帰ってきたわけだ。

「あ、どっかでお茶してく?私の未来の恋バナでもしながら、」

「ダメ」

「えー?」

問答無用で切り捨てられた提案に、不満の声をあげてみる。

「…晴山に受かりたいなら、帰って勉強」

「あー」

「…何?」

『晴山』という言葉に、また一つ、思い出してしまった。

「…実は、晴山を受けようと思ったのって、来叶の影響なんだよね」

「…」

「いやいやいや、ちゃんと行きたい学部があるかとかも調べたよ!」

「…」

氷のような視線が飛んでくるけれど、複数の候補の中から、晴山を選んだ最後の決め手が来叶の存在だっただけで。

「…あの男も、晴山を受けるのね?」

「うん」

「なら、尚更、帰って勉強」

「え!?」

てっきり、晴山の受験を反対されるかと思ったのに―

「もしあの男だけ受かって、アカリが落ちたら、すごく腹が立つ」

「…なるほど」

チサの目に映る本気に、それ以上の抵抗は諦めた。




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...