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後日談

タワーの最上階で…

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何だろう、何かが、おかしい―?



『三つ首のドラゴン』の討伐を終え、ゆっくりとモンスターを狩りながら戻ってきた地上。一度タワーの外に出ないとリポップしないボス階層を除いては、どの階層にも―主に楽しそうなブレンに付き合って―それなりの時間をかけて戻ってきた。地上に戻ったのは久しぶり、だから、なのだろうか?この違和感は―





放っておくと、ずっとタワーに籠りっぱなしなんじゃないかと思うほど嬉々としてモンスターを狩り続けたブレン。今の彼は―ボス討伐無しにも関わらず―レベル250を越えている。

ここまでくると、さすがにドロップ品も―かなり厳選したにも関わらず―持ちきれなくなり、携帯食は、もう見たくもないくらいに飽きてしまった。誰かが作ってくれた美味しいご飯が食べたくなってギブしたのは私。一人で先に帰ると言ったのだが、ブレンが一人では帰さないと言い張って、結局二人で帰途についた。

そして、降りた地上、一階層の受け付けに帰還報告を告げるために並んだところで、周囲が静まり返った。沈黙を破ったのは、

「おま、おま、お前ら!?」

「バッシュ?」

「無事だったかーっ!?くそっ!良かった!!お前らが、お前、お前ら!」

「…どうしたの?」

意味のわからない言葉、ついには号泣し始めた大の大人の姿に困惑する。バッシュの背後、彼のパーティーメンバーに視線を向ければ、

「あー、バッシュはな、お前らを心配しまくってたんだよ。安心してこんなになっちまってんだ、気にするな」

「心配?」

「100階層のボス討伐の後の放送が無かったからな、お前達がどこで何してんのか、こっちはさっぱりだったわけだ」

「…なるほど」

確かに、タワーを上る際のアナウンスはあるが、帰途についてはアナウンスがない。私達―主にブレン―が帰還に時間をかけすぎたせいで、要らぬ心配をかけることになったらしい。

「…ありがとう、バッシュ」

「おう、おう」

返事はあるものの、まだ嗚咽のとまらないバッシュの扱いに困る。

「…えっと、ただいま?」

「うぉぉおおー!俺は、俺は!お前達がもう、帰ってこないかもしれないって!覚悟して!お前らが、せっかく!ブレンだって、男を上げて!祝おうと思ってたんだ!お前ら二人の新しい関、」

「よし!そこまでだ!バッシュ!良かったな!二人が帰ってきて!」

「え?」

バッシュの言いかけた言葉を途中で遮られ、よくわからなくなった。バッシュが祝おうとしていた?何を?

「じゃあな!お前らも!今は疲れてんだろ!?また、改めてな!」

「?」

慌ててバッシュを引きずって消えていく男達を見送って、よくわからないまま周囲を見回す。目が合うとほとんどが目をそらす中―本当に何だろう?―多くは無いけれど、生温い視線を返す人が一割。

―なんか、恐い

視線を避けるようにしてタワーを出た後、先ずはレイヒャーの店へアイテムの持ち込みをすることにして、街中を歩いていく。

だけど―

ここでも感じる異変。何故か、街中ですれ違う女性の中に、ブレンを見て顔を赤くする人達がいる。

「…」

ブレンを見上げるが、彼自身は気づいているのかいないのか、いつもと変わらない表情からは読み取れない。

確かに、欲目なく、客観的に見ても、ブレンは整った顔をしている。だけど、その眼光の鋭さから、今までこういう風に女の子が反応することなんて、無かったのに―

何か釈然としない―正直に言えば面白くない―気持ちのまま、たどり着いた店舗の戸を開けた。

「ミア殿!ブレン殿!お待ちしておりました!なんとなんと、よくぞご無事で!お二人のご帰還、心より、お祝い申し上げます!」

「…」

店に入った途端、待ち構えていたレイヒャーに歓迎された。私達がタワーから降りてきたのは、本当についさっき、なのだけれど。以前も同じことがあったからもう驚きはしないが、その歓待ぶりには若干引いてしまう。

そんなこちらの様子などお構い無しのレイヒャー。その満面の笑顔に、黙って道具袋を差し出した。

「…60階層より上のドロップアイテムが中心で、なるべく多くの種類を残してある。けど、数はあまり無い」

「これはこれは!」

袋を僅かに開いて中を見せれば、レイヒャーだけでなく、隣に居た買い取り係の女性の目も輝きだした。受け取った袋を持って、跳ぶようにして奥へと引っ込んでいった女性を見送ったところで、レイヒャーに奥を進められる。

「立ち話も何ですから、」

「ううん、ここで待つ。数はそんなにないし」

「左様でございますか?」

立ったまま、今後の予定―タワー上層階の情報の売り出し方など―についてレイヒャーと話し合っていると、思いのほか早く終わった査定の結果をもって、女性が戻ってきた。

その彼女が提示した金額に、少し驚く。レイヒャーを振り向いて確かめれば、

「新種が多かったですからな。後は、そうですね、上層階の地図作成、情報の販売には、是非わが商会を」

「…考えとく」

私のおざなりな返事にも、うんうんと頷きながら嬉しそうに笑うレイヒャー。

「よろしくお願いいたしますね」

「…」

頷いて、店の扉を開いた。外へと踏み出したところで、背後からレイヒャーの声。

「時に、ブレン殿?」

「?」

「当商会では、指輪等の装飾品の販売から、教会の斡旋、新居のご案内についても取り扱いがございます。加えて、新生活に必要となります家具や日用品、雑貨の類いまで、幅広く揃えておりますので、是非、ご一考を」

「…」

「…」

よくわからない勢いのまま、レイヒャーのいつもの笑顔に送り出され、店を後にする。が、最後のあれは何だったのだろう。言葉の意味は、何となく、いや、結構、露骨に伝わったけれど、何故、今このタイミングで、私達にあんな話を―?

ブレンに心当たりを尋ねるつもりで見上げれば、彼の体に緊張が走ったのがわかった。視線の先、駆け寄ってくる人影。

「お帰り、ブレン!」

「…」

かなりの早さで走ってきたというのに、あせ一つかいていない姿。あい変わらず人目をひく、鮮やかな容姿。最後に見たのが、タワーの中だったせいかもしれないけれど、あの時よりも、ずっと綺麗、輝いて見える―

「…アイリー」

「ブレンが帰ってくるの、ずっと待ってたんだ。無事に帰ってきてくれて嬉しい!」

私の存在などまるで目に入らない様子で、華やかに笑うアイリー。その瞳は本当に喜びに輝いているようで、

―そういう、ことか

ブレンにどこまで通じるかはわからないけれど、彼女は、を選択したのだろう。『乙女ゲームの主人公である自分』を―

「ブレン!ねえ、タワーの話を聞かせて?100階層ってどんな感じだった?私も、今度連れていって、」

「…」

ブレンの腕をとろうとしたアイリーだったが、ブレンに無言で振り払われた。

彼女の瞳がたちまちつらそうに陰る。

「…ごめん、そうだよね。今まで、私がしたこと考えたら、直ぐには許せないよね」

目尻に涙をたたえながら、それでも毅然と上を向く姿。

「だけど!これだけは信じて欲しいの!私は、ブレンに幸せになって欲しい!」

一瞬だけ、こちらに向けられた視線。

「あなたは、彼女に縛られていいような人じゃない!」

「…」

そう言いながら、でも、多分、彼女の瞳は私を映していない。

一人ヒートアップする彼女を半ば放置しているのは、彼女の背後、こちらに走ってくる二人の男の姿が見えるから。

「アイリー!」

「アイリー様!」

駆けつけた男達の呼び声に怯えたアイリーが、ブレンの影に隠れようとして失敗した。アイリーを避けたブレンを、彼女の恨めしげな目が見上げる。

「アイリー!お前はまた、この二人に!」

「止めてよ!レオンも、カイも!私につきまとわないでって言ってるでしょ!?お願い!ブレン!助けて」

「…」

ブレンはただ、煩わしそうに顔を歪めるだけ。

「ねえ!お願い!ブレン?どうして?どうして、こっちを見てくれないの?」

「…アイリー?」

「やっぱり、この女が居るから?この女のせい?」

地面に向かって呟きだしたアイリーの姿に異常を感じる。

「何でよ!?この世界、キャラだって、アイテムだって、みんな、私のものでしょ!?私のために作られた世界なのに、なんで、みんな私の邪魔ばっかり!?」

「…」

顔を上げたアイリーの瞳に、初めて私が映った。

「あんたみたいな、ガチャ運がいいだけのモブが!なんで、そんな当然みたいな顔してそこに居んのよ!」

綺麗なはずの顔が、醜悪に歪む。

「消えろ!運営に報告してやる!バグは大人しく改修されて消え去れ!」

「っ!」

この期に及んで、やっぱり、まだ、アイリーの言葉に動揺させられてしまう。

ずっと、ずっと、いつか現実に起こるんじゃないかと思って、抱えている不安。私がバグなら、私はいつか、どこかで修正されてしまうのだろうか。それが、レベル制限ならまだいい。だけど、もし、この世界に存在さえ許されなかったら?ブレンの隣に居ることすら出来なくなったら―?

俯いてしまいそうになる顔を必死に上げて、アイリーを見つめ返す。

「あんたが、!?」

「ブレン!?」

突如、アイリーとの間に立ち塞がったブレン。見えるのはその広い背中だけ、

「…何故、貴様が選ぶ立場にあると思える?」

降ってきた、低い声。

「そんな、だって、」

「…ミアのレベルは230だ」

「!?」

驚きにアイリーが息を飲んだ。だけど、なぜ、今ここでそれを―?

「そんな、嘘よ!どうやって!?」

アイリーの叫びをブレンが鼻で笑う。

「貴様にそれを語るつもりはない」

「なっ!?」

アイリーの怒りなど歯牙にもかけず、淡々としたまま語るブレン。

「ミアは、『万物創造』を使える」

「う、嘘よ嘘よ嘘よ!そんなの、絶対にあり得ない!」

アイリーの顔から、血の気が引いた。

「まあ、貴様にそれを信じさせようとは思わん」

「!?」

「ミアは、貴様なぞより遥かに努力してきた人間だ。貴様が足元にも及ばぬほどの力を持つ」

「信じない!そんなの、絶対にあり得ないから!」

また、ブレンが鼻で笑った。

「だがまあ、俺がミアを選んだのは、ミアがそうなる前、今より遥かに弱かった頃」

確かに、あの時、選択を突きつけたのは私、選んだのはブレンだった―

「出会ったその場で俺はミアを選んだ」

「!?」

「仮に貴様がミアより強かろうが何であろうが、俺が貴様を選ぶことなど、絶対にあり得ん」

「っ!うるさい!うるさい!黙れ!もういい!お前ら全員必要ない!消えろ!私の前からみんな消えろ!」

叫んだアイリーがブレンに掴みかかろうとして、

「ブレン!?」

「…」

ブレンに顔面を掴まれたアイリーが大人しくなったかと思うと、そのまま彼女の四肢から力が抜けて地面へと崩れ落ちた。

「…ブレン、何したの?」

「ただの睡眠スリープだ」

地に倒れ伏すアイリーをさて、どうしたものかと考えていると、黙って見守っていたカイがひざまずいてアイリーを抱え上げた。

「…カイ?」

「私は、このままアイリー様を連れて街を出ます」

「…大丈夫なの?」

カイはアイリーに隷属されたままなのだ。勝手な行動はとれないはず。

「問題ありません。先ほど、アイリー様が望まれましたから。『皆様の居ない空間』を。ですから、このまま余所へお連れします」

「…」

それは、まあ、可能なのかもしれない。だけど、その後、カイはどうなるのだろう。彼はそれで―?

「…ご心配なく、ミア様。ご存知でしょうが、私は主人の元から逃げ出すのが得意なのです」

「!」

瞳を煌めかせたカイの言葉、その意味。軽口にしてしまえる彼に、頷いた。

「…ありがとう、カイ」

「お礼を、いえ、謝罪を申し上げるのは私の方です。ですが、今は、祝福をあなたに、ミア様」

「祝福?」

「そこの野犬がミア様に相応しいかは甚だ疑問ではありますが、それがミア様の幸福に繋がるのでしたら」

一瞥したカイの言葉をそのまま捉えるとしたら、『野犬』とはブレンのことなんだろうけど、

「えっと、カイ、それはどういう意味?」

「…ミア様、どうかお幸せに」

「カイ!」

頭を下げると、そのままアイリーを連れて背を向けたカイ。歩き出した背を呼び止めるが、カイは振り向かない。

代わりに、肩に乗せられた手―

「まあ、心配すんな。うちのギルドでもカイのことは気にかけておくからよ。一応、アイリーの動向についてもな。何かあれば、お前らにも情報回すさ」

「…ありがとう」

「おう」

見上げれば、力強い返事を返すレオン。

「で、お前らの方はどうすんだ?式はもう決まってんのか?」

「…」

しき―?

聞きなれない単語に、一瞬、思考が空転した。

「?結婚すんだろ?」

「はっ!?」

あまりの驚きに、今まで生きてきた中で一番大きい声が出た。

「あん?いや、だって、ブレンがプロポーズしてたじゃねぇか。ミアも承諾したんじゃなかったのか?」

「してない!?何!?ブレンがプロポーズって!?」

「タワーの放送、お前らが100階層ボス倒したって放送の後、」

「っ!?」

レオンの言葉に、嫌な汗が流れ出す―

「あれ?気づいてなかったのか?あの後、流れてたぞ。ブレンがお前に『一生』」

「やめて!!」

レオンを思いっきり突き飛ばす。こんな風に人を突き飛ばすのも、生まれて初めてかもしれない。冷静な一部で突っ込みを入れながら、だけど、もう、レオンの顔は見れない。

「っ!」

「あ、おいミア!」

居たたまれなくて、恥ずかしくて、顔が熱くて、走り出した。

どうしよう、もう、どうすればいいのか。だって、じゃあ、バッシュやレイヒャーが言ってたあれって、そういう―?

「っ!!!」

「…ミア、どこまで行くつもりだ?」

「!?」

ブレンに追い付かれて―二人で街中を鬼ごっこするわけにも行かず―並んで歩き出す。

だけど、同じ状況のはずの彼はいつも通り、特に焦ってもいないし、不機嫌にもなっていなくて、

「…ブレンは、何でそんなに普通なの?」

「?」

彼がタワーのアナウンスを知っていたとは思えない。なのに、

「…まあ、一々宣言して回るようなものでもないからな。手間が省けた」

「どういう意味?」

皆に聞かれてしまったことに、肯定的ですらあるブレン。問いただす言葉がきつくなる。

「『お前が誰のものなのか』」

「っ!?」

「これで目障りな連中も消えるだろう」

「っ!?っ!?」

平然と言い放つブレンが信じられなくて、歩くスピードを速めた。

「おい、ミア、どこまで行くつもりだ?」

「街を出るの!」

場所なんて、何処だっていい。だけど、とにかく、今は、誰も私を、私達のことを知らない場所に行きたいにげたい

「…まあ、お前が行きたいなら」

その言葉に、ブレンをチラリと振り返る。

「何処にだって連れて行ってやる。お前が望むならな」

「!?」

笑うブレンを直視出来ずに、込み上げる極限の羞恥に、結局、また、走り出す。背後、彼が追いかけてくれることを確信しながら―





(終)
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感想 43

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みんなの感想(43件)

さや
2024.07.22 さや

あーホント好き!
何度読んでも良い!
暑い日が続きますが、体調に気をつけて頑張ってください^_^

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izumiru
2022.03.07 izumiru

連続で感想すみません。前回のときに書きそびれたのですが、はじめのほうで、二人がダンジョンでレベルアップしたとき23になったってあるときに、123になったのだと思ったのですが、最後までよんだところあれって223になってたってことであってますか?。最後までよんですでに200越えてたんかいwって心の中でツッコミマシタ笑。

解除
izumiru
2022.02.03 izumiru

リコピンさんのかかれる心の強いヒロインとそれに惚れて溺愛するヒーローが大好きです!。このお話は一番好きで周回して読んでます!。1日一回読みに来ます笑。その後の話とか書いてもらえると嬉しいですが、作者さんの中では書ききって昇華されてるとのことなので、脳内で妄想補完してます!。どうしても直接的なイチャイチャがほしいので、例えば、もう遠慮なくなったブレンがミアに隙があればすぐキスしてミアがフリーズするのをにやけるブレンとか、初めの赤竜の瞳のことをミアが誰かにコッソリ話してるのをブレンがしっかり聞いててそのまま寝室直行されておいしくいただかれるミアとか想像してニヨニヨしてます!。二人はきっとずっとどこかのダンジョンを攻略し続けてレベル999の知るひとぞ知る伝説の夫婦になるのだと思ってます。そこかしこで困った冒険者を助けては、ミアが他の人に懐かれては黒いオーラで威嚇するブレンがわたしには脳内補完されます笑。

リコピン
2022.02.17 リコピン

izumiru様、感想ありがとうございます!

すみません💦感想、見逃してました。お返事遅くなって申し訳ないです!
( ノД`)

リコピン作品、気に入って頂けているようで非常に嬉しく思っております!
その中でも当作品がお気に入りとのこと、ありがとうございます♪

いつもお話を書き終わった時点で大体燃え尽きて、その後を書くのが非常に苦手なのですが、
izumiru様みたいにその後を想像して楽しんで頂けるのは作者冥利に尽きるといいますか、むしろ私の方がニヨニヨさせて頂いておりますwごちそうさまでございますw

非常に申し訳ないことに、まだ続きとかを書ける余力とかがないのですが、他作品で楽しんでもらえるように鋭意努力して参りますので、お付き合い頂けると嬉しいです♪

読了ありがとうございました!

解除

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