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終章
エピローグ(終)
しおりを挟む「これが、最上階の眺め、か―」
「…うん」
背後から聞こえたブレンの呟きに返事をしながら、ドラゴンの消失した範囲の床を調べる。
「…」
「…」
「…お前は何をやってる?」
「ドロップアイテム」
ドラゴンの体が巨大すぎて、床をあちこち調べる羽目になっているのだけれど、なかなか見つからない。ドロップアイテムではなく、隠しアイテムなのだろうか?そうなると、見つけるのはかなり難しくなってくる。
最悪、ゲームには登場していたとしても、この世界には存在しない可能性も―
「…これか?」
「!?」
ブレンの言葉に勢い良く振り向いた。彼の手元にあるもの、小瓶に入った紫色の液体、アナライズをかけた。表示されたのは、『女神の慈雨』の文字。
「っ!」
「?ミア?」
成分、効能までは『鑑定』しない限り―ひょっとしたら、鑑定しても―わからないけれど、その名をもつアイテムは、ただ一つ。
―実在した、本当に
生まれた動揺は、心のどこかでその存在を否定したかったから。だけど、何度も考えた。決意した。もう、迷う時ではないのだろう―
「…ブレン、それ飲んで」
「これをか?何の薬だ?」
訝しげに小瓶を振って中身を確かめるブレン。大きく、息を吸う。声が震えてしまわないように―
「…『女神の慈雨』、レベル99の上限を解放するアイテム」
「!?」
息を飲んだブレンが、小瓶の中の液体をしげしげと眺めてから、口を開いた。
「…そんなものが存在するとはな。だが、俺には不要だろう?」
「使って」
「…何故だ?」
ブレンの眉間にしわが寄る。
「ブレンを奴隷にした私が言うのも変だけど、私はあなたにもっと自由でいて欲しい」
「…」
「あなたの、これから先を見てみたいから」
小瓶と私を見比べるブレン。
「…お前は、俺に使わせたいのか?」
「うん。そうすれば、私のレベルを上げたり、雑事に悩まされずに済むでしょ?」
「…」
私の言葉に、ブレンの表情が険しくなる。違う、そんな顔をさせたいわけじゃなくて―
「…飽きっぽい私がこれだけの高みに来られたのは、あなたが連れてきてくれたからだと思ってる。とても、感謝してるの」
だから、ブレンが離れていくのは恐いけど。
「ブレンなら。あなたが自分のことだけを考えていられたら、あなたはもっと強くなれる。きっと、あなたの思いのままに」
そんな彼を見ていたいというのも、偽りの無い思いなのだ。
「だから、使って?」
ブレンの首筋、そこに巻き付く呪に触れる。
「今まで、本当にありがとう」
感謝の言葉と同時に、唱えた奴隷契約の呪文。私の所有者登録を抹消した。
「…」
無表情、黙りこんだまま、ブレンが自身の登録者情報を上書いた。そしてそのまま、『女神の慈雨』を口にする。
―ああ、これで
一連の流れを眺めながら、一抹の寂しさは感じてしまうけれど。だけど、それ以上に、これからのブレンがどうなっていくのか、期待がある。
『女神の慈雨』の効能を確かめるためにかけたアナライズ、ブレンのレベル表記が変わっていた。示されたのは、
レベル227―
「…」
本当に、レベル上限が解放されている―
感慨深さにブレンを見つめたまま身動きできずにいると、視線の合ったブレンが突然、ひざまずいた。
「ブレン?」
「…俺は、生涯、お前への忠誠を誓う」
「えっ!?」
前触れも無しに、突如ブレンの口からこぼれた彼らしくない言葉。頭が一瞬真っ白になった。だけど、ブレンはそんなこちらのことなんてお構いなしで―
「俺の全て、お前のものだ」
「!?何っ!?急に!?」
動揺と羞恥で顔が熱い―
「俺の戦いへの執着を、誰より強くなりたいという思いを、呆れながらも認めて、なおかつ、付き合いまでしたのはお前だけだ」
ブレンの瞳が、細められる―
「愚者だ狂人だと謗る輩ばかりの中、お前が俺によこした信頼に、俺の全てを捧げる」
「…」
「契約なんざなくても縛られてやるよ、一生、お前に」
―ダメだ
脳が沸騰している。思考を放棄しそうになる。顔だって、絶対に真っ赤だ。なのに、
ブレンの、口角が上がった―
「大事に飼えよ?」
「―!―!―!」
声にならない悲鳴を上げた。この世界、一番高い場所で。
(終)
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