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後編 タワー編

5-3.

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5-3.

「ここが―」

「…」

たどり着いた100階層、今までと違い、階段を上りきった先には、円形のフロアが広がっていた。ボス部屋の扉はなし。ということは、既に、私たちの立っているここが、ボス出現の間なのだろう。

探れば、円の中央に生じる気配、徐々に膨らむそれに、

「…強い」

「…ミア、結界を張れ。全力で」

「うん」

結界を張ると同時に、出現したのは、ドラゴン、三つの首を持つ―

すかさずかけたアナライズ、表示された数値に、息を飲んだ。

―レベル200!?

ここまで来て、いきなり100近くあがったボスレベル。

―ウォーターカッター

試しに放った水属性魔法では、全然ダメージを与えられない。

―ファイヤーボール

「…ダメ、か」

手応えを全く感じられない、恐らく、全属性の魔法攻撃に耐性がある、やっかいなタイプ―

「…ミア、下がっていろ」

「…」

ブレンの指示に一歩引いた。魔法攻撃が効かない以上、サポートに回った方がまだ役に立てる。

「ブレン、気を付けてね」

言いながら、最大出力の『強化魔法』を重ねがけする。これで、よほどのことがない限り、ブレンが傷つくことはない。

ドラゴンに向かって駆け出したブレンが、そのまま巨体を一気に駆け上がる。その背中、振り上げたブレンの剣が、ドラゴンの翼の付け根に突き刺さった。

『グギャァァァアア!!』

「っ!ブレン!?」

咆哮を上げたドラゴンが、巨体をのたうち回らせて暴れる。即座に飛び退いたブレンに怪我はなさそうだけれど、ブレンの手元、ドラゴンに突き刺したはずの剣が、

―折れてる

予想はついたが、物理耐性もかなり高めらしい。辛うじてダメージは入っているが、致命的というほどではない。これは、手数を増やしていくしかないだろうけど、問題は、ブレンの武器。

「…」

予備のナイフを取り出したブレンが、ドラゴンに刃先を突き立てる、が、思うように決まらない。やはり、武器がいる。強くて、壊れない、最終兵器みたいな―

―万物創造

唱えると同時、うねり出した魔力を寄せ集める。硬く、強く、圧縮させて、決して折れない、そう、ブレンみたいな、ブレンに相応しい一振りを―

「!!ミアッ!?」

―大丈夫、まだ、やれる

手の内に現れる硬い感触。宙から引き抜いた抜き身の刀身。光を吸い込む漆黒をした―

「何をしている!結界を維持しろ!!」

魔力を失う感覚に持ちこたえきれずに膝をついてしまった。こちらに駆け寄ってきたブレンに剣を押し付ける。

「…大丈夫、全部は使ってない、約束したから。結界は張れる」

「…」

手にした剣と、こちらを見比べるブレン。

「…行って、ブレン。いつもと同じ、私は私を守る。ブレンは、」

「っ!」

ブレンの背後から振り下ろされた、ドラゴンの尾。手にした剣で弾いたブレンが、立ち上がる。

「待っていろ、直ぐにかたをつける」

「うん」

走りだし、ドラゴンの首の一つに向かって跳躍したブレン、それを見守る。振り下ろした刀身が、ドラゴンの首に深々と沈んでいく。同時に、剣から漏れ出す漆黒の炎がドラゴンの頭部を燃やし尽くした。

それをボーッと眺めながら、少しだけ不安になる。

―おかしいな

ゲームや物語の最終兵器、『勇者』や『英雄』が手にするような剣を創造したつもりだったんだけど―

「…」

ドラゴンを焼く黒い炎、禍々しい雰囲気はまるで、魔族、良く言って黒騎士のような―

―ブレンに『相応しい剣』ってイメージしたのに

「…」

視界には、鬼気迫る勢いで、三つ目の首も切り落としてしまったブレンが映っている。

剣を一振り、払う血糊の代わりに炎を上げた剣を握って、ブレンが帰ってくる。背後では発光するドラゴンの亡骸。

突如、轟音が響き渡った―

「!?」

「ミア!」

音の正体を確かめるために、周囲を見渡せば、

―壁?崩れてる?

柱だけを残して崩れ落ちていく壁、開けた視界にタワーの外、青空が映った。




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