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後編 タワー編

5-1. 昇った高みと最終決戦

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5-1.

目が覚めたら、何故か、ブレンの膝の上だった。覚えているのは、確か、ブレンがメチャクチャ怒ってて、でも、黙って見守ってくれてた―

「…何を笑っている」

「ごめん」

降ってきた、地を這うような低い声。そうだった。その後の記憶がないから、多分、そこで気を失ってしまった。だから、まだ、ブレンに怒られていない―

「…ミア、あんな真似は二度とするな」

「…あんな真似って?」

正直、あの時は彼らの仲間意識にかなり当てられてしまっていたと思う。彼らを全員帰還させたくなって、やり過ぎた自覚は十分にある。ただ、どれがブレンの逆鱗に触れてしまったのかがわからない。全部ダメだった可能性もあるけれど―

「…」

沈黙の後の、深い、深い、ブレンのため息。

「…お前に、何もするなと言っても無理だということはわかっている」

「…」

「だが、やり過ぎだ。魔力が枯渇するような真似は、二度とするな」

「…うん、ごめん」

恐いほど真剣なブレンの眼差しに、本気で心配させたことを反省する。

「魔法特化のお前が魔力枯渇に陥ることがどれほど危険か、俺に言われずとも、わかっているだろう?」

「うん」

「だったら、あんな馬鹿な真似はするな」

「…うん」

勝手をやって心配させたのだから、怒られるのは当然。ただ、だけど、全く何も考えずにあんなことをしたわけではない、と言い訳がましく思っていたのが、伝わったらしい、

「…何だ?言いたいことがあるなら、言え」

「…」

言うのは、ものすごく照れ臭い。でも、心配をかけたし、助けて貰ったし、言葉にしなくては伝わらないことがあるのは確かだから。

でも、だけど、とりあえず、この体勢はダメだ。ブレンの膝の上で口にするだけの勇気はない。

「…ミア?」

「…」

膝の上を抜け出し、ブレンと向かい合う。

「…ブレンが居るから、大丈夫だと思った」

「何?」

「魔力枯渇しようが、何しようが、ブレンが側に居るから、何が起きても大丈夫だって、判断したの」

「…」

「ブレンのことを信頼してる。ブレンが居れば、何も心配することなんてないって思うくらいには」

「…」

僅かに見開かれたブレンの瞳が、彼の驚きを伝えてくる。照れ臭いし、居たたまれないけど、言葉にしたのは、ずっと思ってること。正直な気持ち。

直視は出来ないから、視線は反らすけど。

「…なるほどな?」

「…」

視線を向ければ、片眉を上げたブレン。その口角が上がり、

―あれ、何だろう?

何か、恐い。もう怒ってはいなさそうなのに。ブレンの笑顔から、じわりと距離をとった。

「…おい」

「…」

途端、不機嫌に変わるブレン。いつも通りの彼に、今度は逆に安心した。ブレンの口から、またため息がもれる。

「お前は…。いいから、戻ってこい」

「…」

元の距離に戻ったところで、ブレンの口調が改まる。

「ミア、ここから先の階層は今まで以上に未知数。ミノタウロスのような、特殊攻撃をしかけてくるやつらが増える可能性は高い」

「うん」

「だから、俺が居ようと居まいと無茶はするな。最低限、自分を守る余力は残せ」

「わかった」

素直に頷けば、ブレンが満足したように頷き返す。

「よし。なら、そろそろ出発するぞ。魔力も回復しただろう?」

「え?」

ブレンの言葉に驚く。ステータスを確認すれば、確かに八割方回復している数値。

「…ブレン」

「?」

「私、どれくらい寝てた?」

枯渇したはずの魔力がここまで回復しているということは、相当、しかも、ブレンの膝の上で―

「…」

「ブレン!?」

無言で口角を上げたブレンがさっさと歩き出す。追いかけるけど、だけど、意味深な表情にこれ以上確かめるのは、不安。何だか危険な気がしてならない―




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