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後編 タワー編
4-3.
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4-3.
扉を開けた途端、部屋の中央へと走り出したブレン、視界に飛び込んできた光景に、彼とは別の方向に走り出す。
部屋の中央、傍目にも満身創痍がわかるレオンの傍には他のメンバーが何人か転がっている。レオンが対峙しているのは、天井近くまである巨体に、牛のような上半身、手には大きな斧を持つ、ミノタウロス―
巨体から振り下ろされた大斧を、レオンが大剣で受け止めようと構えるが、直前、跳躍したブレンが大斧を蹴り飛ばした。
そこまでを確認して、たどり着いた場所。地に伏し、多量の血を流すカイと、青い顔で座り込むアイリーに駆け寄った。
―ヒール!
最大限の出力でカイにかけたヒール。緑の発光が部屋中を照らす。
―間に合っただろうか
意識を失ったままのカイ、ピクリとも反応しない彼に不安がよぎる。
「アイリー!カイは?怪我しただけ?毒とか、麻痺とか?」
「…」
ガタガタ震えだしたアイリーから、返る返事はない。
「ミア!」
「!」
ブレンの呼び声に振り向けば、こちらへ走り寄ってくるレオン、その肩に二人の―こちらも意識がない―男女を担いでいる。レオンの背後からは、盾を構えた二人がよろめきながら、それぞれに仲間を支えながら近づいて来る。こちらも皆、レオン同様に満身創痍―
―ヒール!
「な!?」
「これは!?」
範囲指定をつけてかけた回復魔法、見える範囲の彼らのダメージは消せた。驚いたように立ち止まってしまった彼らのうち、レオンだけが緊迫した表情のまま近づいてくる。
「ミア、と言ったか?こいつらを頼めるか?俺は、ブレンの手助けに戻る」
「…」
彼のその気持ちはわからないでもないのだが。
周囲に結界を展開しながら、ブレンに視線を戻す。
「…手助けは、必要ない」
部屋の中央ではブレンがミノタウロス相手に手加減無しで切りかかっている。剣に魔力をのせて、ほぼ全力で。だから、
「!?そんな!馬鹿な!」
「何と言う…」
驚愕の声をもらす『ガイラスの夜明け』の面々の前、轟音とともにミノタウロスが倒れ込む。その体が次第に発光し始めたのを確認して、ブレンがこちらへと足を向けた。
「…レオン、カイの状況を教えて。傷は塞いだんだけど、意識が戻らない」
「あ、ああ」
レオンの背後で、担がれていた男女二人は意識を取り戻したのだが、カイの意識だけが戻る気配がないのだ。
「…カイは、ミノタウロスが放った、恐らくは魔法?だと思われるものを浴びて、」
「恐らく?」
「ミノタウロスの目から、光線のようなものが出たんだ。カイは、アイリーを庇ってそれをもろに食らった」
レオンの言葉に振り向けば、分かりやすく、身を震わせたアイリー。
「っ!な、何よ!?」
「…ミノタウロスが放ったのは、魔法だった?睡眠系?」
「っ知らない!そんなの!」
否定するだけ、埒のあかないアイリーではダメだ。単純な常態異常ならいいのだけれど―
「…レオン、カイにアナライズを、お願い」
「ああ」
頷いたレオン、カイを注視するその顔が歪んだ。
「くそっ!」
「何か状態異常がある?」
「いや、違う」
「?」
苦々しげに吐き捨てたレオンが、カイから視線を逸らした。
「これは、呪いだ。…カイの、レベルが下がってる」
「!?」
急いでかけたアナライズ、そこに表示された数字は
―レベル63
最後に彼のレベルを見たときから、少なくとも5レベルは下がっている。かなり大幅な低下、ということは、
「…急激なレベル低下による衰弱。意識が戻らないのは、多分そのせい」
自然、皆の視線がカイが庇ったというアイリーに向けられた。
「!?何よ!?私のせいじゃないでしょ!」
取り乱したアイリーが立ち上がり、声を張り上げる。
「だって、カイが勝手にやったんだから!私がやらせたとか!利用したとか!そういうんじゃない!」
「…あなたのせいとは言わない。だけど、カイは、あなたに惹かれて、あなたを護りたくてやった。その想いを『勝手に』と切り捨てるつもり?」
「何よ!?だって、そういうゲームでしょう!パーティー組んだら、頼まなくても勝手に好かれちゃうんだから、仕方ないじゃない!」
「…」
「私にパーティーを組むなって言うの!?強くなるなって!?」
この期に及んで、彼女の口から出てくる『ゲーム』という言葉。本当に、どこまで―
「…雇えば良かったんじゃない?」
「…何?」
「あなたが純粋に強くなりたい、仲間が必要だったなら、お金を払えば仲間は雇えた」
彼女の言う『ゲーム』なら、リアルマネーをつぎ込めば助けてくれるお助けキャラはたくさんいた。この世界でも、高額な契約料さえ払えば、雇われてくれる冒険者はいる。
「出来たんじゃない?」
「っ!」
「結局、あなたが選択したのは、恋愛を通して仲間を作ることだった。あなたの都合のいい方法を選んで、それを誰かの、何かのせいにはしないで」
「…そんな、つもりは」
「あなたがどんなつもりだったかなんて知らないけど、あなたがしてきたのは、彼らの想いを利用しただけ、そしてそれを一方的に切り捨てた」
周囲の視線に、彼女が狼狽える。
「私には、あなたが彼らを使い捨てたようにしか見えない」
「違う!だって、私はみんなを強くしようと!」
「それは、誰のために?」
「!?」
聞かなくても、わかること。彼女の側を見ればその答えは明らかだから。ディーツや、アルド、彼女が「強くならない」と判断した彼らは、今、ここには居ない―
扉を開けた途端、部屋の中央へと走り出したブレン、視界に飛び込んできた光景に、彼とは別の方向に走り出す。
部屋の中央、傍目にも満身創痍がわかるレオンの傍には他のメンバーが何人か転がっている。レオンが対峙しているのは、天井近くまである巨体に、牛のような上半身、手には大きな斧を持つ、ミノタウロス―
巨体から振り下ろされた大斧を、レオンが大剣で受け止めようと構えるが、直前、跳躍したブレンが大斧を蹴り飛ばした。
そこまでを確認して、たどり着いた場所。地に伏し、多量の血を流すカイと、青い顔で座り込むアイリーに駆け寄った。
―ヒール!
最大限の出力でカイにかけたヒール。緑の発光が部屋中を照らす。
―間に合っただろうか
意識を失ったままのカイ、ピクリとも反応しない彼に不安がよぎる。
「アイリー!カイは?怪我しただけ?毒とか、麻痺とか?」
「…」
ガタガタ震えだしたアイリーから、返る返事はない。
「ミア!」
「!」
ブレンの呼び声に振り向けば、こちらへ走り寄ってくるレオン、その肩に二人の―こちらも意識がない―男女を担いでいる。レオンの背後からは、盾を構えた二人がよろめきながら、それぞれに仲間を支えながら近づいて来る。こちらも皆、レオン同様に満身創痍―
―ヒール!
「な!?」
「これは!?」
範囲指定をつけてかけた回復魔法、見える範囲の彼らのダメージは消せた。驚いたように立ち止まってしまった彼らのうち、レオンだけが緊迫した表情のまま近づいてくる。
「ミア、と言ったか?こいつらを頼めるか?俺は、ブレンの手助けに戻る」
「…」
彼のその気持ちはわからないでもないのだが。
周囲に結界を展開しながら、ブレンに視線を戻す。
「…手助けは、必要ない」
部屋の中央ではブレンがミノタウロス相手に手加減無しで切りかかっている。剣に魔力をのせて、ほぼ全力で。だから、
「!?そんな!馬鹿な!」
「何と言う…」
驚愕の声をもらす『ガイラスの夜明け』の面々の前、轟音とともにミノタウロスが倒れ込む。その体が次第に発光し始めたのを確認して、ブレンがこちらへと足を向けた。
「…レオン、カイの状況を教えて。傷は塞いだんだけど、意識が戻らない」
「あ、ああ」
レオンの背後で、担がれていた男女二人は意識を取り戻したのだが、カイの意識だけが戻る気配がないのだ。
「…カイは、ミノタウロスが放った、恐らくは魔法?だと思われるものを浴びて、」
「恐らく?」
「ミノタウロスの目から、光線のようなものが出たんだ。カイは、アイリーを庇ってそれをもろに食らった」
レオンの言葉に振り向けば、分かりやすく、身を震わせたアイリー。
「っ!な、何よ!?」
「…ミノタウロスが放ったのは、魔法だった?睡眠系?」
「っ知らない!そんなの!」
否定するだけ、埒のあかないアイリーではダメだ。単純な常態異常ならいいのだけれど―
「…レオン、カイにアナライズを、お願い」
「ああ」
頷いたレオン、カイを注視するその顔が歪んだ。
「くそっ!」
「何か状態異常がある?」
「いや、違う」
「?」
苦々しげに吐き捨てたレオンが、カイから視線を逸らした。
「これは、呪いだ。…カイの、レベルが下がってる」
「!?」
急いでかけたアナライズ、そこに表示された数字は
―レベル63
最後に彼のレベルを見たときから、少なくとも5レベルは下がっている。かなり大幅な低下、ということは、
「…急激なレベル低下による衰弱。意識が戻らないのは、多分そのせい」
自然、皆の視線がカイが庇ったというアイリーに向けられた。
「!?何よ!?私のせいじゃないでしょ!」
取り乱したアイリーが立ち上がり、声を張り上げる。
「だって、カイが勝手にやったんだから!私がやらせたとか!利用したとか!そういうんじゃない!」
「…あなたのせいとは言わない。だけど、カイは、あなたに惹かれて、あなたを護りたくてやった。その想いを『勝手に』と切り捨てるつもり?」
「何よ!?だって、そういうゲームでしょう!パーティー組んだら、頼まなくても勝手に好かれちゃうんだから、仕方ないじゃない!」
「…」
「私にパーティーを組むなって言うの!?強くなるなって!?」
この期に及んで、彼女の口から出てくる『ゲーム』という言葉。本当に、どこまで―
「…雇えば良かったんじゃない?」
「…何?」
「あなたが純粋に強くなりたい、仲間が必要だったなら、お金を払えば仲間は雇えた」
彼女の言う『ゲーム』なら、リアルマネーをつぎ込めば助けてくれるお助けキャラはたくさんいた。この世界でも、高額な契約料さえ払えば、雇われてくれる冒険者はいる。
「出来たんじゃない?」
「っ!」
「結局、あなたが選択したのは、恋愛を通して仲間を作ることだった。あなたの都合のいい方法を選んで、それを誰かの、何かのせいにはしないで」
「…そんな、つもりは」
「あなたがどんなつもりだったかなんて知らないけど、あなたがしてきたのは、彼らの想いを利用しただけ、そしてそれを一方的に切り捨てた」
周囲の視線に、彼女が狼狽える。
「私には、あなたが彼らを使い捨てたようにしか見えない」
「違う!だって、私はみんなを強くしようと!」
「それは、誰のために?」
「!?」
聞かなくても、わかること。彼女の側を見ればその答えは明らかだから。ディーツや、アルド、彼女が「強くならない」と判断した彼らは、今、ここには居ない―
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