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後編 タワー編
3-2. Side A
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3-2.
―何で、こんなことになってんのよ
前を行く、ギルドメンバー達の背中、その中でも一番背の高い男の背中を目で追う。
何もかも、思い通りにいかない。学園を卒業するまではまだ良かった。首席になったことで『ガイラスの夜明け』への推薦を手に入れ、連絡をとったレオンだって、手紙では「歓迎する」って言ってくれていたのに。
実際にガイラスに来てみれば―いや、違う―私がカイを隷属していることがわかった途端、レオンの態度が急に素っ気ないものになった。あの時点で、好感度がかなり下がってしまったことは間違いない。
カイのせいで、レオンとはマイナススタートになってしまったけれど、それでも、一月かけてコツコツと好感度を上げてきた。だけど、やっぱり、何だか上手くいかない。
「親分肌で頼れるみんなのリーダー」キャラであるレオン。大人の包容力で甘やかしてくれる彼が、ゲームでは一番好きだった。レオンのイベントは課金イベントだって全部見たし、同じイベントを何度も繰り返し鑑賞しては悶えるくらい、大好きだったレオン。
なのに―
実際の彼は、いつでも、私ではなくギルドを優先する。まだ好感度が足りていないせいかもしれないけれど、思っていたのとは全然違う彼に、正直、かなり幻滅してしまった。
―タワーの攻略だって、そうだ
前を行くメンバーの背を睨む。びっくりするくらいのスローペースで進む彼らが信じられない。「全員生還」を掲げているレオンの前では言えないけれど、多少の犠牲は覚悟で、もっとハイペースでどんどんモンスターを狩っていかないと、いつまで経っても100階到達なんて無理。
だから私が仕切ろうとしたのに―
ギルドのやつらは「リーダーはレオンだから」と、全く人の話を聞こうとしない。それなら、私とレオンとカイの三人でタワー攻略を目指せばいい、他のメンバーには後方支援だけやらせておけばいいと、そう思ったのに。レオンはそれさえも拒絶する。
結局、私が思い通りに出来るのはカイしかいない。だから、レベル上げを集中的にやっているのに、カイのレベルはまだ60代。なかなか上がらない数字にイライラする。
不満だらけの現状、歩きながら打開策を探していれば、
「おし、じゃあしばらくここで休憩だ。俺が見張りに立つから、各自休憩をとれ」
「…」
レオンの号令に、みんなが好き勝手に休憩を取り出した。本当に、信じられない。60階までは、まだ半分しか来ていないのに―
このままでは昨日と同じ、58階辺りで時間切れになり、50階までまた引き返す羽目になるということがわからないのだろうか?だいたい、三パーティーでのぼる必要がどこにあるの?私とレオンとカイだけなら、もっとずっと早くのぼれるはずだ。
「…レオン、その辺でレベル上げしない?」
「ん?こいつら置いては行けんだろう?アイリーも、今は体を休める時だ」
妥協して雑魚の休憩を認めたのに、私のレベル上げに協力する気も無いなんて―
「…じゃあ、カイと二人で行ってくる」
「何?あ!おい、ちょっと待て、アイリー!」
レオンの言葉なんて聞くつもりはない。このままでは、あの女に負けてしまう。最悪、カイと二人でタワー攻略を進めることも考えなくちゃいけないのかもしれない。
万一に備えて、カイをもっともっと強くしておかなければ。
最近はカイのレベル上げにまで一々口を出してくるようになったレオン。これ以上、邪魔はされたくないから、ギルドメンバー達の探知範囲からはなるべく離れておこう。
そう考えて進んだ先、上階へと続く道の途中で、ありえないものを見つけた。
―いつの間に?
一人、無防備に歩く、女の後ろ姿。男の姿は見当たらない。偵察?先行しているのだろうか?
だけど、
―チャンスだ
ここまで来てあの女に出し抜かれるなんて、そんなの私がバカみたい。絶対に許せない。
だから、うん、あの女にはここで消えてもらおう。大丈夫、原作に登場さえしなかったようなキャラ。あの女一人居なくなったところで、私の物語には何の影響もない―
―何で、こんなことになってんのよ
前を行く、ギルドメンバー達の背中、その中でも一番背の高い男の背中を目で追う。
何もかも、思い通りにいかない。学園を卒業するまではまだ良かった。首席になったことで『ガイラスの夜明け』への推薦を手に入れ、連絡をとったレオンだって、手紙では「歓迎する」って言ってくれていたのに。
実際にガイラスに来てみれば―いや、違う―私がカイを隷属していることがわかった途端、レオンの態度が急に素っ気ないものになった。あの時点で、好感度がかなり下がってしまったことは間違いない。
カイのせいで、レオンとはマイナススタートになってしまったけれど、それでも、一月かけてコツコツと好感度を上げてきた。だけど、やっぱり、何だか上手くいかない。
「親分肌で頼れるみんなのリーダー」キャラであるレオン。大人の包容力で甘やかしてくれる彼が、ゲームでは一番好きだった。レオンのイベントは課金イベントだって全部見たし、同じイベントを何度も繰り返し鑑賞しては悶えるくらい、大好きだったレオン。
なのに―
実際の彼は、いつでも、私ではなくギルドを優先する。まだ好感度が足りていないせいかもしれないけれど、思っていたのとは全然違う彼に、正直、かなり幻滅してしまった。
―タワーの攻略だって、そうだ
前を行くメンバーの背を睨む。びっくりするくらいのスローペースで進む彼らが信じられない。「全員生還」を掲げているレオンの前では言えないけれど、多少の犠牲は覚悟で、もっとハイペースでどんどんモンスターを狩っていかないと、いつまで経っても100階到達なんて無理。
だから私が仕切ろうとしたのに―
ギルドのやつらは「リーダーはレオンだから」と、全く人の話を聞こうとしない。それなら、私とレオンとカイの三人でタワー攻略を目指せばいい、他のメンバーには後方支援だけやらせておけばいいと、そう思ったのに。レオンはそれさえも拒絶する。
結局、私が思い通りに出来るのはカイしかいない。だから、レベル上げを集中的にやっているのに、カイのレベルはまだ60代。なかなか上がらない数字にイライラする。
不満だらけの現状、歩きながら打開策を探していれば、
「おし、じゃあしばらくここで休憩だ。俺が見張りに立つから、各自休憩をとれ」
「…」
レオンの号令に、みんなが好き勝手に休憩を取り出した。本当に、信じられない。60階までは、まだ半分しか来ていないのに―
このままでは昨日と同じ、58階辺りで時間切れになり、50階までまた引き返す羽目になるということがわからないのだろうか?だいたい、三パーティーでのぼる必要がどこにあるの?私とレオンとカイだけなら、もっとずっと早くのぼれるはずだ。
「…レオン、その辺でレベル上げしない?」
「ん?こいつら置いては行けんだろう?アイリーも、今は体を休める時だ」
妥協して雑魚の休憩を認めたのに、私のレベル上げに協力する気も無いなんて―
「…じゃあ、カイと二人で行ってくる」
「何?あ!おい、ちょっと待て、アイリー!」
レオンの言葉なんて聞くつもりはない。このままでは、あの女に負けてしまう。最悪、カイと二人でタワー攻略を進めることも考えなくちゃいけないのかもしれない。
万一に備えて、カイをもっともっと強くしておかなければ。
最近はカイのレベル上げにまで一々口を出してくるようになったレオン。これ以上、邪魔はされたくないから、ギルドメンバー達の探知範囲からはなるべく離れておこう。
そう考えて進んだ先、上階へと続く道の途中で、ありえないものを見つけた。
―いつの間に?
一人、無防備に歩く、女の後ろ姿。男の姿は見当たらない。偵察?先行しているのだろうか?
だけど、
―チャンスだ
ここまで来てあの女に出し抜かれるなんて、そんなの私がバカみたい。絶対に許せない。
だから、うん、あの女にはここで消えてもらおう。大丈夫、原作に登場さえしなかったようなキャラ。あの女一人居なくなったところで、私の物語には何の影響もない―
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