バグ発見~モブキャラの私にレベルキャップが存在しなかった~

リコピン

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後編 タワー編

3-1. 攻略と期待と悪意

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3-1.

最初の挑戦から三日後、最低限の準備を整え、タワー100階層踏破に挑む日が来た。しばらくは街を不在にするため、一応、レイヒャーのところにも挨拶に顔を出したのだが―

「ミア殿!ブレン殿!ご武運を!お戻りになられた際には、是非是非、私ども、レイヒャー商会に!」

「…」

商売っ気を前面に押し出しながらも、私達の成功には微塵の疑いも抱いていなさそうなレイヒャー。その満面の笑顔に、先日決めた「ドロップ品ほぼ無し」の可能性は告げられないまま、店を後にした。

その後、タワーまでは何事もなくすんなりとたどり着けたのだが、

「…荷物持ちの件は断ったはずだけど」

「気にするな。勝手についていくだけだ」

「おう。俺達はバッシュにつき合ってるだけだからな。こっちも気にすんな」

「…」

どうやら待ち構えていたらしいバッシュ達につかまった。タワーに着いた瞬間から後をついてくる彼らのことは、極力気にしないことにして、向かったタワー上層への階段、ダンジョンの入口、

「カードの提示をお願いします」

「はい」

「パーティー『星影』のミアさんと、ブレンさんでお間違い無いですか?」

「はい」

受付の確認の言葉に頷けば、周囲にざわめきが起きた。

「?」

何が起きたのかと、周囲を見回せば、

「おうおう、注目されてんなあ、嬢ちゃん達!」

「今や『星影』は、期待の新鋭!一躍時の人ってやつだな!」

「…」

私達をその「時の人」にした一端を確実に担っているだろうバッシュ達の冷やかし。ブレンの機嫌が急降下していく。

「…行こう、ブレン」

出発前からこれでは、道中が思いやられると危惧していたのだが―

予感はある意味的中し、バッシュ達を鬱陶しがったブレンは、鬱憤は晴らすかの勢いでモンスターをなぎ倒しながら突き進んでいく。おかげで何もすることのない私は、ただ置いていかれないようについていくだけなのだけど、

―ちょっと、予想外

早々に振りきれるだろうと思っていたバッシュ達がぴったりとついてくる。中々振りきることの出来ない彼らに、ブレンが鬱陶しそうに向けた視線、バッシュ達がニヤリと笑って応えた。

「おうおう!俺達もくさっても上位冒険者!50階層までなら、何度だってのぼってんだ!見くびんなよ!」

「兄ちゃんが露払いしてくれるおかげで、モンスターとの遭遇も全然無いからなあ」

「…」

ボス戦闘で引き離したと思っても、気付けはバッシュ達に追い付かれている状況に―不機嫌は変わらないが―ブレンもとうとう諦めたらしい。移動のスピードも幾分緩やかになった。

そしてもう一つ、前回と違ってブレンを鬱陶しがらせるもの、ボス階層に入った際のアナウンス―

そこで流れる『星影』の名に、ボス階層にたどり着いた途端、その場の視線が一斉にこちらを向くという現象が起きた。それだけならまだしも、私達がボス部屋に入れば、少なくない数のパーティーが後から入ってきてはブレンの戦いを見学していく。ブレンの戦い方―ほとんどが一刀両断―では、何の参考にもならないと思うのだけれど。

そんな前回との違いにブレンが若干荒れたりもしたが、階層が上がるにつれて徐々に冒険者の数も減っていき、50階層にたどり着いた頃には、ブレンの機嫌も何とか持ち直していた。

結局、50階層にたどり着いたのは私達とバッシュのパーティーのみ。あとは、50階層に元から常駐しているらしい『ガイラスの夜明け』のパーティーが一組居るだけだった。

時計で確かめれば、前回より到着時間は幾分早い。それでも、

「…今日はここで夜営だね。明日、『デュラハン』を倒してから上に行こう」

「ああ」

壁際、夜営のための場所を確保したところで、バッシュが近づいてきた。

「よお、嬢ちゃん達。どうだ?こっちで一緒に飯にしねえか」

彼が、親切で言っているのだろうことはわかるけれど、

「…ごめん、遠慮しとく」

「付き合い悪いやつらだなぁ」

そう言いながらも、バッシュは笑って仲間の元へ帰っていく。

「…」

その背中に少しは気が咎めたが、彼らと一緒では、食事さえままならないから。

荷物の中から、二人分の携帯食を取り出す。

何度かの練習でわかったこと。目の前に無いものを『万物創造』で造り出すのには、かなりの量の魔力を持っていかれる。この世界に無いものなら、なおさら。そこで考えたのが、実際に目の前にあるものをコピーし、万物創造クリエイトする方法。この方法なら魔力が枯渇することはまず無いので、いざという時に魔力不足、という事態に陥らずに済む。

―万物創造

詠唱すれば、失った魔力の代わりに現れた携帯食。コピー元と寸分違わぬそれは新しいコピー元としてしまいこみ、持ち込んだ携帯食の方をブレンに渡す。

「はい、ブレン」

「…」

黙って受け取ったブレンは、文句も言わずにそれを食べ始めた。それを見守って、自分も同じものを口に運ぶが、

「…」

この方法の欠点は、タワー攻略が終わるまで、ひたすら同じものを食べ続けないといけないということ。

「…飽きたら言ってね?」

「?」

その時は、多少無理をしてでも、別の何かを造ろう。

食事を終え、持ち込んだ毛布にくるまれて横になる。しばらくすると、ボス部屋の扉の一つが内から開いた。身を起こすブレン。視線の先、喧騒とともに部屋から出てきたのは10人ほどの男女、そこに、何人かの見知った顔があった―

「おー。なんだ、レオン、お前達、上に行ってたのか。攻略は進んでんのか?」

「ああ、まあな」

集団のリーダーであるレオン、バッシュの気安い問いかけに答える彼の視線はブレンに注がれている。

アイリーやカイ達を含む他のメンバー達が、彼らの拠点に移動していく中、一人だけ集団を離れたレオンが近づいてきた。

「よお。あんたらも来てたんだな。てことは、明日からは同じ60階層を目指すもん同士ってことか」

「…」

ブレンを見る男の目に、初めて見る挑発的な光。

「まあ、お互い、上手くやろうや」

「…」

最後に不敵に笑った男は、こちらを睨み続けているアイリーや仲間の元、攻略拠点に戻って行った。





翌朝、目覚めた時には既にレオンやアイリー達の姿はなかった。ブレン曰く、数時間前には出ていったということだが、そんな時間に彼らの気配で目覚めたらしいブレンの体調の方が心配になる。気にしながらも朝食を終え、いざ出発という段階で、今度は何やらバッシュ達が騒ぎ出した。

「止めるな!俺は行く!」

「俺らの実力じゃ、無理だっつってんだろうが!」

「離せ!」

朝から元気というか、何というか。

「…何やってるの?」

「あー、嬢ちゃんからも言ってくれよ。バッシュのやつ、『デュラハン』に挑むっつって聞かねえんだよ」

「俺は!絶対にこいつらについてくんだ!タワー踏破をこの目で!」

「…」

正直、彼がそこまで本気だとは思っていなかった。ほとんど冗談、冷やかしだろうと思っていたから。

「あのなぁ、俺らじゃついてくのはここらが限度だって」

「うるせー!俺は!」

「…バッシュ、これ以上はついてこないで、あなたを連れては行けない」

「!?」

先程までの大騒ぎが嘘のように、バッシュがピタリと黙り込む。

「…だけど、ボス部屋にはついてきて。ついてきて、ブレンの戦いを見てて」

ブレンと同じことをやれとは言わない。でも、

「少しでも、参考にして。あなた達の攻略の手がかりにして欲しい」

「…嬢ちゃん」

「…ということになっちゃった。ごめん、お願いします、ブレン」

目まで潤ませてしんみりするバッシュとは対照的に、表情の消えてしまったブレン。

本来なら、デュラハンとは私の魔法中心で戦うはずだった。それをブレンにお願いしたのは、バッシュ達のパーティーには―信じられないことに―魔法使いがいないため、私のやり方では参考にさえならない。勝手に決めてしまった話に頭を下げれば、ブレンは嘆息しながらも頷いてくれた。

その後、危なげなくデュラハンを倒したブレンに、バッシュがまた一騒ぎしたりもあったけど。「打倒!デュラハン」を誓った彼らは、一度ここで折り返すことを決めた。

「…ありがとな、姉ちゃん」

「ううん。バッシュ達も、頑張って」

「おう!じゃあな、気を付けて行ってこいよ!下で待ってるからな!戻ってきたら、一番に俺が話を聞いてやる!」

バッシュの言葉に、思い出した―

「そうだ、バッシュ」

「ん?どうした」

「これ、バッシュ達にあげる」

「って!嬢ちゃんこれ!?」

差し出したのは、ここまでのボスドロップ。既にブレンの戦闘の邪魔になり始めたので私が運んでいたそれを、バッシュに手渡した。

「結構嵩張るから、多分、どこかで廃棄することになってたと思う。それよりは、バッシュ達にもらって欲しい」 

「貰えねえよ!他のもんはともかく『デュラハンの鞭』なんざ、俺たちじゃ手に入らねえ。貰っちまったら、返すことも出来んだろうが!」

別に、返してもらう気は全く無かったのだけれど―

「じゃあ、『いつか』。バッシュ達がデュラハンを倒した時に、返してくれればいい」

「…俺達が、か。そうだな、次、あいつをやるのは俺達の番、だな?」

バッシュの瞳に見えるのは、ブレンがよく見せる―昨夜はレオンも垣間見せていた―闘争の光。どうやら、バッシュにも火がついたらしい。

「あと、一つだけお願いがあって。アイテムの換金は、レイヒャー商会でして欲しい」 

「そりゃ、構わないが」

「ありがとう。これで、私達もアイテムを無駄にしなくて済む」

バッシュ達に別れを告げ、歩き出す。

「…死ぬんじゃねぇぞ」

背後から聞こえた声に、振り向いて、手を振った。




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