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後編 タワー編
2-4.
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2-4.
「これはこれは!ミア殿、ブレン殿!」
タワー50階から、逃げるようにして戻ってきたガイラスの街。冒険者達の干渉を―そのほとんどが称賛ではあったけれど―疎ましがったブレンに引っ張られるようにして戻ってきた場所で待っていたのは―
「お二人のお噂、早速耳にいたしました!大変なご活躍とのこと!」
「…」
なぜ、タワーからここへ直行した私達の噂とやらを、レイヒャーが既に知っているのかは不明だけれど、
「当店へお越しいただいた、ということは、さっそく、回収品のお持ち込みということでよろしいでしょうか?」
「まぁ…」
移動を優先したためドロップ品も大した数はなく、ボスドロップが中心の持ち込みとなったのだが、それでも大興奮したレイヒャーには気前のいい金額で買取りをしてもらえた。
「ミア殿!ブレン殿!それでは、どうかお気をつけて。またのお越しを心よりお待ちしております!」
満面の笑顔で見送られて店を出た後は、通りすがりに見つけた―昨日とはかなり離れた場所の―食堂で食事をとることにした。
食事をとりながら話すのは、今後のタワー攻略について。
「ブレンはどうだった?タワーの感触」
「まあ、悪くはないな」
「うん。私は、次を本番、100階層踏破を目標にしてもいいと思う」
頷くブレン。正直、彼にとっては50階層まででは確実に物足りなかったはずだ。ボス戦を除けば、階層プラス10レベルもあれば危なげなくのぼることが出来るタワーの難易度。ソロであれば、更に5レベルは要るかもしれないけれど、モンスターの湧きが、それほど多いわけでもない。
「食料品や装備の補給は『万物創造』で何とかなりそう。夜営も、ボス階層ならモンスターの強襲も無いから、比較的安全に出来ると思う。ただ、50階から先の10階層をどれくらいの時間でのぼれるかがわからない」
「…50より上は、情報が無いんだな?」
「うん。情報としては売りに出されてなかった。後は、先行してるパーティーから、直接聞き出すなり、買うなりしないとだけど」
「…」
現状、『ガイラスの夜明け』が攻略のトップだということは、情報を握っているのも彼らなわけで。
「…まあ、最悪の場合、ダンジョンど真ん中で夜営するつもりでのぼろう?」
「…今日と同程度なら、10階層くらいは一日でのぼれないか?」
「モンスターはともかく、50階以上の階層の広さと階段の位置が不明だから。一階層にどれくらいの時間がかかるか予測がつかない」
情報のないダンジョンの恐いところ。ダンジョンが、外観からは想像もつかない内部構造をしていることなんてざらで、タワーにしてて51階から上は階層の広さが今までの倍、ということもあり得る。
それでも、ブレンと二人ならまあ、何とかなる、とは思っているけれど。
あとは―
「回収品をどうするか、だよね」
今日一日でわかったこと。通常ドロップはともかく、ボスドロップのアイテムの中には、かなりの重量、嵩張るものもあった。厳選するにしても、二人で運べる量などたかが知れている。
「やっぱり、荷物係を雇う?上位冒険者を雇えれば、少しは楽になると思う」
ただし、荷物係として雇われてくれる上位冒険者が居るかは微妙なところ。或いは、いっそのこと開き直って、
「もしくは、どこかで奴隷を買って、レベル上げしながら連れてく?」
レベル99を越えないようにさえ気を付ければ、ある程度は秘密も守られるはずで―
「駄目だ」
「…そう、だよね」
ブレンが即答するのも当然で、さて、本気でどうするかと悩み始めたところで、ブレンの視線が私の背後を射ぬく。
何事かと振り向く前に、原因の方がドタドタと騒音を立てながら近づいてきた。
「見つけた!兄ちゃん達!いや、『星影』の二人!あんたら、パーティーメンバーは募集してないのか!?」
「…してない」
捲し立てながら近づいてきたのはバッシュ。他の二人を連れていない鬼気迫る様子に、嫌な予感がする。
「じゃあ、荷物持ちはどうだ!?荷物持ちくらい必要だろう!?」
「…」
今まさに、その話をしていたところではあるが。
「俺が雇われてやる!」
「え?」
上位冒険者が何を言っているのか?依頼されたならばまだしも、自分から進んで荷物係になろうだなんて。そう思ったのは私だけではなかったらしく―顔見知りなのだろう―食堂に居た男達から、バッシュへの野次があがった。
「おいおい、バッシュ!お前、そんな新人ども相手にプライドってもんがねぇのかよ!」
「うるせぇ!俺は、見ちまったんだよ!間違いねぇ、タワーを最初に踏破するのは、こいつらだ!俺は、その瞬間をこの目で見てえんだよ!」
「お前、昨日までは『ガイラスの夜明け』が踏破するって騒いでたじゃねえか」
「ありゃ間違いだった。こいつらに比べたら、『夜明け』の連中なんざ、全然だ」
言い切るバッシュの言葉に、彼を野次っていた男達の顔色が悪くなる。
「あ、おい、」
男達の視線の先、バッシュの背後から、店へ入って来た男達。その先頭には、先ほどタワーで振り払ってきたはずの男が目を輝かせながら立っていた。ブレンを、その視界にとらえて―
「これはこれは!ミア殿、ブレン殿!」
タワー50階から、逃げるようにして戻ってきたガイラスの街。冒険者達の干渉を―そのほとんどが称賛ではあったけれど―疎ましがったブレンに引っ張られるようにして戻ってきた場所で待っていたのは―
「お二人のお噂、早速耳にいたしました!大変なご活躍とのこと!」
「…」
なぜ、タワーからここへ直行した私達の噂とやらを、レイヒャーが既に知っているのかは不明だけれど、
「当店へお越しいただいた、ということは、さっそく、回収品のお持ち込みということでよろしいでしょうか?」
「まぁ…」
移動を優先したためドロップ品も大した数はなく、ボスドロップが中心の持ち込みとなったのだが、それでも大興奮したレイヒャーには気前のいい金額で買取りをしてもらえた。
「ミア殿!ブレン殿!それでは、どうかお気をつけて。またのお越しを心よりお待ちしております!」
満面の笑顔で見送られて店を出た後は、通りすがりに見つけた―昨日とはかなり離れた場所の―食堂で食事をとることにした。
食事をとりながら話すのは、今後のタワー攻略について。
「ブレンはどうだった?タワーの感触」
「まあ、悪くはないな」
「うん。私は、次を本番、100階層踏破を目標にしてもいいと思う」
頷くブレン。正直、彼にとっては50階層まででは確実に物足りなかったはずだ。ボス戦を除けば、階層プラス10レベルもあれば危なげなくのぼることが出来るタワーの難易度。ソロであれば、更に5レベルは要るかもしれないけれど、モンスターの湧きが、それほど多いわけでもない。
「食料品や装備の補給は『万物創造』で何とかなりそう。夜営も、ボス階層ならモンスターの強襲も無いから、比較的安全に出来ると思う。ただ、50階から先の10階層をどれくらいの時間でのぼれるかがわからない」
「…50より上は、情報が無いんだな?」
「うん。情報としては売りに出されてなかった。後は、先行してるパーティーから、直接聞き出すなり、買うなりしないとだけど」
「…」
現状、『ガイラスの夜明け』が攻略のトップだということは、情報を握っているのも彼らなわけで。
「…まあ、最悪の場合、ダンジョンど真ん中で夜営するつもりでのぼろう?」
「…今日と同程度なら、10階層くらいは一日でのぼれないか?」
「モンスターはともかく、50階以上の階層の広さと階段の位置が不明だから。一階層にどれくらいの時間がかかるか予測がつかない」
情報のないダンジョンの恐いところ。ダンジョンが、外観からは想像もつかない内部構造をしていることなんてざらで、タワーにしてて51階から上は階層の広さが今までの倍、ということもあり得る。
それでも、ブレンと二人ならまあ、何とかなる、とは思っているけれど。
あとは―
「回収品をどうするか、だよね」
今日一日でわかったこと。通常ドロップはともかく、ボスドロップのアイテムの中には、かなりの重量、嵩張るものもあった。厳選するにしても、二人で運べる量などたかが知れている。
「やっぱり、荷物係を雇う?上位冒険者を雇えれば、少しは楽になると思う」
ただし、荷物係として雇われてくれる上位冒険者が居るかは微妙なところ。或いは、いっそのこと開き直って、
「もしくは、どこかで奴隷を買って、レベル上げしながら連れてく?」
レベル99を越えないようにさえ気を付ければ、ある程度は秘密も守られるはずで―
「駄目だ」
「…そう、だよね」
ブレンが即答するのも当然で、さて、本気でどうするかと悩み始めたところで、ブレンの視線が私の背後を射ぬく。
何事かと振り向く前に、原因の方がドタドタと騒音を立てながら近づいてきた。
「見つけた!兄ちゃん達!いや、『星影』の二人!あんたら、パーティーメンバーは募集してないのか!?」
「…してない」
捲し立てながら近づいてきたのはバッシュ。他の二人を連れていない鬼気迫る様子に、嫌な予感がする。
「じゃあ、荷物持ちはどうだ!?荷物持ちくらい必要だろう!?」
「…」
今まさに、その話をしていたところではあるが。
「俺が雇われてやる!」
「え?」
上位冒険者が何を言っているのか?依頼されたならばまだしも、自分から進んで荷物係になろうだなんて。そう思ったのは私だけではなかったらしく―顔見知りなのだろう―食堂に居た男達から、バッシュへの野次があがった。
「おいおい、バッシュ!お前、そんな新人ども相手にプライドってもんがねぇのかよ!」
「うるせぇ!俺は、見ちまったんだよ!間違いねぇ、タワーを最初に踏破するのは、こいつらだ!俺は、その瞬間をこの目で見てえんだよ!」
「お前、昨日までは『ガイラスの夜明け』が踏破するって騒いでたじゃねえか」
「ありゃ間違いだった。こいつらに比べたら、『夜明け』の連中なんざ、全然だ」
言い切るバッシュの言葉に、彼を野次っていた男達の顔色が悪くなる。
「あ、おい、」
男達の視線の先、バッシュの背後から、店へ入って来た男達。その先頭には、先ほどタワーで振り払ってきたはずの男が目を輝かせながら立っていた。ブレンを、その視界にとらえて―
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