バグ発見~モブキャラの私にレベルキャップが存在しなかった~

リコピン

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後編 タワー編

2-1. ギルドと再会とトライアル

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2-1.

言葉通り、買取り金額にかなりの色をつけてくれたらしいレイヒャーのおかげで、しばらくはのんびり出来るくらいの現金を手にすることが出来た。

そのまま、レイヒャーお薦めだという宿に部屋をとった頃には既に日も暮れ、情報収集を兼ねて、ブレンと二人、夜の食堂へと出掛けることにする。

街で評判だという店の扉を開けた瞬間、店選びに失敗したことを悟った。

常連客だろう、厳つい体格の冒険者達が店の一角を陣取り、それ以外の席も、似たような格好の男達がチラホラ見える。

突き刺さる視線、新参者を値踏みする―

「…」

「…ブレン、ダメだからね」

つまり、売られた喧嘩は買う主義のブレンが、ちょっとしたことで暴発してしまいそうな雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。

「情報収集に来たんだから、揉めないで」

「…」

一応釘は差したけど、果たしてどれくらい効果があるものやら。

「…何にするんだい?」

席についたところで注文を取りに来た女性、

「ビーア二つと、後はお薦めを」

「あいよ」

女性が席を離れていったのと入れ替わりに、近づいてきたのは、

「よお?あんたらもタワーにのぼりに来たのかい?」

「…まあ」

どう見てもガラの悪そうな、おまけにいつから飲んでいるのか、完全に出来上がってしまっている三人の男達。それでも、アナライズをかければ全員がレベル60を越えていて、つまり、全員が上位冒険者―

その彼らに、値踏みするような視線を向けられて、恐らくは、こちらもアナライズをかけられた。

「はーん?パーティーメンバーは二人か?所属するギルドは決まってんのか?」

「ギルドに入るつもりはない」

「おいおいおい!マジかよ!」

「おー?どうした?」

男達のこれ見よがしな大声に、遠くの席からもヤジが飛ぶ。

「こいつら、ギルドにも入らずにタワーにのぼる気でいやがるぜ!何だー、お前ら?もしかして低層階漁るためだけに、この街に来たのか?」

「バッシュ、新人を虐めてやんなよ」

「ギャハハハハ」

店中に響き渡る男達の会話に、周囲から一斉に笑い声が上がった。

「あのなー、お二人さん。いいかー、よく聞けよ?」

絡んできたのは、バッシュと呼ばれた男。

「タワーってのは、お嬢ちゃん達が考えてるほど、甘い場所じゃねぇんだよ。20階層以上、本気で100階層踏破を目指したきゃ、先ずはどっかのギルドに属さなきゃダメだ」

フラフラしながら、こちらに指を突きつけてくる。

「お嬢ちゃん達、100階までの食いもんはどうするつもりだ?剣が折れたら?装備がぶっ壊れたら?どうやって、補給するつもりだ?」

「…」

「な?何も考えてなかったんだろ?そういうのを、仲間同士助け合ってのぼろうってのが、ギルドなんだよ。だから、そこんとこ、きちんと調べてよ、真っ当なギルドに入れよってこった」

うんうんと満足気に頷くバッシュという男に代わって、隣の男が口を開いた。

「うちのギルドは新人を受け入れてねぇからな、他所でってなると、一番のお薦めは、やっぱり、『ガイラスの夜明け』だな。悔しいが、あいつらが今一番、タワー踏破に近いギルドだ」

男の言葉に、周囲からも賛同の声が上がる。

「『夜明け』の連中はすげえぞ?あいつら、ギルドメンバーだけで、10も20もパーティーを組んでやがる。その人数で、交代でモンスターを狩って資金を稼いで、人を雇う」

「10階層毎に攻略拠点を作って、そこに人や物資を置くことで、タワーの攻略速度を一気に押し上げやがった」

代わる代わるに語る男達の言葉が次第に熱を帯び始め、

「今は50階層まで拠点があって、もうすぐ60階層に到達するところまで来てるんだよ、あいつらは」

「今が、タワーの攻略史上でも一番波にのってる時だな。『夜明け』の連中のせいで、100階層踏破が本気で現実味を持ってきやがった」

興奮ぎみに語る男に、確認しておきたい情報を尋ねた。

「…100階層を踏破したらどうなるの?攻略特典は?」

「あー?そんなもん、誰も到達したやつがいねぇんだ、わかるわけねぇだろ?」

「…文献とか」

「んなもん、聞いたこともねぇ!何だ?嬢ちゃん、本気で100階層狙ってんのか?二人で?」

「ブハハハハ!」

男の大声に、再び大きな笑いが起こる。

上位冒険者である彼らが『女神の慈雨』について、本当になにも知らないのだとしたら、考えられるのは、一つ。アイリーの情報源はこの世界ではなく、前世のゲーム情報を元にしているということ。だとしたら、『女神の慈雨』は実際にはこの世界に存在しない可能性も、未だあるわけだ。

「お、噂をすればだ」

「来やがったぜ。『ガイラスの夜明け』の連中だ」

男達の言葉に、背後を振り向く。扉を押して雪崩れ込む勢いで入ってきた男達の先頭、一際目を引く大柄な男。だけど、目を奪っていったのは、その隣。

いつかも、こんなことがあった―

視界に映ったのは、目に鮮やかな、桃色。




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