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後編 タワー編
1-3.
しおりを挟む1-3.
「なるほどなるほど、それで金銭的にお困りであると。いやはやしかし、それを私が『元凶』とまで仰るのは少々言い過ぎではございませんか?」
「…」
ニコニコと笑うレイヒャーに、まあ、確かに八つ当たり、言い過ぎだったかもとは思う。だけど、「原因の一部を作った」くらいは言ってもいいだろう。
「…なるべく高く買い取って。無茶は言わないけど、あまりタワーにのぼる前から時間をかけたくない」
「ええ、ええ!それはもう、私どもとお二人の間でございますから!出来る限りのご支援はお約束いたしましょう!」
だから、タワーでのドロップ品はレイヒャー商会に持ち込め、ということなんだろうけど、仕方ない。レイヒャーの笑顔に頷いて、気になったことを口にする。
「さっきの、受付の人は大丈夫?」
「はてさて、大丈夫と仰るのはこれまたどういった意味でございますかな?」
「さすがに、あの数は多すぎたかなって思って。『苔ウサギ』も『まる鳥』も見た目可愛いから。あれだけの数が虐殺されたって考えたら、」
まだ年若い彼女が気分を悪くしたとしても、不思議ではないと思ったのだ。
「なるほどなるほど!しかし、そういったご心配でしたら、無用にございますよ?彼女も窓口についてそこそこの経験を積んでおりますから」
「じゃあ…?」
一笑に付したレイヒャーに、視線で問う。
「ええ、ええ。彼女が焦ってしまったのも、やはりお二人のお持ちになったお品の質の良さが原因でございます」
「…」
「当店では、お持ちいただいたお品の質と数で、ある程度買取り金額を上乗せさせて頂いておりますが、それにしても、お二人のお持ちいただいたお品は質が良すぎた!」
興奮気味に語るレイヒャーの目は輝いていて、
「おまけに数も相当なもの!あの子もすっかり、混乱してしまったようで。まだまだ勉強中なものですから、お時間をとらせて申し訳ない」
「…査定がきちんとされるなら、時間は気にしない」
量が量だ。元から、時間がかかることは想定していた。
「そう言って頂けますと、有り難いですな。それはそうと、ミア殿」
「?」
「ミア殿に、是非お目通り願いたいと言う者がおりましてな、いかがでしょう?良ければ、お会いになって頂けますか?」
「それは、構わない」
だけど、一体、誰が―?
この地に知り合いなんて居ないはず。
その疑問に対する答えは、しごくあっさりと、部屋の扉の向こうから現れた。
現れたのは壮年の男。がっしりとした肩幅の割りに、私とそう変わらない身長。額の傷も、だいぶ薄くはなっているが、あの頃のまま、変わらない。
「…ヨーゼフ」
「お久しぶりでございます、ミア様」
ニコニコと私の名を呼ぶ彼に、私への嫌悪はうかがえない。それでも、胸は軋んだ。
「…元気だった?」
「はい、ミア様もお変わりなく」
立ち上がり、手を伸ばせば、大きくて温かな手が包み返してくれる。
―そうだ、私は彼のこの手が大好きだった
八年前、ビンデバルドの家に奴隷として売られてきたヨーゼフ、彼と手を繋ぐことが―
「…ヨーゼフ、あなたと話がしたい」
「?」
ヨーゼフの視線が私とレイヒャーを見比べる。
「レイヒャー、お願い。ヨーゼフと二人で話したいことがある」
「ええ、それはもちろん構いません。では、どこかに部屋を、」
立ち上がろうとしたレイヒャーを遮る声、
「待て、ミア。『二人で』とはどういうことだ?」
「ごめん、ブレン。だけど、お願い」
「…ダメだ」
ブレンの視線がヨーゼフを貫く。
「ブレン、大丈夫だから。警戒しなくても、ヨーゼフは平気なの」
「…」
ブレンの眉間に刻まれた皺が深くなる。納得してくれそうにないその様子に思いあぐねていると、
「では、本来お客様をお通しするような場所ではないのですが、隣の部屋をお使いください。それならば、ブレン殿も多少はご安心頂けるでしょうから」
「…」
レイヒャーの言葉に、ブレンが彼を睨むが、
「ヨーゼフ、案内を」
「かしこまりました」
ブレンの視線を受け流したレイヒャー。彼の指示に従ったヨーゼフが部屋を出る。ブレンの様子は気になるけれど、立ち止まり、こちらを待つヨーゼフの後を追った。
「なるほどなるほど、それで金銭的にお困りであると。いやはやしかし、それを私が『元凶』とまで仰るのは少々言い過ぎではございませんか?」
「…」
ニコニコと笑うレイヒャーに、まあ、確かに八つ当たり、言い過ぎだったかもとは思う。だけど、「原因の一部を作った」くらいは言ってもいいだろう。
「…なるべく高く買い取って。無茶は言わないけど、あまりタワーにのぼる前から時間をかけたくない」
「ええ、ええ!それはもう、私どもとお二人の間でございますから!出来る限りのご支援はお約束いたしましょう!」
だから、タワーでのドロップ品はレイヒャー商会に持ち込め、ということなんだろうけど、仕方ない。レイヒャーの笑顔に頷いて、気になったことを口にする。
「さっきの、受付の人は大丈夫?」
「はてさて、大丈夫と仰るのはこれまたどういった意味でございますかな?」
「さすがに、あの数は多すぎたかなって思って。『苔ウサギ』も『まる鳥』も見た目可愛いから。あれだけの数が虐殺されたって考えたら、」
まだ年若い彼女が気分を悪くしたとしても、不思議ではないと思ったのだ。
「なるほどなるほど!しかし、そういったご心配でしたら、無用にございますよ?彼女も窓口についてそこそこの経験を積んでおりますから」
「じゃあ…?」
一笑に付したレイヒャーに、視線で問う。
「ええ、ええ。彼女が焦ってしまったのも、やはりお二人のお持ちになったお品の質の良さが原因でございます」
「…」
「当店では、お持ちいただいたお品の質と数で、ある程度買取り金額を上乗せさせて頂いておりますが、それにしても、お二人のお持ちいただいたお品は質が良すぎた!」
興奮気味に語るレイヒャーの目は輝いていて、
「おまけに数も相当なもの!あの子もすっかり、混乱してしまったようで。まだまだ勉強中なものですから、お時間をとらせて申し訳ない」
「…査定がきちんとされるなら、時間は気にしない」
量が量だ。元から、時間がかかることは想定していた。
「そう言って頂けますと、有り難いですな。それはそうと、ミア殿」
「?」
「ミア殿に、是非お目通り願いたいと言う者がおりましてな、いかがでしょう?良ければ、お会いになって頂けますか?」
「それは、構わない」
だけど、一体、誰が―?
この地に知り合いなんて居ないはず。
その疑問に対する答えは、しごくあっさりと、部屋の扉の向こうから現れた。
現れたのは壮年の男。がっしりとした肩幅の割りに、私とそう変わらない身長。額の傷も、だいぶ薄くはなっているが、あの頃のまま、変わらない。
「…ヨーゼフ」
「お久しぶりでございます、ミア様」
ニコニコと私の名を呼ぶ彼に、私への嫌悪はうかがえない。それでも、胸は軋んだ。
「…元気だった?」
「はい、ミア様もお変わりなく」
立ち上がり、手を伸ばせば、大きくて温かな手が包み返してくれる。
―そうだ、私は彼のこの手が大好きだった
八年前、ビンデバルドの家に奴隷として売られてきたヨーゼフ、彼と手を繋ぐことが―
「…ヨーゼフ、あなたと話がしたい」
「?」
ヨーゼフの視線が私とレイヒャーを見比べる。
「レイヒャー、お願い。ヨーゼフと二人で話したいことがある」
「ええ、それはもちろん構いません。では、どこかに部屋を、」
立ち上がろうとしたレイヒャーを遮る声、
「待て、ミア。『二人で』とはどういうことだ?」
「ごめん、ブレン。だけど、お願い」
「…ダメだ」
ブレンの視線がヨーゼフを貫く。
「ブレン、大丈夫だから。警戒しなくても、ヨーゼフは平気なの」
「…」
ブレンの眉間に刻まれた皺が深くなる。納得してくれそうにないその様子に思いあぐねていると、
「では、本来お客様をお通しするような場所ではないのですが、隣の部屋をお使いください。それならば、ブレン殿も多少はご安心頂けるでしょうから」
「…」
レイヒャーの言葉に、ブレンが彼を睨むが、
「ヨーゼフ、案内を」
「かしこまりました」
ブレンの視線を受け流したレイヒャー。彼の指示に従ったヨーゼフが部屋を出る。ブレンの様子は気になるけれど、立ち止まり、こちらを待つヨーゼフの後を追った。
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