バグ発見~モブキャラの私にレベルキャップが存在しなかった~

リコピン

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後編 タワー編

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結局、タワーの入口まで行ったはいいものの、やはり受付でパーティー名の提示を求められ、即答出来ずにその場を後にした。

二人して、「パーティー名は?」と聞かれても何も浮かばなかったのだ。

タワー攻略がお預けになって不機嫌がマックスのブレンが、近くのダンジョンに適当なものを狩りに行くと言い出し、さっき入って来たばかりの街の城門を逆戻りすることになった。

最寄りの―初心者が命の危険なく低レベルモンスターを狩れる―ダンジョンで、そこそこの数のモンスターを狩り終わった頃には、ブレンの機嫌もようやく回復して、ただ、

「ミア、パーティー名はお前が決めろ」

「…」

面倒ごとをこちらに丸投げする姿勢はいただけないと思うけど。

ダンジョンで狩った『苔ウサギ』と『まる鳥』のドロップ品もそこそこ手に入り、換金するために引き返した街の中、

「どうしよう?冒険者組合に持ち込む?組合なら、買い叩かれることはないと思うけど」

「お前の好きにしろ」

「うーん」

悩むのは、組合では買い叩かれることも無い代わりに、品質に応じて高く買ってくれることもないということ。今後、タワーに昇ることを考えれば、ドロップ品はなるべく高く買い取って貰いたい。

「ちょっと、情報収集しよう。どこがいいか」

「…」

「あと、タワーに昇るのに何がいるのか、どれくらいかかるのかも知りたい」

食料と装備のことは置いておくとしても、ダンジョン内で夜営する際の道具、特殊攻撃をしてくるモンスターに対抗するための道具など、用意しておかなければならないものがある。

ブレンと並んで街中を冷やかしながら情報を集めていけば、度々名前が上がる換金所、商会があった。聞く限りでは、そこが一番公正に買取りをしてくれそうなのだけれど、躊躇ってしまうのは―

「ミア、あそこだ」

「…」

ブレンの視線の先、掲げられた看板に書かれた文字は、『レイヒャー商会 ガイラス店』

「…まあ、本人が居るとは限らないし」

例え居たとしても、窓口でさっさと換金してしまえば、遭遇することも無いだろう。今はとにかく、少しでも高く売ることが優先だから。

「…行こっか、ブレン」

黙って後をついてくるブレンと、店の扉をくぐった。

「いらっしゃいませ」

「…こんにちは」

入ってすぐかけられた声も、店の雰囲気も、悪くない。カウンターに窓口は一つ。今は誰も並んでいないその場所へと足を進めた。

「…買取りをお願いします」

「はい、ありがとうございます!では、お品ものをこちらにお願いいたします」

「…」

窓口の女性の笑顔に、ブレンが無言でカウンターに袋を置く。

「!かなりの量ですね。では早速、お品を改めさせて頂きます」

そう言って、中から『苔ウサギ』のドロップ品『苔ボール』を取りだし始めた女性の顔色が、どんどん悪くなっていく。『まる鳥』のドロップ品である『まる鳥の羽』が出てきた時点で、ソワソワし出した彼女は、その数が三桁に達した時点で、突然、立ち上がった。

「お客様!少々お待ちくださいませ!」

「…」

返事をする間もなく奥へと引っ込んでいった女性を見送って、ブレンを見上げる。

「…ブレンのせい」

「何がだ?」

ちょっと、さすがに数が多すぎたんだと思う。希少価値も低いし、一つ一つは大した額にならないからと、まとめて出したのも不味かったかもしれない。

さて、どうなるんだろうと、女性の帰りを待てば、

「…来たぞ」

「え?」

ブレンの視線の先、買取りカウンターの奥からではなく、商品の並べられている店内の奥から現れたのは―

「おやおや!これはこれは!やはり、あなた方でしたか。お久しぶりにございますね?ミア殿、ブレン殿」

ニコニコと、人の良さげな満面の笑みを浮かべた、

「…レイヒャー」

私に『賢者の石』を売った商人、金欠の元凶―




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