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前編 学園編
6-5.
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6-5.
城壁への階段を駆け上がり、周囲を見回す。
―居た
こちらに近づいてくるブレンに、条件反射でかけてしまったアナライズ。
体力が、減っている。しかも、かなり。ブレンの体力が八割を切ることなんて、最近は全くなかったのに。半分近くに減ってしまっている体力にゾッとして、急いでヒールを唱えた。
「…ブレン」
「ミア、怪我は無いな」
「…うん」
ブレンの方こそ、人を心配している場合ではない。渡したポーションはどうした。言いたいことは山ほどあるけど、だけど、やっぱり、
「…お帰り、ブレン」
ちゃんと、帰ってきてくれて、良かった―
「…ああ」
応えるブレンの目元が緩む。さすがに疲れの見える様子に、怪我以外、どこか不調は無いか確認しようと一歩近づいたところで、
「どうして!?何でみんな、ディーツに協力してくれなかったの!?」
「…」
聞こえてきた怒声は、以前も耳にしたことがあるもの。無視も出来ずに振り返れば、思った通りの人物が、学園の生徒達と睨み合うようにして対峙していた。
「みんながディーツに協力してくれれば、モンスターを倒すのだって、もっとずっと楽に出来たんだよ!」
「私達はディーツ様のお言葉には従えません」
「はぁ!?」
アイリーと対峙する女生徒達、その中心に居る―恐らく高位の―令嬢には、見覚えがあった。
「私達は、カトレア様をお慕いしております。カトレア様のお心を踏みにじった、あなたやディーツ様のお言葉に従う気はございません」
そうだ、カトレアの取り巻きをしていた一人―
「っでも!だって、王都を守るためでしょう!」
「私達は、カトレア様指揮の元、自分達に出来うる限りのことを成したと、そう自負しております」
「なっ!?」
それまで無表情だった令嬢の顔に、あからさまな嫌悪が浮かぶ。
「あなたに私達の行動をとやかく言われる筋合いはございません。…私、複数の殿方を侍らせて喜ぶあなたが嫌いです」
「!?だって!仕方ないじゃない!だって、そういう【システム】、世界なんだから!そういう設定でしょ!」
仕方がない―
きっと、そうなのだろう。彼女にとっては。だけど、相容れない。そう思うのは価値観の相違。
私は、知っているから―
「仕方ない」で終わらせなかった存在を。「レベル制限」というシステムの中で、「レベル30」という設定に逆らい続けた彼を。彼のその姿を、私は美しいと思った―
見守る中、再び無表情に戻った女生徒が言い捨てる。
「…あなたが、何をおっしゃっているのか、わかりません」
その言葉に怒り狂ったアイリーが汚い言葉を投げつけるが、既に背を向けてしまった彼女達にそれは届かない。
アイリーのやっていること―
それは、ゲームだからこそ許されたこと。現実に持ち込めば、受け入れられないのは当然で。
彼女には、彼らがどう見えているのだろう?ディーツやアルド、カイと一緒に居て、彼女は何も思わないのだろうか?
怒って、悔しがって、戦って傷ついて。私はもう、ブレンをゲームのキャラだとは思えない。星影の塔で、何かをつかむため、一心に剣を振るっていた、彼のあの魂の輝きを見てしまった時から―
隣を見上げれば、ブレンと目が合う。そのまま「行こうか?」と合図を送れば、
「!ミア!あんた!今頃現れて!」
標的がこちらに切り替わったらしいアイリーにつかまった。
「自分は何もしないで、ブレンだけに戦わせて!何様のつもり!?」
「…」
「あんた、何なの!?ブレンがあんなに強いなんて、あり得ない!おかしいでしょう!?」
一方的に捲し立てるアイリー。背後に控えるカイ以外、さっきからディーツもアルドも見当たらない。
「『賢者の石』だけじゃない、ディーツのことも!全部、あんたが何かしたせいでおかしくなったのよ!」
血走った目で睨まれて、
「あんた、転生者なんでしょ!」
「…」
投げつけられた問いに、答えるつもりは無いけれど。断定する口調に、彼女がそれを確信していることを知る。
「あんたも狙ってるのね!?ガイラスタワー攻略!だから私の邪魔をするんでしょう!」
「別に、」
そんなつもりはない。思わず漏れた嘆息に、返ってきたのは予想もしなかった言葉。
「嘘よ!攻略特典の『女神の慈雨』を狙ってるんでしょ!」
「っ!?」
本気で、息を飲んだ―
『女神の慈雨』
攻略サイトでは、不確定情報として何度も囁かれていたアイテム。大型アップデートの度にリリースが噂されていた、
―あるの?本当に?
真の意味でのレベル上限開放アイテム、レベル99を越えるためのアイテムが―
城壁への階段を駆け上がり、周囲を見回す。
―居た
こちらに近づいてくるブレンに、条件反射でかけてしまったアナライズ。
体力が、減っている。しかも、かなり。ブレンの体力が八割を切ることなんて、最近は全くなかったのに。半分近くに減ってしまっている体力にゾッとして、急いでヒールを唱えた。
「…ブレン」
「ミア、怪我は無いな」
「…うん」
ブレンの方こそ、人を心配している場合ではない。渡したポーションはどうした。言いたいことは山ほどあるけど、だけど、やっぱり、
「…お帰り、ブレン」
ちゃんと、帰ってきてくれて、良かった―
「…ああ」
応えるブレンの目元が緩む。さすがに疲れの見える様子に、怪我以外、どこか不調は無いか確認しようと一歩近づいたところで、
「どうして!?何でみんな、ディーツに協力してくれなかったの!?」
「…」
聞こえてきた怒声は、以前も耳にしたことがあるもの。無視も出来ずに振り返れば、思った通りの人物が、学園の生徒達と睨み合うようにして対峙していた。
「みんながディーツに協力してくれれば、モンスターを倒すのだって、もっとずっと楽に出来たんだよ!」
「私達はディーツ様のお言葉には従えません」
「はぁ!?」
アイリーと対峙する女生徒達、その中心に居る―恐らく高位の―令嬢には、見覚えがあった。
「私達は、カトレア様をお慕いしております。カトレア様のお心を踏みにじった、あなたやディーツ様のお言葉に従う気はございません」
そうだ、カトレアの取り巻きをしていた一人―
「っでも!だって、王都を守るためでしょう!」
「私達は、カトレア様指揮の元、自分達に出来うる限りのことを成したと、そう自負しております」
「なっ!?」
それまで無表情だった令嬢の顔に、あからさまな嫌悪が浮かぶ。
「あなたに私達の行動をとやかく言われる筋合いはございません。…私、複数の殿方を侍らせて喜ぶあなたが嫌いです」
「!?だって!仕方ないじゃない!だって、そういう【システム】、世界なんだから!そういう設定でしょ!」
仕方がない―
きっと、そうなのだろう。彼女にとっては。だけど、相容れない。そう思うのは価値観の相違。
私は、知っているから―
「仕方ない」で終わらせなかった存在を。「レベル制限」というシステムの中で、「レベル30」という設定に逆らい続けた彼を。彼のその姿を、私は美しいと思った―
見守る中、再び無表情に戻った女生徒が言い捨てる。
「…あなたが、何をおっしゃっているのか、わかりません」
その言葉に怒り狂ったアイリーが汚い言葉を投げつけるが、既に背を向けてしまった彼女達にそれは届かない。
アイリーのやっていること―
それは、ゲームだからこそ許されたこと。現実に持ち込めば、受け入れられないのは当然で。
彼女には、彼らがどう見えているのだろう?ディーツやアルド、カイと一緒に居て、彼女は何も思わないのだろうか?
怒って、悔しがって、戦って傷ついて。私はもう、ブレンをゲームのキャラだとは思えない。星影の塔で、何かをつかむため、一心に剣を振るっていた、彼のあの魂の輝きを見てしまった時から―
隣を見上げれば、ブレンと目が合う。そのまま「行こうか?」と合図を送れば、
「!ミア!あんた!今頃現れて!」
標的がこちらに切り替わったらしいアイリーにつかまった。
「自分は何もしないで、ブレンだけに戦わせて!何様のつもり!?」
「…」
「あんた、何なの!?ブレンがあんなに強いなんて、あり得ない!おかしいでしょう!?」
一方的に捲し立てるアイリー。背後に控えるカイ以外、さっきからディーツもアルドも見当たらない。
「『賢者の石』だけじゃない、ディーツのことも!全部、あんたが何かしたせいでおかしくなったのよ!」
血走った目で睨まれて、
「あんた、転生者なんでしょ!」
「…」
投げつけられた問いに、答えるつもりは無いけれど。断定する口調に、彼女がそれを確信していることを知る。
「あんたも狙ってるのね!?ガイラスタワー攻略!だから私の邪魔をするんでしょう!」
「別に、」
そんなつもりはない。思わず漏れた嘆息に、返ってきたのは予想もしなかった言葉。
「嘘よ!攻略特典の『女神の慈雨』を狙ってるんでしょ!」
「っ!?」
本気で、息を飲んだ―
『女神の慈雨』
攻略サイトでは、不確定情報として何度も囁かれていたアイテム。大型アップデートの度にリリースが噂されていた、
―あるの?本当に?
真の意味でのレベル上限開放アイテム、レベル99を越えるためのアイテムが―
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