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前編 学園編
6-4. Side B
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6-4.
城壁の向こうから、モンスターを弾き飛ばしながら広がった結界。
―くそ、間に合わなかったか
ミアの部屋を出た後、最速で向かったモンスターの群れ。群れの首である『タイラントベヒモス』を狩ろうとしたところで、邪魔が入った。首の親衛隊、盾となった大型種に阻まれベヒモスをとり逃がしたあげく、物理耐性の高い甲殻種を狩るのに時間を取られた。
結局―
目の前には、王都全体を半球で包む結界。そこに、綻びは一つも見えない。
ミアの負担を減らすつもりが、間に合わなかった己に苛立つ。後は、一秒でも早く、モンスターどもを葬り去る。それが、今、己に出来ること―
「ブレン!」
「…」
モンスターを狩る間合いに、無神経に入りこんできた女。
「ブレン、あなたスゴいわ!そんなに強かったのね!?ねえ、本気で私のパーティーに入らない?」
「…邪魔だ」
モンスターごと、女を叩き斬ってしまいそうで、鬱陶しいことこの上ない。
女を見やれば、その向こう、女に付き従う男と目があった―
「…」
「…」
―気に入らねぇ
それはどうやら、向こうも同じらしい。こちらを見る目に、暗い焔が灯って見える。恐らく、己の目にも同じものが―
「ねえ!ブレン、そんなこと言わないで、ね?お願い!」
「…来るぞ」
「え?」
忠告はした。直後、叩きつけられたのは、ベヒモスの巨大な尾。辛うじて避けたらしい女は、地面に転がってはいるが、ダメージは負っていない。駆け寄った男の手を取った女が立ち上がり、
「っ!ブレン!パーティーに入らないなら、手を出さないで!ベヒモスは私が倒すんだから!」
「…好きにしろ」
この女とは共闘するつもりもない。距離をとり、間合いを確保してから、また剣を振るう。ひたすらにモンスターを狩り続け、その数を残り三分の一ほどまで減らしたところで、視界に飛び込んできた光景に舌打ちする。
功を焦った女の無謀な突撃、庇った男の身体が宙を舞う。そのまま、ベヒモスに突っ込んで行った女。転がったままの男の身体は、ピクリともしない―
「っ!」
もう一度舌打ちし、男の元へ跳んだ。周囲の数体を凪ぎ払い、男の身体をモンスターの死骸の影に引きずり込む。心音を確かめれば、
―動いては、いるか
辛うじて、だが、生きている。
―死んでいれば、終わりに出来たものを
このまま、知らぬふりも出来る。
だが、浮かぶのは、ミアの顔―
「っくそ!」
取り出したポーションを、男の口に流し込む。数度、身体を震わせた男が、ゆっくりと、瞳を開いた。
「聞け」
焦点の合い始めた男の目を見下ろす。
「貴様は今、死にかけた」
男の瞳が、僅かに揺れた。
「体力が1、足りなければ、レベルが1、低ければ、貴様は確実に死んでいた」
「…」
「飲ませたポーションは、ミアが手に入れたものだ」
対峙する男の目に力が戻る。
「あいつに救われた命だ。粗末にするな」
「…」
ふらつきながらも立ち上がった男は、無言のまま、周囲を見渡す。その目が、ベヒモスに剣を突き立てる女の姿を捉え―
一瞬の躊躇いもなく駆け出した男の背に、どうしようもない苛立ちを感じて、背を向ける。
「…」
再び剣を振るう中、背後に上がるベヒモスの咆哮。消え行く巨大な気配に、その最期を知る。
統率を失い、それでも向かってくるやつらを狩り続け、どれほどの時間が過ぎたのか、気がつけば、周囲に動くものはおらず。
平野の向こう、城壁近くでモンスターを狩る人間の姿は見えるが、脅威、と言えるほどのものは既に無い。
城壁近く、上がる歓声。
呼応するかのように、結界が消えた―
城壁の向こうから、モンスターを弾き飛ばしながら広がった結界。
―くそ、間に合わなかったか
ミアの部屋を出た後、最速で向かったモンスターの群れ。群れの首である『タイラントベヒモス』を狩ろうとしたところで、邪魔が入った。首の親衛隊、盾となった大型種に阻まれベヒモスをとり逃がしたあげく、物理耐性の高い甲殻種を狩るのに時間を取られた。
結局―
目の前には、王都全体を半球で包む結界。そこに、綻びは一つも見えない。
ミアの負担を減らすつもりが、間に合わなかった己に苛立つ。後は、一秒でも早く、モンスターどもを葬り去る。それが、今、己に出来ること―
「ブレン!」
「…」
モンスターを狩る間合いに、無神経に入りこんできた女。
「ブレン、あなたスゴいわ!そんなに強かったのね!?ねえ、本気で私のパーティーに入らない?」
「…邪魔だ」
モンスターごと、女を叩き斬ってしまいそうで、鬱陶しいことこの上ない。
女を見やれば、その向こう、女に付き従う男と目があった―
「…」
「…」
―気に入らねぇ
それはどうやら、向こうも同じらしい。こちらを見る目に、暗い焔が灯って見える。恐らく、己の目にも同じものが―
「ねえ!ブレン、そんなこと言わないで、ね?お願い!」
「…来るぞ」
「え?」
忠告はした。直後、叩きつけられたのは、ベヒモスの巨大な尾。辛うじて避けたらしい女は、地面に転がってはいるが、ダメージは負っていない。駆け寄った男の手を取った女が立ち上がり、
「っ!ブレン!パーティーに入らないなら、手を出さないで!ベヒモスは私が倒すんだから!」
「…好きにしろ」
この女とは共闘するつもりもない。距離をとり、間合いを確保してから、また剣を振るう。ひたすらにモンスターを狩り続け、その数を残り三分の一ほどまで減らしたところで、視界に飛び込んできた光景に舌打ちする。
功を焦った女の無謀な突撃、庇った男の身体が宙を舞う。そのまま、ベヒモスに突っ込んで行った女。転がったままの男の身体は、ピクリともしない―
「っ!」
もう一度舌打ちし、男の元へ跳んだ。周囲の数体を凪ぎ払い、男の身体をモンスターの死骸の影に引きずり込む。心音を確かめれば、
―動いては、いるか
辛うじて、だが、生きている。
―死んでいれば、終わりに出来たものを
このまま、知らぬふりも出来る。
だが、浮かぶのは、ミアの顔―
「っくそ!」
取り出したポーションを、男の口に流し込む。数度、身体を震わせた男が、ゆっくりと、瞳を開いた。
「聞け」
焦点の合い始めた男の目を見下ろす。
「貴様は今、死にかけた」
男の瞳が、僅かに揺れた。
「体力が1、足りなければ、レベルが1、低ければ、貴様は確実に死んでいた」
「…」
「飲ませたポーションは、ミアが手に入れたものだ」
対峙する男の目に力が戻る。
「あいつに救われた命だ。粗末にするな」
「…」
ふらつきながらも立ち上がった男は、無言のまま、周囲を見渡す。その目が、ベヒモスに剣を突き立てる女の姿を捉え―
一瞬の躊躇いもなく駆け出した男の背に、どうしようもない苛立ちを感じて、背を向ける。
「…」
再び剣を振るう中、背後に上がるベヒモスの咆哮。消え行く巨大な気配に、その最期を知る。
統率を失い、それでも向かってくるやつらを狩り続け、どれほどの時間が過ぎたのか、気がつけば、周囲に動くものはおらず。
平野の向こう、城壁近くでモンスターを狩る人間の姿は見えるが、脅威、と言えるほどのものは既に無い。
城壁近く、上がる歓声。
呼応するかのように、結界が消えた―
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