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前編 学園編
5-9.
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5-9.
「で?何でそんなもんを欲しがった?」
オークションからの帰り道、「体を動かしたい」というブレンからのリクエストで付き合うことになった、町外れの小さなダンジョン。採取も討伐も微妙、人気がないことだけが特徴のそこは、今日も全く人の気配がない。
一通りモンスター相手に暴れて気が済んだらしいブレンが戻ってきて、『賢者の石』を眺めていた私にかけた第一声がそれだった。
「何で」と聞かれると、心苦しい。何せ、アイリーへの嫌がらせ半分、だったから。だけど―
「…一応、前から狙ってはいたんだ」
「一応?」
嘘ではない。いつかは、欲しいと思っていた。まあ、本当なら、もう少し先、資金をちゃんと蓄えてから、とは考えていたけれど。
手の中の『賢者の石』を眺める。持っているだけで、何かを吸いとられるような恐ささえある石。これがあれば、超高コスト魔法である『万物創造』が使えるようになる。
高位魔法の更に上、現存する魔法の中で唯一、『極限魔法』に分類される『万物創造』。今の私でさえ、これを発動するには魔力が足りない。つまり、普通に考えて、どれだけ優秀な魔法使いであろうと、古の賢者でさえ、ただの『人』に扱えるものではない古代魔法。
或いは、それこそ何千億ものお金をかけて『魔石』を買い集め、『賢者の石』を併用して、何とか一度使えるかどうかという、実現性も実用性も皆無の魔法なのだ。
ただ、『万物創造』が使えれば、「この世界に存在しないもの」でさえ、創造することが可能になる。要は、その『モノ』をどれだけ具体性を持って想像出来るか。
だから―
石を握って集中する。
「ミア?」
「うん、ちょっと待ってて」
探るのは自分の内、前世の記憶。こんなに真剣に自身の中を覗くのは、かなり久しぶりな気がする。
記憶の中から浮かんできたのは、そっけない黒の輪。更に、引きずられるようにして次々と浮かんで来るのは、鏡?そこに映るのは、眼鏡をかけた髪の長い女。下ろした髪を持ち上げて、先程の黒い輪でそれを束ねようとしている。
―そうか
これは、多分、前世の―
「っ!?」
「おい!ミア!?」
「…だい、じょうぶ」
今の一瞬で、だいぶ魔力を持っていかれた。こんなに魔力を使ったのも久しぶりで、魔力が枯渇しそうになる感覚なんて、本当に忘れていたくらい。
それでも―
掌に感じる、石とは別の感触。いつの間にか握りこんでいたそれを、ブレンへと差し出した。
「ブレン。はい、これ」
「…何だ?」
「こうやって、髪を」
結ぶしぐさをして見せるが、わかっていなさそうなブレン。上手く伝えられない。肩までしかない私の髪じゃ、実演も出来ないし―
「…ブレン、ちょっとここに座って」
「…」
言われるがまま腰を下ろしたブレンの背後に回る。癖の強い髪を束ねていた髪紐をほどいていくが、思ったほど軋んだりもしなくて、指通りがいい。だから余計に、髪紐も落ちやすいのかもしれない。
―そう言えば
こんな風に、ブレンの髪に直接触れるのは初めて―
「…」
「ミア?」
「…何でもない」
ダメだ。意識すると手が動かなくなる。なるべく無心で髪を束ねていく。
「はい、出来た」
一歩下がって、仕上がりを確認する。
「どう?いつものより、取れにくいでしょ?」
髪を二、三度振って確かめたブレンが、
「なるほどな。悪くない」
そう言って、本当に、満足そうに笑うから―
頭に血が上りすぎていた、ちょっとむきになりすぎていた自覚はあって、それなりに反省もしていたんだけど。
―まあ、いいか
なんて、思ってしまう。
「で?何でそんなもんを欲しがった?」
オークションからの帰り道、「体を動かしたい」というブレンからのリクエストで付き合うことになった、町外れの小さなダンジョン。採取も討伐も微妙、人気がないことだけが特徴のそこは、今日も全く人の気配がない。
一通りモンスター相手に暴れて気が済んだらしいブレンが戻ってきて、『賢者の石』を眺めていた私にかけた第一声がそれだった。
「何で」と聞かれると、心苦しい。何せ、アイリーへの嫌がらせ半分、だったから。だけど―
「…一応、前から狙ってはいたんだ」
「一応?」
嘘ではない。いつかは、欲しいと思っていた。まあ、本当なら、もう少し先、資金をちゃんと蓄えてから、とは考えていたけれど。
手の中の『賢者の石』を眺める。持っているだけで、何かを吸いとられるような恐ささえある石。これがあれば、超高コスト魔法である『万物創造』が使えるようになる。
高位魔法の更に上、現存する魔法の中で唯一、『極限魔法』に分類される『万物創造』。今の私でさえ、これを発動するには魔力が足りない。つまり、普通に考えて、どれだけ優秀な魔法使いであろうと、古の賢者でさえ、ただの『人』に扱えるものではない古代魔法。
或いは、それこそ何千億ものお金をかけて『魔石』を買い集め、『賢者の石』を併用して、何とか一度使えるかどうかという、実現性も実用性も皆無の魔法なのだ。
ただ、『万物創造』が使えれば、「この世界に存在しないもの」でさえ、創造することが可能になる。要は、その『モノ』をどれだけ具体性を持って想像出来るか。
だから―
石を握って集中する。
「ミア?」
「うん、ちょっと待ってて」
探るのは自分の内、前世の記憶。こんなに真剣に自身の中を覗くのは、かなり久しぶりな気がする。
記憶の中から浮かんできたのは、そっけない黒の輪。更に、引きずられるようにして次々と浮かんで来るのは、鏡?そこに映るのは、眼鏡をかけた髪の長い女。下ろした髪を持ち上げて、先程の黒い輪でそれを束ねようとしている。
―そうか
これは、多分、前世の―
「っ!?」
「おい!ミア!?」
「…だい、じょうぶ」
今の一瞬で、だいぶ魔力を持っていかれた。こんなに魔力を使ったのも久しぶりで、魔力が枯渇しそうになる感覚なんて、本当に忘れていたくらい。
それでも―
掌に感じる、石とは別の感触。いつの間にか握りこんでいたそれを、ブレンへと差し出した。
「ブレン。はい、これ」
「…何だ?」
「こうやって、髪を」
結ぶしぐさをして見せるが、わかっていなさそうなブレン。上手く伝えられない。肩までしかない私の髪じゃ、実演も出来ないし―
「…ブレン、ちょっとここに座って」
「…」
言われるがまま腰を下ろしたブレンの背後に回る。癖の強い髪を束ねていた髪紐をほどいていくが、思ったほど軋んだりもしなくて、指通りがいい。だから余計に、髪紐も落ちやすいのかもしれない。
―そう言えば
こんな風に、ブレンの髪に直接触れるのは初めて―
「…」
「ミア?」
「…何でもない」
ダメだ。意識すると手が動かなくなる。なるべく無心で髪を束ねていく。
「はい、出来た」
一歩下がって、仕上がりを確認する。
「どう?いつものより、取れにくいでしょ?」
髪を二、三度振って確かめたブレンが、
「なるほどな。悪くない」
そう言って、本当に、満足そうに笑うから―
頭に血が上りすぎていた、ちょっとむきになりすぎていた自覚はあって、それなりに反省もしていたんだけど。
―まあ、いいか
なんて、思ってしまう。
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