30 / 64
前編 学園編
5-7.
しおりを挟む
5-7.
この世界には、ゲーム内ではリアルマネーでしか購入出来なかったアイテムも存在する。ただし、やはりそんなアイテムはレア中のレア。ほとんど市場に出回ることはないし、出てきたとしても、かなりの高値で取り引きされることになる。かつて、カイに飲ませた『成長の種』もそうしたアイテムの一つだった。
そして、今、私が手に入れたいものも―
「…ミア、最前列にあの女が居る」
「本当?」
「ああ、貴族の男と魔法使いを連れている」
明かりの落とされたオークション会場の客席、視覚でとらえるのは難しいが、ブレンがそう言うのなら、やはり彼女―アイリー―達もこのオークションに参加しているのだろう。彼女の狙いは、恐らく、私と同じ―
「さあ!皆様!お待たせいたしました!それでは、ただ今より、レイヒャー商会主催、オークションを開催いたします!」
軽快な司会の進行で始まったオークション。次々と競売にかけられていくのは、どれも「珍しい」と言われる品々で、やはりどれもがかなりの高値で落札されていく。
「…ごめんね、ブレン」
「?」
「私の我が儘で、全財産、使い果たしちゃうかも」
基本的に、ダンジョンでの稼ぎは、一定額を私とブレンで取ったら、残りは共有の財産として貯めてきた。そこから装備品や携行品を買うのだが、それでも、今日までそれなりに貯めてきた金額を、ここで全て使いきってしまう可能性が高い。
「…最初に言ったが、俺は、装備にかかる以上の金は要らん。その金は元からお前のものだ。好きに使え」
「…うん、ありがとう」
「それで?幾らくらいあるんだ?」
「300億オーロとちょっと」
「…そんなに貯めこんでたのか」
「うん。それでも、足りるかは、実はちょっと不安」
前回、同じアイテムが出品されたときには250億オーロで落札されているが、今回はアイリーがいる。彼女も本気で落としに来るだろうから、彼女に競り勝てるかどうか―
「続きましては、おーっと!こちらもまた、久々の登場になります!これ一つで、あなたも一瞬で強くなる!伸び悩んでいる方には是非、手に入れて頂きたい、『成長の種』!」
「…」
ステージの上、台の上に置かれたのは、久しぶりに目にしたアイテム。私が落札した時は20億オーロ―ちょっとした町の年間予算くらい―はした。
「それでは、10億オーロから!」
「11!」
「12!」
じわじわとだが、確実に競り上がっていく中、
「30!」
「!?」
一気に金額を跳ね上げた女性の声、この声は、アイリー?
「30!30が出ました!他、ございませんか!?ございませんね!?では、30!30で、そちらのお客様!」
司会が指し示したのは最前列。歓声が上がったが、その声はやはりアイリーのもの。
―随分と、余裕
本命ではないだろう『成長の種』に、軽く30億を出せるなんて。恐らく、ディーツやアルドの支援があるのだろう。やはり、最大の競合相手は、アイリーになりそうだ。
「それでは!本日の最終出品!皆様お待ちかねの、こちらをご紹介いたします!」
「!」
ステージ上、厳重に箱に保管され、更には警備の人間までついて現れたのは、赤く輝く大粒の結晶。大人が掌の内に握りこんでしまえるサイズしかないにも関わらず、そこから感じられる気配に、圧倒されてしまう。あれが、
―賢者の石
魔法使用時の魔力消費が大幅に軽減されるアイテムであると同時に、
アルドのレベル上限解放アイテム―
―賢者の石を?僕に?
―僕なら出来るって、信じてくれる?
―ありがとう。僕、絶対に強くなる。君を、守るために
アイリーが、何より欲しているであろうあの石を、私が手に入れる―
「さあ!それでは、こちら、なんと!三年ぶりの出品となります、『賢者の石』!お値段、100億オーロから始めさせて頂きます!」
「110!」
「115!」
いきなり100からのスタート。今までとは、文字通り、桁が違う。
「150!」
「おーっと!150!150が出ました!」
競りを加速させているのは、彼女の声、
「160!」
「200!」
「なんと!200!200が出ました!こちら、最前列のお客様!200!他!他、ございませんか!」
アイリーと競り合っていた声が消えた。なら―
「250」
「!?」
彼女が、振り向いた気配。視線を感じる。どうやら、あちらもこちらの存在を認識したらしい。
「250!250です!他のお客様!どなたか、ございませんか!」
「っ!待って!270!270出すわ!」
「270!270です!そちら奥のお客様、いかがですか!」
「…300」
「なんと!?なんと、なんと!300!300が出ました!これは当オークション、始まって以来の最高額です!さあ、では、いかがでしょう!?そちらのお客様は!?」
「さ、310!」
「待て!アイリー!それは、流石に!」
「嫌よ!絶対にアレは私が手に入れるんだから!『賢者の石』は私のものよ!」
アイリーを制止しようとするディーツの声。司会も、一瞬、戸惑ったような動きを見せる。
「あー、お客様?大丈夫ですか?310、よろしいですか?」
「いいわ!進めて!310よ!」
結局、押しきったアイリーが立ち上がった。暗がりに、こちらを向いているのがわかる。
―310、か
ブレンの視線がチラリと向けられた。その確認の視線に、彼だけに聞こえる声で謝った。
「ブレン、ごめん」
「…お前のやりたいようにやれ」
「ありがとう」
顔を上げて、前を向く。
「350」
「なっ!?ミアーッ!!あんた!」
「350!350!信じられません!なんと!350が出てしまいました!」
アイリーが何かを叫んでいるが、司会の声がそれを上書きする。
「さあ!他に、他にはいらっしゃいませんか?いらっしゃいませんね?それでは、350!350でそちらのお客様、落札です!」
「…」
詰めていた息を吐く。同時に、少しだけ、冷静さを取り戻した。
負けるつもりはなかったけれど。それでも、勝てる保証のない勝負は苦手。
漏れたため息は、自分に対する嘆息。
反省しよう。もう二度と、こんな真似はしない―
この世界には、ゲーム内ではリアルマネーでしか購入出来なかったアイテムも存在する。ただし、やはりそんなアイテムはレア中のレア。ほとんど市場に出回ることはないし、出てきたとしても、かなりの高値で取り引きされることになる。かつて、カイに飲ませた『成長の種』もそうしたアイテムの一つだった。
そして、今、私が手に入れたいものも―
「…ミア、最前列にあの女が居る」
「本当?」
「ああ、貴族の男と魔法使いを連れている」
明かりの落とされたオークション会場の客席、視覚でとらえるのは難しいが、ブレンがそう言うのなら、やはり彼女―アイリー―達もこのオークションに参加しているのだろう。彼女の狙いは、恐らく、私と同じ―
「さあ!皆様!お待たせいたしました!それでは、ただ今より、レイヒャー商会主催、オークションを開催いたします!」
軽快な司会の進行で始まったオークション。次々と競売にかけられていくのは、どれも「珍しい」と言われる品々で、やはりどれもがかなりの高値で落札されていく。
「…ごめんね、ブレン」
「?」
「私の我が儘で、全財産、使い果たしちゃうかも」
基本的に、ダンジョンでの稼ぎは、一定額を私とブレンで取ったら、残りは共有の財産として貯めてきた。そこから装備品や携行品を買うのだが、それでも、今日までそれなりに貯めてきた金額を、ここで全て使いきってしまう可能性が高い。
「…最初に言ったが、俺は、装備にかかる以上の金は要らん。その金は元からお前のものだ。好きに使え」
「…うん、ありがとう」
「それで?幾らくらいあるんだ?」
「300億オーロとちょっと」
「…そんなに貯めこんでたのか」
「うん。それでも、足りるかは、実はちょっと不安」
前回、同じアイテムが出品されたときには250億オーロで落札されているが、今回はアイリーがいる。彼女も本気で落としに来るだろうから、彼女に競り勝てるかどうか―
「続きましては、おーっと!こちらもまた、久々の登場になります!これ一つで、あなたも一瞬で強くなる!伸び悩んでいる方には是非、手に入れて頂きたい、『成長の種』!」
「…」
ステージの上、台の上に置かれたのは、久しぶりに目にしたアイテム。私が落札した時は20億オーロ―ちょっとした町の年間予算くらい―はした。
「それでは、10億オーロから!」
「11!」
「12!」
じわじわとだが、確実に競り上がっていく中、
「30!」
「!?」
一気に金額を跳ね上げた女性の声、この声は、アイリー?
「30!30が出ました!他、ございませんか!?ございませんね!?では、30!30で、そちらのお客様!」
司会が指し示したのは最前列。歓声が上がったが、その声はやはりアイリーのもの。
―随分と、余裕
本命ではないだろう『成長の種』に、軽く30億を出せるなんて。恐らく、ディーツやアルドの支援があるのだろう。やはり、最大の競合相手は、アイリーになりそうだ。
「それでは!本日の最終出品!皆様お待ちかねの、こちらをご紹介いたします!」
「!」
ステージ上、厳重に箱に保管され、更には警備の人間までついて現れたのは、赤く輝く大粒の結晶。大人が掌の内に握りこんでしまえるサイズしかないにも関わらず、そこから感じられる気配に、圧倒されてしまう。あれが、
―賢者の石
魔法使用時の魔力消費が大幅に軽減されるアイテムであると同時に、
アルドのレベル上限解放アイテム―
―賢者の石を?僕に?
―僕なら出来るって、信じてくれる?
―ありがとう。僕、絶対に強くなる。君を、守るために
アイリーが、何より欲しているであろうあの石を、私が手に入れる―
「さあ!それでは、こちら、なんと!三年ぶりの出品となります、『賢者の石』!お値段、100億オーロから始めさせて頂きます!」
「110!」
「115!」
いきなり100からのスタート。今までとは、文字通り、桁が違う。
「150!」
「おーっと!150!150が出ました!」
競りを加速させているのは、彼女の声、
「160!」
「200!」
「なんと!200!200が出ました!こちら、最前列のお客様!200!他!他、ございませんか!」
アイリーと競り合っていた声が消えた。なら―
「250」
「!?」
彼女が、振り向いた気配。視線を感じる。どうやら、あちらもこちらの存在を認識したらしい。
「250!250です!他のお客様!どなたか、ございませんか!」
「っ!待って!270!270出すわ!」
「270!270です!そちら奥のお客様、いかがですか!」
「…300」
「なんと!?なんと、なんと!300!300が出ました!これは当オークション、始まって以来の最高額です!さあ、では、いかがでしょう!?そちらのお客様は!?」
「さ、310!」
「待て!アイリー!それは、流石に!」
「嫌よ!絶対にアレは私が手に入れるんだから!『賢者の石』は私のものよ!」
アイリーを制止しようとするディーツの声。司会も、一瞬、戸惑ったような動きを見せる。
「あー、お客様?大丈夫ですか?310、よろしいですか?」
「いいわ!進めて!310よ!」
結局、押しきったアイリーが立ち上がった。暗がりに、こちらを向いているのがわかる。
―310、か
ブレンの視線がチラリと向けられた。その確認の視線に、彼だけに聞こえる声で謝った。
「ブレン、ごめん」
「…お前のやりたいようにやれ」
「ありがとう」
顔を上げて、前を向く。
「350」
「なっ!?ミアーッ!!あんた!」
「350!350!信じられません!なんと!350が出てしまいました!」
アイリーが何かを叫んでいるが、司会の声がそれを上書きする。
「さあ!他に、他にはいらっしゃいませんか?いらっしゃいませんね?それでは、350!350でそちらのお客様、落札です!」
「…」
詰めていた息を吐く。同時に、少しだけ、冷静さを取り戻した。
負けるつもりはなかったけれど。それでも、勝てる保証のない勝負は苦手。
漏れたため息は、自分に対する嘆息。
反省しよう。もう二度と、こんな真似はしない―
33
お気に入りに追加
2,333
あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!
鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……!
前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。
正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。
そして、気づけば違う世界に転生!
けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ!
私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……?
前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー!
※第15回恋愛大賞にエントリーしてます!
開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです!
よろしくお願いします!!

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

悪役令嬢の生産ライフ
星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。
女神『はい、あなた、転生ね』
雪『へっ?』
これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。
雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』
無事に完結しました!
続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。
よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい
鍋
恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。
尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。
でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。
新米冒険者として日々奮闘中。
のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。
自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。
王太子はあげるから、私をほっといて~
(旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。
26話で完結
後日談も書いてます。

だから言ったでしょう?
わらびもち
恋愛
ロザリンドの夫は職場で若い女性から手製の菓子を貰っている。
その行為がどれだけ妻を傷つけるのか、そしてどれだけ危険なのかを理解しない夫。
ロザリンドはそんな夫に失望したーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる