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前編 学園編

5-7.

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5-7.

この世界には、ゲーム内ではリアルマネーでしか購入出来なかったアイテムも存在する。ただし、やはりそんなアイテムはレア中のレア。ほとんど市場に出回ることはないし、出てきたとしても、かなりの高値で取り引きされることになる。かつて、カイに飲ませた『成長の種』もそうしたアイテムの一つだった。

そして、今、私が手に入れたいものも―

「…ミア、最前列にあの女が居る」

「本当?」

「ああ、貴族の男と魔法使いを連れている」

明かりの落とされたオークション会場の客席、視覚でとらえるのは難しいが、ブレンがそう言うのなら、やはり彼女―アイリー―達もこのオークションに参加しているのだろう。彼女の狙いは、恐らく、私と同じ―

「さあ!皆様!お待たせいたしました!それでは、ただ今より、レイヒャー商会主催、オークションを開催いたします!」

軽快な司会の進行で始まったオークション。次々と競売にかけられていくのは、どれも「珍しい」と言われる品々で、やはりどれもがかなりの高値で落札されていく。

「…ごめんね、ブレン」

「?」

「私の我が儘で、全財産、使い果たしちゃうかも」

基本的に、ダンジョンでの稼ぎは、一定額を私とブレンで取ったら、残りは共有の財産として貯めてきた。そこから装備品や携行品を買うのだが、それでも、今日までそれなりに貯めてきた金額を、ここで全て使いきってしまう可能性が高い。

「…最初に言ったが、俺は、装備にかかる以上の金は要らん。その金は元からお前のものだ。好きに使え」

「…うん、ありがとう」

「それで?幾らくらいあるんだ?」

「300億オーロとちょっと」

「…そんなに貯めこんでたのか」

「うん。それでも、足りるかは、実はちょっと不安」

前回、同じアイテムが出品されたときには250億オーロで落札されているが、今回はアイリーがいる。彼女も本気で落としに来るだろうから、彼女に競り勝てるかどうか―

「続きましては、おーっと!こちらもまた、久々の登場になります!これ一つで、あなたも一瞬で強くなる!伸び悩んでいる方には是非、手に入れて頂きたい、『成長の種』!」

「…」

ステージの上、台の上に置かれたのは、久しぶりに目にしたアイテム。私が落札した時は20億オーロ―ちょっとした町の年間予算くらい―はした。

「それでは、10億オーロから!」

「11!」

「12!」

じわじわとだが、確実に競り上がっていく中、

「30!」

「!?」

一気に金額を跳ね上げた女性の声、この声は、アイリー?

「30!30が出ました!他、ございませんか!?ございませんね!?では、30!30で、そちらのお客様!」

司会が指し示したのは最前列。歓声が上がったが、その声はやはりアイリーのもの。

―随分と、余裕

本命ではないだろう『成長の種』に、軽く30億を出せるなんて。恐らく、ディーツやアルドの支援があるのだろう。やはり、最大の競合相手は、アイリーになりそうだ。

「それでは!本日の最終出品!皆様お待ちかねの、こちらをご紹介いたします!」

「!」

ステージ上、厳重に箱に保管され、更には警備の人間までついて現れたのは、赤く輝く大粒の結晶。大人が掌の内に握りこんでしまえるサイズしかないにも関わらず、そこから感じられる気配に、圧倒されてしまう。あれが、

―賢者の石

魔法使用時の魔力消費が大幅に軽減されるアイテムであると同時に、

アルドのレベル上限解放アイテム―

―賢者の石を?僕に?

―僕なら出来るって、信じてくれる?

―ありがとう。僕、絶対に強くなる。君を、守るために

アイリーが、何より欲しているであろうあの石を、私が手に入れる―

「さあ!それでは、こちら、なんと!三年ぶりの出品となります、『賢者の石』!お値段、100億オーロから始めさせて頂きます!」

「110!」

「115!」

いきなり100からのスタート。今までとは、文字通り、桁が違う。

「150!」

「おーっと!150!150が出ました!」

競りを加速させているのは、彼女の声、

「160!」

「200!」

「なんと!200!200が出ました!こちら、最前列のお客様!200!他!他、ございませんか!」

アイリーと競り合っていた声が消えた。なら―

「250」

「!?」

彼女が、振り向いた気配。視線を感じる。どうやら、あちらもこちらの存在を認識したらしい。

「250!250です!他のお客様!どなたか、ございませんか!」

「っ!待って!270!270出すわ!」

「270!270です!そちら奥のお客様、いかがですか!」

「…300」

「なんと!?なんと、なんと!300!300が出ました!これは当オークション、始まって以来の最高額です!さあ、では、いかがでしょう!?そちらのお客様は!?」

「さ、310!」

「待て!アイリー!それは、流石に!」

「嫌よ!絶対にアレは私が手に入れるんだから!『賢者の石』は私のものよ!」

アイリーを制止しようとするディーツの声。司会も、一瞬、戸惑ったような動きを見せる。

「あー、お客様?大丈夫ですか?310、よろしいですか?」

「いいわ!進めて!310よ!」

結局、押しきったアイリーが立ち上がった。暗がりに、こちらを向いているのがわかる。

―310、か

ブレンの視線がチラリと向けられた。その確認の視線に、彼だけに聞こえる声で謝った。

「ブレン、ごめん」

「…お前のやりたいようにやれ」

「ありがとう」

顔を上げて、前を向く。

「350」

「なっ!?ミアーッ!!あんた!」

「350!350!信じられません!なんと!350が出てしまいました!」

アイリーが何かを叫んでいるが、司会の声がそれを上書きする。

「さあ!他に、他にはいらっしゃいませんか?いらっしゃいませんね?それでは、350!350でそちらのお客様、落札です!」

「…」

詰めていた息を吐く。同時に、少しだけ、冷静さを取り戻した。

負けるつもりはなかったけれど。それでも、勝てる保証のない勝負は苦手。

漏れたため息は、自分に対する嘆息。

反省しよう。もう二度と、こんな真似はしない―




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