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前編 学園編
5-6.
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5-6.
頭に血が上るとは、こういうことか―
たった今、真横を通りすぎた女に対する怒りで、眩暈がした。
―残念ね?選んだ男が弱すぎて
ブレンが、弱い―?
数値で現れるものがどうであろうと、ここまで強くなることにこだわり、努力してきた彼の何を持って、そう評すると言うのか。
彼女が心の中でどう思っていようと構わない。だけど、それを口にしたこと、しかも、私を貶めるためだけにしたというのが、許せない。
例え、レベルが30のままだったとしても、ブレンなら今回の点数程度は叩き出していた。一日では無理だろうし、赤竜を倒せたとも言わないが、それでも、ブレンなら一月かけてでも必ず成し遂げていたはずだ。それが、彼の『強さ』なのだから。それを―
沸騰する血に、指先が震える。
「…おい、ミア?」
「…平気」
あの女だけは、絶対に許さない―
「君達には反省してもらわねばならないことが山ほどある。それで?どうやった?」
連れてこられた部屋、恐らく教官室なのだろうそこで、自分の椅子に腰かけたギャロンに問い質される。
「…『赤竜の砂漠』最下層まで行って、赤竜を倒しただけです」
「冗談に付き合っている暇はない。お前達があくまでしらを切るつもりなら、『真実の鏡』にかけてもいいんだぞ」
―この、男は
『真実の鏡』、全ての嘘を見通すというレアアイテム。その希少性ゆえに、現状、王都の大審問にしか存在しない。それに「かける」ということは、私達を罪人、犯罪者として裁くことも厭わないということ。
ただの脅し、はったりだとしても、質の悪い―
「しらを切るつもりはないし、嘘でも、冗談でもありません」
下らない問答に割く時間はない。さっさと話を終わらせるために、売らずにいた―売れずにいた―『赤竜の瞳』をギャロンの机の上に並べていく。
「!これは!」
驚愕に目を見開いたギャロン。並んだ紅玉の一つに手を伸ばした。
「…本物。いや、しかし、討伐ドロップではなく、購入した可能性も」
「…」
諦めの悪い発言にげんなりする。仮に、これだけの『赤竜の瞳』を購入するとしたら、一体どれほどの額になると思っているのか。その資金を稼ぐとなると、それこそランキング戦で最優秀をとる程度の討伐数ではなくなってしまう。
ギャロン自身、あり得ないことだとわかっているだろうに―
「では、逆に。我々が不正を働いたとする証拠はあるんですか?」
「…一日で9万点を獲得するなど、不可能に決まっている。あり得ないことが起きている時点で、間違いなく不正だ」
「それは、先生の憶測であって、証拠ではないでしょう?我々は、これ以外の証拠も提示できます」
「何?」
言いながら、『赤竜の瞳』を回収する。出来るなら、こんな形で人目にさらしたくはなかった。
「やってみせましょうか?『赤竜の砂漠』を、一日で踏破して見せます」
「何を馬鹿な!」
「こちらは証拠を提示できると言っている。ならば、ただ否定するのではなく、検証するのが、公正な立場にあるはずの先生の成すべきことでしょう?」
「っ!」
ここで言葉につまるくらいなら、さっさと引いておけばいいものを。
「その結果、我々に不正が無かった場合は、覚悟して下さいね、ギャロン先生」
最初から、こちらの話など聞くつもりのない男に、こちらもこれ以上弁明するつもりはない。
「我々の成績取消しは、学園が決めたことですか?それとも、先生の独断?」
「っ!?」
意図した脅しは通じたらしく、ギャロンの顔から血の気がひいていく。
「…まあ、あれだけ大勢の前で無かったことにされてしまいましたから、成績のことはもういいです」
今は、時間が惜しい。実際に検証することになって時間をとられるのも困る。ランキング戦が終わった今、ゲームならこのタイミングで販売されるアイテムがあるはずだ。正確に、いつ、どこで手に入るかの情報を集めなければ。
「今回のことは、これで手打ちにします。我々を解放してください」
「…」
返事はないが、それを承諾と受けとり、ブレンと部屋を後にする。扉の前、立ち止まって振り返った。
「ギャロン先生、『始まりの祠』は先生の管轄なんでしたよね?特異体は本当に先生が討伐されたんですか?」
「…当然だ」
「それは、『真実の鏡』にかけて?」
「!?」
一気に顔色を悪くしたギャロンに、質問の答えを知る。そのまま何も言わずに扉を出れば、すぐ外で待っていたブレン。
「ミア?」
「ブレン、欲しいものがあるの。探すのを手伝って」
頭に血が上るとは、こういうことか―
たった今、真横を通りすぎた女に対する怒りで、眩暈がした。
―残念ね?選んだ男が弱すぎて
ブレンが、弱い―?
数値で現れるものがどうであろうと、ここまで強くなることにこだわり、努力してきた彼の何を持って、そう評すると言うのか。
彼女が心の中でどう思っていようと構わない。だけど、それを口にしたこと、しかも、私を貶めるためだけにしたというのが、許せない。
例え、レベルが30のままだったとしても、ブレンなら今回の点数程度は叩き出していた。一日では無理だろうし、赤竜を倒せたとも言わないが、それでも、ブレンなら一月かけてでも必ず成し遂げていたはずだ。それが、彼の『強さ』なのだから。それを―
沸騰する血に、指先が震える。
「…おい、ミア?」
「…平気」
あの女だけは、絶対に許さない―
「君達には反省してもらわねばならないことが山ほどある。それで?どうやった?」
連れてこられた部屋、恐らく教官室なのだろうそこで、自分の椅子に腰かけたギャロンに問い質される。
「…『赤竜の砂漠』最下層まで行って、赤竜を倒しただけです」
「冗談に付き合っている暇はない。お前達があくまでしらを切るつもりなら、『真実の鏡』にかけてもいいんだぞ」
―この、男は
『真実の鏡』、全ての嘘を見通すというレアアイテム。その希少性ゆえに、現状、王都の大審問にしか存在しない。それに「かける」ということは、私達を罪人、犯罪者として裁くことも厭わないということ。
ただの脅し、はったりだとしても、質の悪い―
「しらを切るつもりはないし、嘘でも、冗談でもありません」
下らない問答に割く時間はない。さっさと話を終わらせるために、売らずにいた―売れずにいた―『赤竜の瞳』をギャロンの机の上に並べていく。
「!これは!」
驚愕に目を見開いたギャロン。並んだ紅玉の一つに手を伸ばした。
「…本物。いや、しかし、討伐ドロップではなく、購入した可能性も」
「…」
諦めの悪い発言にげんなりする。仮に、これだけの『赤竜の瞳』を購入するとしたら、一体どれほどの額になると思っているのか。その資金を稼ぐとなると、それこそランキング戦で最優秀をとる程度の討伐数ではなくなってしまう。
ギャロン自身、あり得ないことだとわかっているだろうに―
「では、逆に。我々が不正を働いたとする証拠はあるんですか?」
「…一日で9万点を獲得するなど、不可能に決まっている。あり得ないことが起きている時点で、間違いなく不正だ」
「それは、先生の憶測であって、証拠ではないでしょう?我々は、これ以外の証拠も提示できます」
「何?」
言いながら、『赤竜の瞳』を回収する。出来るなら、こんな形で人目にさらしたくはなかった。
「やってみせましょうか?『赤竜の砂漠』を、一日で踏破して見せます」
「何を馬鹿な!」
「こちらは証拠を提示できると言っている。ならば、ただ否定するのではなく、検証するのが、公正な立場にあるはずの先生の成すべきことでしょう?」
「っ!」
ここで言葉につまるくらいなら、さっさと引いておけばいいものを。
「その結果、我々に不正が無かった場合は、覚悟して下さいね、ギャロン先生」
最初から、こちらの話など聞くつもりのない男に、こちらもこれ以上弁明するつもりはない。
「我々の成績取消しは、学園が決めたことですか?それとも、先生の独断?」
「っ!?」
意図した脅しは通じたらしく、ギャロンの顔から血の気がひいていく。
「…まあ、あれだけ大勢の前で無かったことにされてしまいましたから、成績のことはもういいです」
今は、時間が惜しい。実際に検証することになって時間をとられるのも困る。ランキング戦が終わった今、ゲームならこのタイミングで販売されるアイテムがあるはずだ。正確に、いつ、どこで手に入るかの情報を集めなければ。
「今回のことは、これで手打ちにします。我々を解放してください」
「…」
返事はないが、それを承諾と受けとり、ブレンと部屋を後にする。扉の前、立ち止まって振り返った。
「ギャロン先生、『始まりの祠』は先生の管轄なんでしたよね?特異体は本当に先生が討伐されたんですか?」
「…当然だ」
「それは、『真実の鏡』にかけて?」
「!?」
一気に顔色を悪くしたギャロンに、質問の答えを知る。そのまま何も言わずに扉を出れば、すぐ外で待っていたブレン。
「ミア?」
「ブレン、欲しいものがあるの。探すのを手伝って」
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