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前編 学園編
5-5. Side A
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5-5.
―こんなの、嘘よ
ランキング戦の結果発表。その一番上、最優秀成績者の欄に、私の名前が無い、なんて。
「…アイリー?惜しかったな。だが、我々の成績も決して悪いものではない。あまり、気を落とすな」
「アイリーが頑張ったの、僕がちゃんと見てた」
横で、ゴチャゴチャとうるさい―
「…アイリー様、準優秀成績者、おめでとうございます」
私の思考を邪魔するな―
思えば、初日にあのモブに絡まれたせいで一日ロスしてしまったのが大きかった。ディーツやアルドまで、怪我をしたから休んだ方がいいだの、役人からの事情聴取があるからだのと足を引っ張って。そんなことを言うくらいなら、最初からお前達が私を守りきれと何度叫びたくなったことか。
パーティー単位でしか転移門を使えないせいで―そもそも学園の生徒でもない―カイを連れていけなかったのも地味に痛かった。装備品の手入れから、携行品の準備まで、ディーツもアルドもまるで役に立たないから、全て私がやる羽目になって。それに時間をとられたせいで、モンスターを狩る時間が減ってしまったのだ。
とにかく、これでは、このままでは、駄目だ。何とかしないと―
「!?」
「…彼らが来たようだな」
突然の、背後でのざわめき。聞こえた「ブレン」と「ミア」という名前に背後を振り返った。人垣の向こうに居るらしい二人の姿は、ここからだと全然見えない。
「どいて!」
「アイリー!?」
邪魔するモブの多さにイライラしながら、何とか人波を掻き分けて前へと進む。その先、見えてきた姿―
「ブレン!ミア!」
「…」
名を呼べば、振り向く二人。
―何だ、その顔は?
どうでもいいものを見るような無表情な女の顔、鬱陶しそうに、疎ましいものでも見るような男の顔。
何?何なの、こいつらは?本当に、モブの分際で―
「ブレン!ミア!あなた達、何をしたの!?」
「…何をって?」
「だって、こんなのおかしい!あなた達が最優秀成績だなんて!きっと、何か汚い手を使ったんでしょう!?」
「…」
女は表情を変えないが、私の背後、野次馬をしているモブ達の間から、ざわめきが起こった。
「そんなことして、みんなに悪いと思わないの!?みんな、この一ヶ月、自分達の力で一生懸命頑張った結果なのに!不正をしたあなた達に負けちゃうなんて、そんなの酷い!」
「…別に、不正も何もしていない」
「なら!証拠を見せて!試合で私達に敵わなかったあなた達に、どうやってあれだけの成績が出せたのか!」
「…」
一瞬、怯んだ様子を見せた女に、「勝った」と思った。本当に不正をしたかなんてどうでもいい。だけど、この場で、この状況で、私と彼女の言い分、どちらが正しいと思われるか。このまま不正を訴えて、こいつらを引きずり下ろす。
それに、ぴったりな役の男が、こちらに近づいてきている。
「おい!何を騒いでいる!これは、何の騒ぎだ!?」
「ギャロン先生!」
「アイリー。…と、またお前達か」
「ギャロン先生、ごめんなさい。騒ぎにしてしまったのは私です。でも、私、学園の生徒として、こんなの絶対に許せなくて」
申し訳なさそうに下を向けば、降ってきたのは優しく問いかける声。
「…何があった?」
「ランキング戦の成績です。彼女達の成績に納得がいかなくて。何か、不正があったんじゃないかって思って」
「なるほどな」
頷いたギャロンが、周囲にも聞こえる大きな声で喋りだした。
「確かに、私も彼らの成績には不審を感じた。調査した結果、ここに彼ら二人の成績を照会したものがある。ブレン、ミア、これは一体どういうことだ?」
ギャロンが、握った用紙をミアとブレンに突きつけた。それを横から覗き見て、笑った―
―あり得ない
これで不正があったことは間違いないが、それにしても、こんなに雑なやり方で、本気でバレないと思っていたのか。
「…照会した結果によると、お前たちは総合ポイントの97523ポイントを、たった一日で獲得したことになっているようだが?」
ギャロンの糾弾に、周囲が再びざわめいた。聞こえてくる「やっぱり」、「不正だ」という声に顔がニヤけそうになる。下を向いてやり過ごそうとした時、
「ブレンさんならやれるっすよ!」
突如上がった声に、今度は別のざわめきが起こった。視線を巡らせると、見たこともない、つまり完全なモブが必死に声を張り上げている。
「ブレンさんは、『始まりの祠』の特異体にも圧勝したっす!ブレンさんなら、ランキング戦も余裕でぶっちぎりっすよ!」
―特異体?
思わず、ギャロンの顔を見た。ギャロンの顔に一瞬、焦りの表情が見えた気がしたけれど、それは瞬く間に消えて、
「…ダミアン、だったか?お前達の不確定な情報で場を混乱させるのはやめろ。これ以上、不用意な発言を続けるつもりなら、お前達もミア、ブレンと同罪、グルと見なすぞ」
「ちょ!そんな!だって、俺らちゃんと報告したじゃないっすか!祠で、」
「いい加減にしろ!お前が、こいつらの不正を手助けしたんだな!?」
ギャロンの追及に、男が焦ったように手を振って否定する。
「違うっす!てか、ブレンさん達も不正とか、」
「…よせ、ダミアン」
「え!?いや、でも、カスパー!」
パーティー仲間なのか、首を振るモブに、うるさい男もようやく諦めたようだ。まだ何かぶつぶつ言っているが、ギャロンへ楯突くのはやめて大人しくしている。
ギャロンが、改めてミアとブレンに向き直った。
「…ミア、ブレン、非常に残念だが、不正が疑われるお前達二名の成績は取り消しだ。よって、今回のランキング戦の最優秀成績者は、アイリー、ディーツ、アルドのパーティーとする」
「!」
―やった!
上げそうになった歓声は必死に飲み込んで、神妙な顔を作る。
「ミアとブレンの両名には、改めて話がある。ついてきなさい」
「…」
ギャロンの宣告に無言で従う二人。この状況でもまだすかしている女に腹が立つ。せっかく最優秀に輝いた喜びに水を差されたようで、気にくわない。
だから―
横を通り過ぎようとした女の前に立つ。その耳元に、囁いた。他の誰にも聞かれないよう、最新の注意を払う。
―残念ね?選んだ男が弱すぎて
―こんなの、嘘よ
ランキング戦の結果発表。その一番上、最優秀成績者の欄に、私の名前が無い、なんて。
「…アイリー?惜しかったな。だが、我々の成績も決して悪いものではない。あまり、気を落とすな」
「アイリーが頑張ったの、僕がちゃんと見てた」
横で、ゴチャゴチャとうるさい―
「…アイリー様、準優秀成績者、おめでとうございます」
私の思考を邪魔するな―
思えば、初日にあのモブに絡まれたせいで一日ロスしてしまったのが大きかった。ディーツやアルドまで、怪我をしたから休んだ方がいいだの、役人からの事情聴取があるからだのと足を引っ張って。そんなことを言うくらいなら、最初からお前達が私を守りきれと何度叫びたくなったことか。
パーティー単位でしか転移門を使えないせいで―そもそも学園の生徒でもない―カイを連れていけなかったのも地味に痛かった。装備品の手入れから、携行品の準備まで、ディーツもアルドもまるで役に立たないから、全て私がやる羽目になって。それに時間をとられたせいで、モンスターを狩る時間が減ってしまったのだ。
とにかく、これでは、このままでは、駄目だ。何とかしないと―
「!?」
「…彼らが来たようだな」
突然の、背後でのざわめき。聞こえた「ブレン」と「ミア」という名前に背後を振り返った。人垣の向こうに居るらしい二人の姿は、ここからだと全然見えない。
「どいて!」
「アイリー!?」
邪魔するモブの多さにイライラしながら、何とか人波を掻き分けて前へと進む。その先、見えてきた姿―
「ブレン!ミア!」
「…」
名を呼べば、振り向く二人。
―何だ、その顔は?
どうでもいいものを見るような無表情な女の顔、鬱陶しそうに、疎ましいものでも見るような男の顔。
何?何なの、こいつらは?本当に、モブの分際で―
「ブレン!ミア!あなた達、何をしたの!?」
「…何をって?」
「だって、こんなのおかしい!あなた達が最優秀成績だなんて!きっと、何か汚い手を使ったんでしょう!?」
「…」
女は表情を変えないが、私の背後、野次馬をしているモブ達の間から、ざわめきが起こった。
「そんなことして、みんなに悪いと思わないの!?みんな、この一ヶ月、自分達の力で一生懸命頑張った結果なのに!不正をしたあなた達に負けちゃうなんて、そんなの酷い!」
「…別に、不正も何もしていない」
「なら!証拠を見せて!試合で私達に敵わなかったあなた達に、どうやってあれだけの成績が出せたのか!」
「…」
一瞬、怯んだ様子を見せた女に、「勝った」と思った。本当に不正をしたかなんてどうでもいい。だけど、この場で、この状況で、私と彼女の言い分、どちらが正しいと思われるか。このまま不正を訴えて、こいつらを引きずり下ろす。
それに、ぴったりな役の男が、こちらに近づいてきている。
「おい!何を騒いでいる!これは、何の騒ぎだ!?」
「ギャロン先生!」
「アイリー。…と、またお前達か」
「ギャロン先生、ごめんなさい。騒ぎにしてしまったのは私です。でも、私、学園の生徒として、こんなの絶対に許せなくて」
申し訳なさそうに下を向けば、降ってきたのは優しく問いかける声。
「…何があった?」
「ランキング戦の成績です。彼女達の成績に納得がいかなくて。何か、不正があったんじゃないかって思って」
「なるほどな」
頷いたギャロンが、周囲にも聞こえる大きな声で喋りだした。
「確かに、私も彼らの成績には不審を感じた。調査した結果、ここに彼ら二人の成績を照会したものがある。ブレン、ミア、これは一体どういうことだ?」
ギャロンが、握った用紙をミアとブレンに突きつけた。それを横から覗き見て、笑った―
―あり得ない
これで不正があったことは間違いないが、それにしても、こんなに雑なやり方で、本気でバレないと思っていたのか。
「…照会した結果によると、お前たちは総合ポイントの97523ポイントを、たった一日で獲得したことになっているようだが?」
ギャロンの糾弾に、周囲が再びざわめいた。聞こえてくる「やっぱり」、「不正だ」という声に顔がニヤけそうになる。下を向いてやり過ごそうとした時、
「ブレンさんならやれるっすよ!」
突如上がった声に、今度は別のざわめきが起こった。視線を巡らせると、見たこともない、つまり完全なモブが必死に声を張り上げている。
「ブレンさんは、『始まりの祠』の特異体にも圧勝したっす!ブレンさんなら、ランキング戦も余裕でぶっちぎりっすよ!」
―特異体?
思わず、ギャロンの顔を見た。ギャロンの顔に一瞬、焦りの表情が見えた気がしたけれど、それは瞬く間に消えて、
「…ダミアン、だったか?お前達の不確定な情報で場を混乱させるのはやめろ。これ以上、不用意な発言を続けるつもりなら、お前達もミア、ブレンと同罪、グルと見なすぞ」
「ちょ!そんな!だって、俺らちゃんと報告したじゃないっすか!祠で、」
「いい加減にしろ!お前が、こいつらの不正を手助けしたんだな!?」
ギャロンの追及に、男が焦ったように手を振って否定する。
「違うっす!てか、ブレンさん達も不正とか、」
「…よせ、ダミアン」
「え!?いや、でも、カスパー!」
パーティー仲間なのか、首を振るモブに、うるさい男もようやく諦めたようだ。まだ何かぶつぶつ言っているが、ギャロンへ楯突くのはやめて大人しくしている。
ギャロンが、改めてミアとブレンに向き直った。
「…ミア、ブレン、非常に残念だが、不正が疑われるお前達二名の成績は取り消しだ。よって、今回のランキング戦の最優秀成績者は、アイリー、ディーツ、アルドのパーティーとする」
「!」
―やった!
上げそうになった歓声は必死に飲み込んで、神妙な顔を作る。
「ミアとブレンの両名には、改めて話がある。ついてきなさい」
「…」
ギャロンの宣告に無言で従う二人。この状況でもまだすかしている女に腹が立つ。せっかく最優秀に輝いた喜びに水を差されたようで、気にくわない。
だから―
横を通り過ぎようとした女の前に立つ。その耳元に、囁いた。他の誰にも聞かれないよう、最新の注意を払う。
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