バグ発見~モブキャラの私にレベルキャップが存在しなかった~

リコピン

文字の大きさ
上 下
28 / 64
前編 学園編

5-5. Side A

しおりを挟む
5-5.

―こんなの、嘘よ

ランキング戦の結果発表。その一番上、最優秀成績者の欄に、私の名前が無い、なんて。

「…アイリー?惜しかったな。だが、我々の成績も決して悪いものではない。あまり、気を落とすな」

「アイリーが頑張ったの、僕がちゃんと見てた」

横で、ゴチャゴチャとうるさい―

「…アイリー様、準優秀成績者、おめでとうございます」

私の思考を邪魔するな―

思えば、初日にあのモブに絡まれたせいで一日ロスしてしまったのが大きかった。ディーツやアルドまで、怪我をしたから休んだ方がいいだの、役人からの事情聴取があるからだのと足を引っ張って。そんなことを言うくらいなら、最初からお前達が私を守りきれと何度叫びたくなったことか。

パーティー単位でしか転移門を使えないせいで―そもそも学園の生徒でもない―カイを連れていけなかったのも地味に痛かった。装備品の手入れから、携行品の準備まで、ディーツもアルドもまるで役に立たないから、全て私がやる羽目になって。それに時間をとられたせいで、モンスターを狩る時間が減ってしまったのだ。

とにかく、これでは、このままでは、駄目だ。何とかしないと―

「!?」

「…彼らが来たようだな」

突然の、背後でのざわめき。聞こえた「ブレン」と「ミア」という名前に背後を振り返った。人垣の向こうに居るらしい二人の姿は、ここからだと全然見えない。

「どいて!」

「アイリー!?」

邪魔するモブの多さにイライラしながら、何とか人波を掻き分けて前へと進む。その先、見えてきた姿―

「ブレン!ミア!」

「…」

名を呼べば、振り向く二人。

―何だ、その顔は?

どうでもいいものを見るような無表情な女の顔、鬱陶しそうに、疎ましいものでも見るような男の顔。

何?何なの、こいつらは?本当に、モブの分際で―

「ブレン!ミア!あなた達、何をしたの!?」

「…何をって?」

「だって、こんなのおかしい!あなた達が最優秀成績だなんて!きっと、何か汚い手を使ったんでしょう!?」

「…」

女は表情を変えないが、私の背後、野次馬をしているモブ達の間から、ざわめきが起こった。

「そんなことして、みんなに悪いと思わないの!?みんな、この一ヶ月、自分達の力で一生懸命頑張った結果なのに!不正をしたあなた達に負けちゃうなんて、そんなの酷い!」

「…別に、不正も何もしていない」

「なら!証拠を見せて!試合バトルで私達に敵わなかったあなた達に、どうやってあれだけの成績が出せたのか!」

「…」

一瞬、怯んだ様子を見せた女に、「勝った」と思った。本当に不正をしたかなんてどうでもいい。だけど、この場で、この状況で、私と彼女の言い分、どちらが正しいと思われるか。このまま不正を訴えて、こいつらを引きずり下ろす。

それに、ぴったりな役の男が、こちらに近づいてきている。

「おい!何を騒いでいる!これは、何の騒ぎだ!?」

「ギャロン先生!」

「アイリー。…と、またお前達か」

「ギャロン先生、ごめんなさい。騒ぎにしてしまったのは私です。でも、私、学園の生徒として、こんなの絶対に許せなくて」

申し訳なさそうに下を向けば、降ってきたのは優しく問いかける声。

「…何があった?」

「ランキング戦の成績です。彼女達の成績に納得がいかなくて。何か、不正があったんじゃないかって思って」

「なるほどな」

頷いたギャロンが、周囲にも聞こえる大きな声で喋りだした。

「確かに、私も彼らの成績には不審を感じた。調査した結果、ここに彼ら二人の成績を照会したものがある。ブレン、ミア、これは一体どういうことだ?」

ギャロンが、握った用紙をミアとブレンに突きつけた。それを横から覗き見て、笑った―

―あり得ない

これで不正があったことは間違いないが、それにしても、こんなに雑なやり方で、本気でバレないと思っていたのか。

「…照会した結果によると、お前たちは総合ポイントの97523ポイントを、たった一日で獲得したことになっているようだが?」

ギャロンの糾弾に、周囲が再びざわめいた。聞こえてくる「やっぱり」、「不正だ」という声に顔がニヤけそうになる。下を向いてやり過ごそうとした時、

「ブレンさんならやれるっすよ!」

突如上がった声に、今度は別のざわめきが起こった。視線を巡らせると、見たこともない、つまり完全なモブが必死に声を張り上げている。

「ブレンさんは、『始まりの祠』の特異体にも圧勝したっす!ブレンさんなら、ランキング戦も余裕でぶっちぎりっすよ!」

―特異体?

思わず、ギャロンの顔を見た。ギャロンの顔に一瞬、焦りの表情が見えた気がしたけれど、それは瞬く間に消えて、

「…ダミアン、だったか?お前達の不確定な情報で場を混乱させるのはやめろ。これ以上、不用意な発言を続けるつもりなら、お前達もミア、ブレンと同罪、グルと見なすぞ」

「ちょ!そんな!だって、俺らちゃんと報告したじゃないっすか!祠で、」

「いい加減にしろ!お前が、こいつらの不正を手助けしたんだな!?」

ギャロンの追及に、男が焦ったように手を振って否定する。

「違うっす!てか、ブレンさん達も不正とか、」

「…よせ、ダミアン」

「え!?いや、でも、カスパー!」

パーティー仲間なのか、首を振るモブに、うるさい男もようやく諦めたようだ。まだ何かぶつぶつ言っているが、ギャロンへ楯突くのはやめて大人しくしている。

ギャロンが、改めてミアとブレンに向き直った。

「…ミア、ブレン、非常に残念だが、不正が疑われるお前達二名の成績は取り消しだ。よって、今回のランキング戦の最優秀成績者は、アイリー、ディーツ、アルドのパーティーとする」

「!」

―やった!

上げそうになった歓声は必死に飲み込んで、神妙な顔を作る。

「ミアとブレンの両名には、改めて話がある。ついてきなさい」

「…」

ギャロンの宣告に無言で従う二人。この状況でもまだすかしている女に腹が立つ。せっかく最優秀に輝いた喜びに水を差されたようで、気にくわない。

だから―

横を通り過ぎようとした女の前に立つ。その耳元に、囁いた。他の誰にも聞かれないよう、最新の注意を払う。

―残念ね?選んだ男が弱すぎて




しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...