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前編 学園編

5-2.

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5-2.

初めて潜る『赤竜の砂漠』。いつもなら、新しい場所、新たなモンスターの出現に対して、それなりに心が浮き立つのに。

「…」

「…」

耳にこびりついた男の声、残響がなかなか消えてくれない―

淡々とモンスターを狩りながらたどり着いた『赤竜の砂漠』最下層、地下17階。「単独で狩ってみたい」というブレンが、ダンジョンボス『赤竜』に単身挑むのを、フロアーの隅で見守る。危なげない戦いに安堵しながらも、どこか集中しきれない内に、ブレンはあっさりと赤竜を倒してしまった。

「…ミア」

「!」

近づいてきたブレンが投げて寄越したのは『赤竜の瞳』と呼ばれる紅玉。掌にちょうど収まる大きさのそれを実際に見るのは初めてだけれど、宝石、宝玉として高値で取り引きされるだけあって、心引き付けられるような妖しい輝きを放っている。

「赤竜のドロップはそれだけらしいな」

確認の意味で手渡されたのだろう珠を、じっと眺める。

「…綺麗だね」

「そうか?」

「…うん」

首を傾げるブレンに頷けば、一瞬だけ考え込んだブレンが、何かを思いついたように口を開く。

「…周回するか」

「え?」

「行くぞ」

「あ!ブレン!」

ブレンが周回、同じダンジョンを飽きもせずに上から下まで何度も繰り返し攻略すること自体は珍しくない。だけど、いつもなら一言声を掛けてくれたり、休憩を挟んだりの気遣いがある。こんなに性急な行動をとることなんてないのに。

それでも、ブレンの言うままにダンジョンを三周し、ブレンがまた赤竜を倒し終わった後に、ようやく気がついた―

三つ目の紅玉を手渡してくるブレンを見上げて、笑ってしまう。

「…何だ?」

「ううん、何でもない」

「…」

納得がいかない顔のブレンに、また笑う。

いつもなら―

回収したドロップ品を見せられることはあっても、持ち運びはブレンがやってくれている。例えそれが、どんなに小さくて軽いものであっても。なのに―

手渡された珠を腰のポーチにしまいながら、三つ並んだ赤い輝きに、心が軽くなっていくのがわかる。

多分―

―私が言ったから、綺麗だって

いつもよりも性急な周回。手元に増えていく赤い珠。

物凄く、わかりにくいけれど。伝わってきたブレンの優しさに涙が零れそうになった。







「待って!待って、ブレン!」

「…」

ブレンの行動に慰められて、癒されて、すっかり油断していた―

「それはダメ!ただの赤竜じゃない!」

深い赤の鱗を持つ、今までとは一回り大きさの違う竜に、嬉々として突撃していったブレンには、こちらの声など届いていない。

「ブレン!止めて!」

―どうする?直接止めに入る?

だけど、戦闘中のブレンに接近して、怪我でもさせたら―

何であの時、ブレンの「最後にもう一周する」という言葉に頷いてしまったのだろう。既に七周、その時点でもう、ギリギリだと、わかっていたのに。

「ブレン!お願い!止めてー!」

ブレンの振りかざした剣が、紅竜の眉間へと振り下ろされた―







あれだけ、必死に止めたのに―

「…おい、ミア」

「…」

いつもの逆、後からついてくるブレンの声には振り向かない。

「ミア、悪かった。機嫌を直せ」

「…別に」

本気で怒っているわけではない。周回も―少なくとも途中までは―私を思ってくれた部分があったのだろうし、ボス戦に入ったブレンにこちらの言葉が届かないのはよくあること。戦闘に入る前に止められなかった私の落ち度でもある。だけど―

ステータス画面、そこに記される『ランキングポイント』。並んでいる数値はギリギリ9万代、辛うじて10万には届いていない。果たしてこれがアウトなのかセーフなのか、これはもう、結果が出るまでわからない。

「ミア」

「…ごめん、ブレン。本当に、怒ってるわけじゃない。ちょっと焦っちゃっただけ」

「…」

「もう切り換えるから。次は、『始まりの祠』だよね。うん、仕切り直そう」

過ぎてしまったことだ。増えたポイントを減らすことは出来ない。後はもう神頼み。自分達の幸運を信じて祈るしかない。




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