バグ発見~モブキャラの私にレベルキャップが存在しなかった~

リコピン

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前編 学園編

5-1. ランキング戦は望まぬ順位に終わる

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5-1.

「…ランキング戦?」

「そう、『学内ランキング戦』」

入学以来、授業には一切出ないブレンに、学園における定期試験『学内ランキング戦』についての説明をする。

「学園が指定した三つのダンジョンの中でモンスターを狩ると、モンスターの強さに応じてランキングポイントが入るようになってる。一ヶ月間のポイントの合計、倒したモンスターの数と難易度で、学内順位、成績が決まるの」

「どこのダンジョンだ?」

予想通り、ブレンがまず気にするのは―ランキング戦の仕組みではなく―ダンジョンそこだった。

「…『花妖精の森』と『漆黒館』と『赤竜の砂漠』

「『赤竜の砂漠』は流石に遠すぎるだろう?」

「ランキング戦の間は、学園と各ダンジョン直通の転移門が常設されるから、いつでも好きな時に行って帰ってこれるようになるんだって」

「…なるほど」

ブレンの口角が上がっている。悪巧みしてるような、かなり悪どい顔になってしまってるけど、これは一応、純粋に喜んでる、テンションが上がっているだけ、だと思いたい。

「ブレンはどこに潜りたい?」

「移動を気にせずに済むなら『赤竜の砂漠』だな。あそこにはまだ潜ったことがない」

ダンジョン難易度的にも、最高クラス。経験値稼ぎにも悪くない場所だろう。

「わかった。ただ、ブレン、一つだけ注意して欲しいことがあって」

「何だ?」

「さっき行ったでしょ、これは『ランキング戦』。指定されたダンジョンでモンスターを狩ったらポイントが入ってしまう」

「…だから、何だ?」

「例年の最優秀成績者のポイントが10万前後らしいから、私達もそれを越えないようにしないといけない。ブレンのいつもの調子でやっちゃったら、あっという間に越えちゃう」

「…」

「10万ポイント…念のため、8万ポイントくらいになったら、『赤竜の砂漠』に潜るのはおしまい。残りの期間は、どこか関係ないダンジョンにでも潜って誤魔化さないと」

「…面倒だな」

ブレンの表情が分かりやすく不機嫌に染まる。子どもが玩具を取り上げられた時のようなその様子に、思わず口元が緩む。

「ねぇ、ブレン。多分、その頃には人も減ってるだろうから、『赤竜の砂漠』の後は『始まりの祠』に潜るのは?どう?」

「…まあ、そうだな。それなら、当初の予定も達成できる」

「うん」

ブレンの機嫌が上向いたことを確かめて、今度こそ本当に笑った。





ブレンにランキング戦について説明した一週間後、ランキング戦初日。あの日の宣言通り、私達は『赤竜の砂漠』へと通じる転移門をくぐった。

とは言え、門の先、転移された場所は『赤竜の砂漠』そのものではなくて、

「…ダンジョンに、直接繋がっているわけじゃないのか?」

「流石に学園もそんな危険なことはしないよ。ここは『サビリア』、『赤竜の砂漠』の攻略拠点になってる街。まずは、ここで装備を整えろってことでしょう?」

「…ふん」

転移先が普通の街中、街の中心にある噴水広場だったことに不満そうなブレンだが、彼を基準に物事を考えたら大変なことになってしまう。

「じゃあ、もう行こうか?ここからなら、歩いて行ける距離だって、」

「!?」

「…何?」

突然、ブレンの顔に走った緊張。次いで、背後からあがった女の人の悲鳴。広場の一角に、人が集まっていく。その場所から、

「女の子が!冒険者崩れに襲われた!誰か!治療出来るやつ!」

「っ!」

「待て!ミア!」

ブレンの制止が上がる前に人だかりに向かって駆け出していた。人混みをかき分け、何とか抜け出ることの出来た人の輪の最前列、目の前の光景に息を飲んだ。

―アイリー?

状況から、「襲われた」という女の子はアイリーらしく、彼女を庇うように立ちはだかるディーツとアルドが、冒険者風の壮年の男と対峙していた。見たところ、アイリーに怪我は無さそうで―あったとしても、既にアルドが治療した後なのだろう―、庇われながらも、しっかりと相手の男を睨み付けている。

その男が、動いた―

「アイリー、アイリー、アイリー。すまない、怪我をさせるつもりなんて無かったんだ。許してくれ、アイリー」

懇願するように、両手を前につき出した男のその姿に、気がついた。

―あの人って

こちらからは死角になっていた彼の右腕。長い袖に隠されていて気づくのが遅れたが、彼の腕には、肩の付け根から先が無い。

「なぁ、アイリー、お願いだ。頼む。俺をもう一度お前のパーティーに入れてくれ。頼む。俺にはもう、アイリー、お前しか」

「貴様、動くな」

「アイリーに近寄るな」

覚束ない足取りで、ふらふらと前に踏み出した男を、ディーツとアルドの二人が牽制する。そこまで眺めていたところで、背後から肩を掴まれた。

「ミア」

「あ、ごめん、ブレン」

ハッとした。そうだ、ブレンを置き去りにしてきたのだった。目の前の空気に飲まれて停止していた思考と身体がようやく動き出す。

「助けに入るつもりか?」

「…ううん」

確認するブレンに首を振った。

―助ける?どちらを?

アイリーにはディーツとアルドが居る、彼女に助けは要らない。もう一人の男、彼の方は―

「ごめん、行こう」

「…」

確かめるようにこちらの顔をのぞきこんだ後、黙って踵を返したブレンの後に続く。

アイリーにすがる男の姿に、何も感じないわけではないけれど。

背中越し、未だ、男の哀願が聞こえてくる―




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