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前編 学園編
4-3.
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4-3.
カトレア達から逃亡した先、周囲が完全にアウェイな中での試合観戦。結局、試合自体はあっという間に終了し、『お願い』通り、ブレンはあっさりと敗北した。
闘技場を出て―いつの間に見つかっていたのか―迷いもせずこちらに戻ってくるブレンを観客席で待つ。遠目にかけたアナライズで、彼の体力が僅かに減っていることに気づいた。本当なら、傷一つ負わずに勝てる相手なのに。願ったせいで、ブレンに不用な怪我をさせた自分に腹が立つ。
―ヒール
魔力を抑えた回復。僅かな緑がブレンを癒していった。
「…お疲れ様」
「ああ」
「…ありがとう」
口を開いて何か答えようとしたブレンの眉間にシワが寄る。ブレンの背後、追いかけてきたのか、こちらに走り寄る彼女の姿が見えた。
「ブレン!」
「…」
「あなた、とっても強いのね!レベル24でそれなら、きっともっと強くなれると思う!」
「…」
アイリーからは見えていないのだろうが、ブレンの顔がどんどん恐いことになっていく。
「だから、どうかな?私達の仲間にならない?私なら、あなたのレベルも、もっと上手く上げられると思うの!」
「…」
「お願い、ブレン!私にあなたの力を貸して?」
言葉と同時に背後から伸ばされたアイリーの手をブレンが振り払った。
「…触るな。俺はこいつのもんだ」
一歩、ブレンがこちらに近づく。
「ミア、さん?彼女が、好きなの?」
「俺はこいつに隷属している」
「!?」
「…」
―なぜ、今、ここでそれを言う?
息を飲んだアイリー。私達の様子をうかがっていた周囲からも、驚愕、悲鳴に近い声がもれる。
思わずこぼれそうになった溜め息は、何とか飲み込んだ。
元実家のビンデバルド家では平気で雇っていたが、やはり倫理的な問題として『奴隷』は忌避される。私、個人としても―ブレンを奴隷にしておいてなんだが―人を隷属させることには抵抗がある。そもそもブレンに対してだって、好き好んで奴隷扱いしているわけではないのだが―
「そんな、そんなのってひどいよ!」
きつい眼差しで、アイリーに睨まれた。彼女の目に、うっすらと涙が溜まっている。
「ミア!あなた、間違ってるわ!隷属なんかで人を縛るなんて!」
アイリーの背後、影のように控えているカイに視線を送る。カイのレベル上限が開放されていないのは、アイリーのこの『奴隷』に対する価値観によるものなのか。彼女は、カイを隷属させないことを選んだ。私とは真逆の選択―
「…煩い女だな。ミアにガタガタ言うんじゃねぇ。お前には関係無い話だろうが」
「そんな!だって、ブレン!そんなのって、ない!」
再びブレンに伸ばされそうになったアイリーの手を、ブレンが身を引いて避ける。
「うるせぇな。これは俺の選択だ」
「ブレン、あなた絶対に騙されてる!」
「ハッ!」
アイリーの言葉を鼻で笑うブレンは、言うだけ言って満足したのか、話は終わりとばかりにアイリーに背を向けた。
「行くぞ、ミア」
言って、さっさと歩き出そうとするブレンの後を慌てて追う。本当に、ブレンは何がしたかったのか。我が道を行く彼を流石に問い質さねばと思ったところで、背後から投げつけられた言葉。
「ミア!あなた、人として最低よ!そんなことまでしてブレンを繋ぎ止めて、恥ずかしくないの!?」
「…」
体が強張る、足が止まった。
―言われなくても
自分の卑劣は自分が一番自覚している。
ただ純粋に、ブレンを強くしたいと願ったあの時とは変質してしまった、彼を繋ぎ止める口実があることに安堵している自分に、一番、ムカついているのは、私だ。
わかっている。だけど、そう、ブレンが言ってくれた―
「…これは彼と私の問題で、あなたには関係ない」
振り返り、告げた言葉にアイリーの顔が歪む。まだ何か言っている彼女の言葉を今度は無視して、前を行く長身を追いかけた。
追い付いて、隣に並んだブレンを見上げる。
「ブレン、何であんなとこであんなこと言ったの?」
「…悪かった。まあ、ちょっとした牽制だ」
「?どういう意味?」
珍しく、決まり悪げなブレンの返事を待つが、それ以上、返る答えはなかった。
カトレア達から逃亡した先、周囲が完全にアウェイな中での試合観戦。結局、試合自体はあっという間に終了し、『お願い』通り、ブレンはあっさりと敗北した。
闘技場を出て―いつの間に見つかっていたのか―迷いもせずこちらに戻ってくるブレンを観客席で待つ。遠目にかけたアナライズで、彼の体力が僅かに減っていることに気づいた。本当なら、傷一つ負わずに勝てる相手なのに。願ったせいで、ブレンに不用な怪我をさせた自分に腹が立つ。
―ヒール
魔力を抑えた回復。僅かな緑がブレンを癒していった。
「…お疲れ様」
「ああ」
「…ありがとう」
口を開いて何か答えようとしたブレンの眉間にシワが寄る。ブレンの背後、追いかけてきたのか、こちらに走り寄る彼女の姿が見えた。
「ブレン!」
「…」
「あなた、とっても強いのね!レベル24でそれなら、きっともっと強くなれると思う!」
「…」
アイリーからは見えていないのだろうが、ブレンの顔がどんどん恐いことになっていく。
「だから、どうかな?私達の仲間にならない?私なら、あなたのレベルも、もっと上手く上げられると思うの!」
「…」
「お願い、ブレン!私にあなたの力を貸して?」
言葉と同時に背後から伸ばされたアイリーの手をブレンが振り払った。
「…触るな。俺はこいつのもんだ」
一歩、ブレンがこちらに近づく。
「ミア、さん?彼女が、好きなの?」
「俺はこいつに隷属している」
「!?」
「…」
―なぜ、今、ここでそれを言う?
息を飲んだアイリー。私達の様子をうかがっていた周囲からも、驚愕、悲鳴に近い声がもれる。
思わずこぼれそうになった溜め息は、何とか飲み込んだ。
元実家のビンデバルド家では平気で雇っていたが、やはり倫理的な問題として『奴隷』は忌避される。私、個人としても―ブレンを奴隷にしておいてなんだが―人を隷属させることには抵抗がある。そもそもブレンに対してだって、好き好んで奴隷扱いしているわけではないのだが―
「そんな、そんなのってひどいよ!」
きつい眼差しで、アイリーに睨まれた。彼女の目に、うっすらと涙が溜まっている。
「ミア!あなた、間違ってるわ!隷属なんかで人を縛るなんて!」
アイリーの背後、影のように控えているカイに視線を送る。カイのレベル上限が開放されていないのは、アイリーのこの『奴隷』に対する価値観によるものなのか。彼女は、カイを隷属させないことを選んだ。私とは真逆の選択―
「…煩い女だな。ミアにガタガタ言うんじゃねぇ。お前には関係無い話だろうが」
「そんな!だって、ブレン!そんなのって、ない!」
再びブレンに伸ばされそうになったアイリーの手を、ブレンが身を引いて避ける。
「うるせぇな。これは俺の選択だ」
「ブレン、あなた絶対に騙されてる!」
「ハッ!」
アイリーの言葉を鼻で笑うブレンは、言うだけ言って満足したのか、話は終わりとばかりにアイリーに背を向けた。
「行くぞ、ミア」
言って、さっさと歩き出そうとするブレンの後を慌てて追う。本当に、ブレンは何がしたかったのか。我が道を行く彼を流石に問い質さねばと思ったところで、背後から投げつけられた言葉。
「ミア!あなた、人として最低よ!そんなことまでしてブレンを繋ぎ止めて、恥ずかしくないの!?」
「…」
体が強張る、足が止まった。
―言われなくても
自分の卑劣は自分が一番自覚している。
ただ純粋に、ブレンを強くしたいと願ったあの時とは変質してしまった、彼を繋ぎ止める口実があることに安堵している自分に、一番、ムカついているのは、私だ。
わかっている。だけど、そう、ブレンが言ってくれた―
「…これは彼と私の問題で、あなたには関係ない」
振り返り、告げた言葉にアイリーの顔が歪む。まだ何か言っている彼女の言葉を今度は無視して、前を行く長身を追いかけた。
追い付いて、隣に並んだブレンを見上げる。
「ブレン、何であんなとこであんなこと言ったの?」
「…悪かった。まあ、ちょっとした牽制だ」
「?どういう意味?」
珍しく、決まり悪げなブレンの返事を待つが、それ以上、返る答えはなかった。
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