上 下
17 / 64
前編 学園編

3-3. Side A

しおりを挟む
3-3. Side A

―予想はしていたけど

レベル24しかないような雑魚キャラにやられるなんて―

闘技場のドームが開き、さっきまで戦っていた男が、こちらを見向きもせずに去っていく。

ここまでくるのに何もせずにいたわけじゃない。学園入学までに、やれるだけのことはやってきた。ダンジョンで戦って稼ぎながら、装備やアイテムにお金を懸けて、更に強い敵に挑んで。このレベルまで、自分を高めてきたのだから。

それに、ディーツやアルドだって。将来的に組むことになるとわかっていたから、彼らのことは学園に通う前から積極的に探しにいった。入学後に鍛えるのでは効率が悪すぎる。鍛えるなら、出来るだけ早く。

そのために前世の記憶を使って、彼らが子どもの頃に現れそうな場所を探し回った。そうやって、ディーツを町外れのダンジョンで、アルドを王立図書館で見つけられたのは―運もあったけど―私の努力の結果だと思っている。

入学までに二人のレベルを30、好感度をマックスまであげることにも成功して、普通なら、負けるはずなんてなかった。たかだかレベル24しかないようなモブキャラなんかに。なのに、

―まるで攻撃が通らなかった

圧倒的な力の差がある時のような感覚。全然、敵う気がしなかった。ただ、それについては、なんとなく予想はついている。

つまり、あのキャラはチュートリアルキャラ。最初から強制負けイベントが確定していたのだと思う。だから、レベルに関係なく負けてしまった。悔しいけれど、これはもう、この世界の強制力のせいだと諦めるしかない。

一つ気になったのは、彼のレベルが24しかなかったこと。まさか弱体化しているとは思わなかった。態度だって、ゲームとはあまりに違いすぎていて、チュートリアル戦をしかけるのにもすごく苦労した。

ストーリーを進めるために、チュートリアルはさっさと終わらせたかったのに、何故かあちらから絡んでくる気配が全然なくて。結局、こちらから近づいて、何とか始められたから良かったものの。

もっと簡単に怒らせられると思っていた。高圧的に『平民風情』とか罵ってくれれば、試合バトルだって、ずっと簡単に始められたはずなのに。

色々考えるとムカつくけど、所詮はチュートリアルキャラ。多少の劣化をこれ以上、気にしてもしょうがない。

気持ちを切り換えよう。本当の戦いはこれから。ゲームは始まったばかりなんだから。あの男にも、次は絶対に負けたりしない―

「アイリー、平気か?」

「ディーツ、うん、大丈夫だよ!ありがとう!」

「…本当に?」

「やだ!アルド、そんな顔しないで!本当に大丈夫だよ?」

今はレベル30しかないディーツとアルドも、覚醒イベントさえ起こせば、レベル90を越える。ゲーム序盤では鉄板、ベストな布陣。

「…アイリー様」

「カイも。今日は負けちゃったけど、次、勝てばいいんだから、ね?」

万一に備えて、カイもキープしてある。大丈夫。次からが本番。次は絶対にあの男に思い知らせてやるのだから―

闘技場を出ていく男の背中を見上げる。隣に並ぶ、小柄な背中が視界に入った。

―それにしても

あのキャラまで出てくるとは思わなかった。

ミア・ビンデバルド―

彼女がブレンの隣に居たのは、「そういう設定」で出てくるはずだったということだろうか?

『ミア・ビンデバルド』は、ゲームには未登場、公式SNSにおいて名前と立ち絵だけが紹介されたことのあるキャラだ。公式以外でも、雑誌などの特集に出てきたことがあったけれど、その時点では詳細は不明。高飛車な煽り文句がつけられていたから、恐らく、ライバルキャラとして登場する予定だったのだろう。だけど結局、彼女がゲームに登場することはないまま、ゲーム自体がサービス終了を迎えてしまった。

そんなキャラを、こんなところで見ることになるなんて。

彼女がブレンの仲間なら、彼女もまちがいなくライバルキャラ。フリー戦闘でリベンジマッチを申し込めば、ブレンの仲間として、次は彼女とも戦うことになるかもしれない。それでも、所詮はレベル24の雑魚キャラ、何の問題もない。次は、必ず勝つ。

ブレンと再戦可能になるのは一週間後、それまでの時間も無駄にするつもりはない。少しでもレベルを上げておく。効率を考えれば『始まりの祠』の攻略がちょうどいいのだけれど、ただ、封鎖されているダンジョンをどうすれば、

―そうか

「ギャロン先生!」

「?アイリー、どうした?」

試合の立ち会いを努めていたギャロンに声をかける。その顔に笑顔が無いのは、入学直後のパーティー申請を断ったから。そのせいで、かなり好感度が下がってしまっている。ここまで強くなった私ではギャロンの使いどころが無いから、もういいかと切ってしまったのだけど―

内心、舌打ちした。こんなことなら、ギャロンもキープしておくべきだったかもしれない。まあ、今さら言ってもしょうがないから、今はこのまま押しきる。ダメならまた、好感度を上げればいいだけのこと―

「あの、ギャロン先生。私、お願いがあって―」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【完結】転生少女の立ち位置は 〜婚約破棄前から始まる、毒舌天使少女の物語〜

白井夢子
恋愛
「真実の愛ゆえの婚約破棄って、所詮浮気クソ野郎ってことじゃない?」 巷で流行ってる真実の愛の物語を、普段から軽くあしらっていた。 そんな私に婚約者が静かに告げる。 「心から愛する女性がいる。真実の愛を知った今、彼女以外との未来など考えられない。 君との婚約破棄をどうか受け入れてほしい」 ーー本当は浮気をしている事は知っていた。 「集めた証拠を突きつけて、みんなの前で浮気を断罪した上で、高らかに婚約破棄を告げるつもりだったのに…断罪の舞台に立つ前に自白して、先に婚約破棄を告げるなんて!浮気野郎の風上にも置けない軟弱下衆男だわ…」 そう呟く私を残念そうに見つめる義弟。 ーー婚約破棄のある転生人生が、必ずしも乙女ゲームの世界とは限らない。 この世界は乙女ゲームなのか否か。 転生少女はどんな役割を持って生まれたのか。 これは転生人生に意味を見出そうとする令嬢と、それを見守る苦労人の義弟の物語である。

申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!

甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。 その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。 その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。 前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。 父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。 そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。 組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。 この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。 その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。 ──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。 昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。 原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。 それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。 小説家になろうでも連載してます。 ※短編予定でしたが、長編に変更します。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

転生してメイドになった元王妃は、悪役令嬢を幸せにするために奔走する

小鳥遊 ひなこ
恋愛
王太子と侯爵令嬢の婚約破棄後、幸せな生活を送ったヘレナだったが、死後の世界で前世のことを裁かれてしまう。 神様によって彼女に与えられた使命は、もう一度人生をやりなおして、侯爵令嬢を幸せにすることだった。 自分自身に転生をして人生をやり直すことになった元王妃が、侯爵令嬢の魅力に気が付いて彼女を幸せにするために頑張るお話しです。 ※この小説は小説家になろうにも投稿しています。

悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~

木山楽斗
恋愛
頭を打った私は、自分がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢であるアルティリアと攻略対象の一人で私の推しだったファルクスの子供に転生したことを理解した。 少し驚いたが、私は自分の境遇を受け入れた。例え前世の記憶が蘇っても、お父様とお母様のことが大好きだったからだ。 二人は、娘である私のことを愛してくれている。それを改めて理解しながらも、私はとある問題を考えることになった。 お父様とお母様の関係は、良好とは言い難い。政略結婚だった二人は、どこかぎこちない関係を築いていたのである。 仕方ない部分もあるとは思ったが、それでも私は二人に笑い合って欲しいと思った。 それは私のわがままだ。でも、私になら許されると思っている。だって、私は二人の娘なのだから。 こうして、私は二人になんとか仲良くなってもらうことを決意した。 幸いにも私には前世の記憶がある。乙女ゲームで描かれた二人の知識はきっと私を助けてくれるはずだ。 ※2022/10/18 改題しました。(旧題:乙女ゲームの推しと悪役令嬢の娘に転生しました。) ※2022/10/20 改題しました。(旧題:悪役令嬢と推しの娘に転生しました。)

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

処理中です...