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前編 学園編
3-3. Side A
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3-3. Side A
―予想はしていたけど
レベル24しかないような雑魚キャラにやられるなんて―
闘技場のドームが開き、さっきまで戦っていた男が、こちらを見向きもせずに去っていく。
ここまでくるのに何もせずにいたわけじゃない。学園入学までに、やれるだけのことはやってきた。ダンジョンで戦って稼ぎながら、装備やアイテムにお金を懸けて、更に強い敵に挑んで。このレベルまで、自分を高めてきたのだから。
それに、ディーツやアルドだって。将来的に組むことになるとわかっていたから、彼らのことは学園に通う前から積極的に探しにいった。入学後に鍛えるのでは効率が悪すぎる。鍛えるなら、出来るだけ早く。
そのために前世の記憶を使って、彼らが子どもの頃に現れそうな場所を探し回った。そうやって、ディーツを町外れのダンジョンで、アルドを王立図書館で見つけられたのは―運もあったけど―私の努力の結果だと思っている。
入学までに二人のレベルを30、好感度をマックスまであげることにも成功して、普通なら、負けるはずなんてなかった。たかだかレベル24しかないようなモブキャラなんかに。なのに、
―まるで攻撃が通らなかった
圧倒的な力の差がある時のような感覚。全然、敵う気がしなかった。ただ、それについては、なんとなく予想はついている。
つまり、あのキャラはチュートリアルキャラ。最初から強制負けイベントが確定していたのだと思う。だから、レベルに関係なく負けてしまった。悔しいけれど、これはもう、この世界の強制力のせいだと諦めるしかない。
一つ気になったのは、彼のレベルが24しかなかったこと。まさか弱体化しているとは思わなかった。態度だって、ゲームとはあまりに違いすぎていて、チュートリアル戦をしかけるのにもすごく苦労した。
ストーリーを進めるために、チュートリアルはさっさと終わらせたかったのに、何故かあちらから絡んでくる気配が全然なくて。結局、こちらから近づいて、何とか始められたから良かったものの。
もっと簡単に怒らせられると思っていた。高圧的に『平民風情』とか罵ってくれれば、試合だって、ずっと簡単に始められたはずなのに。
色々考えるとムカつくけど、所詮はチュートリアルキャラ。多少の劣化をこれ以上、気にしてもしょうがない。
気持ちを切り換えよう。本当の戦いはこれから。ゲームは始まったばかりなんだから。あの男にも、次は絶対に負けたりしない―
「アイリー、平気か?」
「ディーツ、うん、大丈夫だよ!ありがとう!」
「…本当に?」
「やだ!アルド、そんな顔しないで!本当に大丈夫だよ?」
今はレベル30しかないディーツとアルドも、覚醒イベントさえ起こせば、レベル90を越える。ゲーム序盤では鉄板、ベストな布陣。
「…アイリー様」
「カイも。今日は負けちゃったけど、次、勝てばいいんだから、ね?」
万一に備えて、カイもキープしてある。大丈夫。次からが本番。次は絶対にあの男に思い知らせてやるのだから―
闘技場を出ていく男の背中を見上げる。隣に並ぶ、小柄な背中が視界に入った。
―それにしても
あのキャラまで出てくるとは思わなかった。
ミア・ビンデバルド―
彼女がブレンの隣に居たのは、「そういう設定」で出てくるはずだったということだろうか?
『ミア・ビンデバルド』は、ゲームには未登場、公式SNSにおいて名前と立ち絵だけが紹介されたことのあるキャラだ。公式以外でも、雑誌などの特集に出てきたことがあったけれど、その時点では詳細は不明。高飛車な煽り文句がつけられていたから、恐らく、ライバルキャラとして登場する予定だったのだろう。だけど結局、彼女がゲームに登場することはないまま、ゲーム自体がサービス終了を迎えてしまった。
そんなキャラを、こんなところで見ることになるなんて。
彼女がブレンの仲間なら、彼女もまちがいなくライバルキャラ。フリー戦闘でリベンジマッチを申し込めば、ブレンの仲間として、次は彼女とも戦うことになるかもしれない。それでも、所詮はレベル24の雑魚キャラ、何の問題もない。次は、必ず勝つ。
ブレンと再戦可能になるのは一週間後、それまでの時間も無駄にするつもりはない。少しでもレベルを上げておく。効率を考えれば『始まりの祠』の攻略がちょうどいいのだけれど、ただ、封鎖されているダンジョンをどうすれば、
―そうか
「ギャロン先生!」
「?アイリー、どうした?」
試合の立ち会いを努めていたギャロンに声をかける。その顔に笑顔が無いのは、入学直後のパーティー申請を断ったから。そのせいで、かなり好感度が下がってしまっている。ここまで強くなった私ではギャロンの使いどころが無いから、もういいかと切ってしまったのだけど―
内心、舌打ちした。こんなことなら、ギャロンもキープしておくべきだったかもしれない。まあ、今さら言ってもしょうがないから、今はこのまま押しきる。ダメならまた、好感度を上げればいいだけのこと―
「あの、ギャロン先生。私、お願いがあって―」
―予想はしていたけど
レベル24しかないような雑魚キャラにやられるなんて―
闘技場のドームが開き、さっきまで戦っていた男が、こちらを見向きもせずに去っていく。
ここまでくるのに何もせずにいたわけじゃない。学園入学までに、やれるだけのことはやってきた。ダンジョンで戦って稼ぎながら、装備やアイテムにお金を懸けて、更に強い敵に挑んで。このレベルまで、自分を高めてきたのだから。
それに、ディーツやアルドだって。将来的に組むことになるとわかっていたから、彼らのことは学園に通う前から積極的に探しにいった。入学後に鍛えるのでは効率が悪すぎる。鍛えるなら、出来るだけ早く。
そのために前世の記憶を使って、彼らが子どもの頃に現れそうな場所を探し回った。そうやって、ディーツを町外れのダンジョンで、アルドを王立図書館で見つけられたのは―運もあったけど―私の努力の結果だと思っている。
入学までに二人のレベルを30、好感度をマックスまであげることにも成功して、普通なら、負けるはずなんてなかった。たかだかレベル24しかないようなモブキャラなんかに。なのに、
―まるで攻撃が通らなかった
圧倒的な力の差がある時のような感覚。全然、敵う気がしなかった。ただ、それについては、なんとなく予想はついている。
つまり、あのキャラはチュートリアルキャラ。最初から強制負けイベントが確定していたのだと思う。だから、レベルに関係なく負けてしまった。悔しいけれど、これはもう、この世界の強制力のせいだと諦めるしかない。
一つ気になったのは、彼のレベルが24しかなかったこと。まさか弱体化しているとは思わなかった。態度だって、ゲームとはあまりに違いすぎていて、チュートリアル戦をしかけるのにもすごく苦労した。
ストーリーを進めるために、チュートリアルはさっさと終わらせたかったのに、何故かあちらから絡んでくる気配が全然なくて。結局、こちらから近づいて、何とか始められたから良かったものの。
もっと簡単に怒らせられると思っていた。高圧的に『平民風情』とか罵ってくれれば、試合だって、ずっと簡単に始められたはずなのに。
色々考えるとムカつくけど、所詮はチュートリアルキャラ。多少の劣化をこれ以上、気にしてもしょうがない。
気持ちを切り換えよう。本当の戦いはこれから。ゲームは始まったばかりなんだから。あの男にも、次は絶対に負けたりしない―
「アイリー、平気か?」
「ディーツ、うん、大丈夫だよ!ありがとう!」
「…本当に?」
「やだ!アルド、そんな顔しないで!本当に大丈夫だよ?」
今はレベル30しかないディーツとアルドも、覚醒イベントさえ起こせば、レベル90を越える。ゲーム序盤では鉄板、ベストな布陣。
「…アイリー様」
「カイも。今日は負けちゃったけど、次、勝てばいいんだから、ね?」
万一に備えて、カイもキープしてある。大丈夫。次からが本番。次は絶対にあの男に思い知らせてやるのだから―
闘技場を出ていく男の背中を見上げる。隣に並ぶ、小柄な背中が視界に入った。
―それにしても
あのキャラまで出てくるとは思わなかった。
ミア・ビンデバルド―
彼女がブレンの隣に居たのは、「そういう設定」で出てくるはずだったということだろうか?
『ミア・ビンデバルド』は、ゲームには未登場、公式SNSにおいて名前と立ち絵だけが紹介されたことのあるキャラだ。公式以外でも、雑誌などの特集に出てきたことがあったけれど、その時点では詳細は不明。高飛車な煽り文句がつけられていたから、恐らく、ライバルキャラとして登場する予定だったのだろう。だけど結局、彼女がゲームに登場することはないまま、ゲーム自体がサービス終了を迎えてしまった。
そんなキャラを、こんなところで見ることになるなんて。
彼女がブレンの仲間なら、彼女もまちがいなくライバルキャラ。フリー戦闘でリベンジマッチを申し込めば、ブレンの仲間として、次は彼女とも戦うことになるかもしれない。それでも、所詮はレベル24の雑魚キャラ、何の問題もない。次は、必ず勝つ。
ブレンと再戦可能になるのは一週間後、それまでの時間も無駄にするつもりはない。少しでもレベルを上げておく。効率を考えれば『始まりの祠』の攻略がちょうどいいのだけれど、ただ、封鎖されているダンジョンをどうすれば、
―そうか
「ギャロン先生!」
「?アイリー、どうした?」
試合の立ち会いを努めていたギャロンに声をかける。その顔に笑顔が無いのは、入学直後のパーティー申請を断ったから。そのせいで、かなり好感度が下がってしまっている。ここまで強くなった私ではギャロンの使いどころが無いから、もういいかと切ってしまったのだけど―
内心、舌打ちした。こんなことなら、ギャロンもキープしておくべきだったかもしれない。まあ、今さら言ってもしょうがないから、今はこのまま押しきる。ダメならまた、好感度を上げればいいだけのこと―
「あの、ギャロン先生。私、お願いがあって―」
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