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前編 学園編
3-1. チュートリアルを始めます
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3-1.
入学して数日が経ち、『始まりの祠』には未だ潜れそうにない現状、学園にはランチを食べに来ていると言ってもいい。
それでも私は一応、講義を受け、演習にも参加しているが、ブレンは入学二日目からずっと、授業中は完全に姿を消してしまっている。己を鍛えることにしか興味のないブレンだから、座学中心の学園の授業に興味を持てないのは仕方ないと、今は放っておくことにした。
今日も、お昼時になってようやく現れたブレンと食堂に向かいながら、今後の身の振り方について、少し真面目に考える。このまま、祠にも潜れずに無為に時間を過ごすよりは、一旦、祠を諦めて他の場所への移動を選択するべきか。
ただ、王都を離れるとなると、それなりの準備が必要になる。装備もそうだが、単純に移動に時間がかかるため、そう頻繁に行ったり来たりするわけにもいかない。しばらく戻って来れないことを考えると、せめて祠のモンスターレベルや発生率程度は知っておきたい。それでも解除を待つべきかの判断材料くらいは欲しいのだけれど。
人で混み合う食堂に、何とか二人分の空席を見つけて腰を落ち着ける。ブレンと今後のことを話し合おうとしたところで、また、先日と同じざわめきが起きた。
―来た
視線を送ると、食堂の入り口、今日は最初から四人で現れたアイリー達の姿。全員が見目麗しく、ディーツやアルドにいたっては知名度も抜群。周囲の視線を一身に浴びている彼らだが、当人達は周囲など目にも入らない様子で一人の少女を取り囲んでいる。ゲーム知識無しに見ると、まあ、異様な光景であることは間違いない。何となく眺めていると、少女、アイリーがこちらを指差して声をあげた。
「あ!あそこが空いてるよ!」
「?」
場違いなほど大きな声が響いた。しかも、彼女が指差しているのはどうやら私達の前に空いた二席のようで、私の隣も空いているから、確かに三人は座れるけれど。
「あ、残念。一つ足りないね」
近づいてきたアイリーが困ったような顔で座席を眺めている。そのアイリーを追いかけてきたのは、
「アイリー様、私は別の場所で構いません」
「!」
久し振り、耳にした懐かしい声。その温度の無いしゃべり方も昔のまま、何一つ、変わっていない。
「ダメだよ、カイ。ご飯は皆で食べよう?」
「…承知しました」
思わず、視線を下げた。その声の持ち主、カイを、直視することが出来ずに―
「あのぉ」
「…」
「…何だ」
アイリーの声にも顔を上げれずにいると、代わりに答えたのはブレンの不機嫌な声。それだけで、その場の雰囲気が険悪になっていくのを感じる。
「あ、えと、良かったら、なんだけど、席を譲って貰えたらと思って」
「…何だと?」
「ごめんなさい、だけど四人で座れそうな場所がなかなか無くて。二人なら、あの辺りとかも空いてるし」
「ふざけるな」
「あ!ごめんなさい!」
アイリーのお願いを一刀両断してしまったブレン、彼女の後方で怒気が膨らんでいくのを感じる。
「…アイリー様、頭を下げる必要はありません」
「そうだよ、アイリー」
「そちらの君も、女性の願いをそのように断るのは無礼に過ぎないか?」
アイリーを庇う、三者三様の声。
「うるせぇ。人が飯食ってるところにゴチャゴチャ言ってきたのはそいつだろうが」
「貴様、言葉には気を付けろ」
「…んだと?」
何故か睨み合う、ブレンとカイ。一瞬即発な気配に、どうしたものかと思っていると、
「そうだ!」
突然、閃いたとばかりに手を打ったアイリー。
「そんなに言うなら、学園生らしく、試合で勝負を決めましょう!どちらの言ってることが正しいか!」
「…」
嬉々として、そう発言したアイリーに、思考が追い付かずに固まった。なぜ、この流れで「試合」をすることになるのか、それの何が学園生らしいと言うのか。
「うるせぇ、女。今の俺は気が立ってんだ。引っ込んでろ」
「貴様…」
それでも、確実にブレンのボルテージは上がってしまったようで、本当に、カオスな状況を抜け出す方法がわからない。
「お前達!何をしている!?」
「!」
「あ!ギャロン先生!」
これだけ人目の多い場所で揉めていたのだ、誰かが呼んでくれたのだろう、現れたギャロン先生に一息つきかけのだが―
「どうした、アイリー。大丈夫か?」
「はい!あの、ただ、ちょっと行き違いがあって、でも、それも『試合』で勝負を決めることにしました!」
「試合か。まあ、闘技場を使っての勝負なら構わんだろう」
いつのまにか、決定事項として進められていく話に、チラリとブレンを確認する。これは、
―相当、キレてるなぁ
「おい!さっきから何の話をしている。試合形式?誰がそんなヌルイ、」
「ブレン」
仕方ない。完全に火がついたブレンを私がどうこうするのは、はっきり言って無理だ。
「学内での私闘は禁じられてるの。やるなら、互いが承知した上で、試合をするしかない」
「…」
「破れば退学」
「チッ!仕方ねぇ、それでいい、やるぞ」
またしてもカイを鋭く睨み付けるブレン。それをカイが冷淡な眼差しで受け止めている。全く、何がどうしてこうなったのか。
そこで、はたと気づいた―
これは、多分、アレではないだろうか。話の流れも、台詞も、全く別物になってしまっているけれど。恐らく、始まってしまったのだ。かなり変則的な、ブレンによるチュートリアル戦が―
入学して数日が経ち、『始まりの祠』には未だ潜れそうにない現状、学園にはランチを食べに来ていると言ってもいい。
それでも私は一応、講義を受け、演習にも参加しているが、ブレンは入学二日目からずっと、授業中は完全に姿を消してしまっている。己を鍛えることにしか興味のないブレンだから、座学中心の学園の授業に興味を持てないのは仕方ないと、今は放っておくことにした。
今日も、お昼時になってようやく現れたブレンと食堂に向かいながら、今後の身の振り方について、少し真面目に考える。このまま、祠にも潜れずに無為に時間を過ごすよりは、一旦、祠を諦めて他の場所への移動を選択するべきか。
ただ、王都を離れるとなると、それなりの準備が必要になる。装備もそうだが、単純に移動に時間がかかるため、そう頻繁に行ったり来たりするわけにもいかない。しばらく戻って来れないことを考えると、せめて祠のモンスターレベルや発生率程度は知っておきたい。それでも解除を待つべきかの判断材料くらいは欲しいのだけれど。
人で混み合う食堂に、何とか二人分の空席を見つけて腰を落ち着ける。ブレンと今後のことを話し合おうとしたところで、また、先日と同じざわめきが起きた。
―来た
視線を送ると、食堂の入り口、今日は最初から四人で現れたアイリー達の姿。全員が見目麗しく、ディーツやアルドにいたっては知名度も抜群。周囲の視線を一身に浴びている彼らだが、当人達は周囲など目にも入らない様子で一人の少女を取り囲んでいる。ゲーム知識無しに見ると、まあ、異様な光景であることは間違いない。何となく眺めていると、少女、アイリーがこちらを指差して声をあげた。
「あ!あそこが空いてるよ!」
「?」
場違いなほど大きな声が響いた。しかも、彼女が指差しているのはどうやら私達の前に空いた二席のようで、私の隣も空いているから、確かに三人は座れるけれど。
「あ、残念。一つ足りないね」
近づいてきたアイリーが困ったような顔で座席を眺めている。そのアイリーを追いかけてきたのは、
「アイリー様、私は別の場所で構いません」
「!」
久し振り、耳にした懐かしい声。その温度の無いしゃべり方も昔のまま、何一つ、変わっていない。
「ダメだよ、カイ。ご飯は皆で食べよう?」
「…承知しました」
思わず、視線を下げた。その声の持ち主、カイを、直視することが出来ずに―
「あのぉ」
「…」
「…何だ」
アイリーの声にも顔を上げれずにいると、代わりに答えたのはブレンの不機嫌な声。それだけで、その場の雰囲気が険悪になっていくのを感じる。
「あ、えと、良かったら、なんだけど、席を譲って貰えたらと思って」
「…何だと?」
「ごめんなさい、だけど四人で座れそうな場所がなかなか無くて。二人なら、あの辺りとかも空いてるし」
「ふざけるな」
「あ!ごめんなさい!」
アイリーのお願いを一刀両断してしまったブレン、彼女の後方で怒気が膨らんでいくのを感じる。
「…アイリー様、頭を下げる必要はありません」
「そうだよ、アイリー」
「そちらの君も、女性の願いをそのように断るのは無礼に過ぎないか?」
アイリーを庇う、三者三様の声。
「うるせぇ。人が飯食ってるところにゴチャゴチャ言ってきたのはそいつだろうが」
「貴様、言葉には気を付けろ」
「…んだと?」
何故か睨み合う、ブレンとカイ。一瞬即発な気配に、どうしたものかと思っていると、
「そうだ!」
突然、閃いたとばかりに手を打ったアイリー。
「そんなに言うなら、学園生らしく、試合で勝負を決めましょう!どちらの言ってることが正しいか!」
「…」
嬉々として、そう発言したアイリーに、思考が追い付かずに固まった。なぜ、この流れで「試合」をすることになるのか、それの何が学園生らしいと言うのか。
「うるせぇ、女。今の俺は気が立ってんだ。引っ込んでろ」
「貴様…」
それでも、確実にブレンのボルテージは上がってしまったようで、本当に、カオスな状況を抜け出す方法がわからない。
「お前達!何をしている!?」
「!」
「あ!ギャロン先生!」
これだけ人目の多い場所で揉めていたのだ、誰かが呼んでくれたのだろう、現れたギャロン先生に一息つきかけのだが―
「どうした、アイリー。大丈夫か?」
「はい!あの、ただ、ちょっと行き違いがあって、でも、それも『試合』で勝負を決めることにしました!」
「試合か。まあ、闘技場を使っての勝負なら構わんだろう」
いつのまにか、決定事項として進められていく話に、チラリとブレンを確認する。これは、
―相当、キレてるなぁ
「おい!さっきから何の話をしている。試合形式?誰がそんなヌルイ、」
「ブレン」
仕方ない。完全に火がついたブレンを私がどうこうするのは、はっきり言って無理だ。
「学内での私闘は禁じられてるの。やるなら、互いが承知した上で、試合をするしかない」
「…」
「破れば退学」
「チッ!仕方ねぇ、それでいい、やるぞ」
またしてもカイを鋭く睨み付けるブレン。それをカイが冷淡な眼差しで受け止めている。全く、何がどうしてこうなったのか。
そこで、はたと気づいた―
これは、多分、アレではないだろうか。話の流れも、台詞も、全く別物になってしまっているけれど。恐らく、始まってしまったのだ。かなり変則的な、ブレンによるチュートリアル戦が―
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