バグ発見~モブキャラの私にレベルキャップが存在しなかった~

リコピン

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前編 学園編

1-3.

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1-3.

一応、『共闘した』から―?

ブレンの心がなぜ動いたのか、その本当のところはわからない。それでも、彼が聞く耳を持ってくれた。慎重さを失うわけにはいかないが、チャンスは逃したくない。

「詳細は言えない。でも、私と奴隷契約を結べば、あなたは強くなる」

誓ってもいい。

ただ、今の時点でブレンに全てを話すことは出来ない。私の知る限り、この世界において『この方法』でレベル上限を越えるという話は聞いたことがない。通常ではあり得ないそれを私が出来るのは、前世のゲーム知識があるから。

話すとしたら、ブレンと契約を交わした後、彼に裏切られないと判断した時だけ。

「…具体的な方法も提示できない胡散臭い話を、俺に信じろと言うのか?」

「うん」

納得がいかないのだろう。彼の渋い表情に、これではやはりダメかと思い始めた時―

「…『労役奴隷』としてなら、契約してやる」

―なるほど

労役刑につく人間が、役人や町の長を相手に結ぶ、期限つきの奴隷契約。

確かに、契約期間が最初に明示される労役奴隷なら、期間が過ぎた後はブレン自ら契約を終了させることが出来る。一度結んでしまえば―所有者が望まない限り―破棄出来ない永続契約とは違って、ブレンのリスクが少ない。彼のその慎重さも好ましいと思った。

「わかった。ただ、その契約方法で上手くいくかは私もやったことがないから、『試しに』ってことになるけど、構わない?」

「…」

軽くうなずいたブレンのそれを了承ととる。

「じゃあ、どうしよう?一度、塔を出て」

「いや、このまま、ここで契約する」

「でも、道具が何も」

契約のための書類、誓約書や制限項目を規定するための諸々が、手元にない。

「必要ない。期限つき契約なら、互いの宣誓だけで済ませられる」

「…そうなの?」

知らなかった情報に尋ね返せば、ブレンが頷く。

「手を出せ」

言われて差し出した手の上に、さしてかわらない大きさのブレンの掌が重ねられた。

「復唱しろ」

そう言ってブレンが唱えた言葉。隷属する期限を『本日中、もしくはブレンのレベルが1上昇するまで』と区切って結ばれる契約を、彼の後に続いて口にする。最後に契約の呪文を唱え、心の中無詠唱願った唱えた

―ブレン・オーベルと共に成長する未来を

現れた黒いモヤがブレンの手首へと巻き付く。そこに浮かび上がった模様は契約が結ばれた証し。

「…じゃあ、一旦、上の階に戻ろう。確認するだけだから、なるべく安全に狩りたい」

「…」

刻まれた模様、自分の手首を撫でていたブレンが私の言葉に顔を上げ、何も言わずに動きだした。

先ほど降りてきたばかりの上階へと続く部屋まで引き返し、今度は反対に階段を登っていく。薄暗い螺旋の石階段をブレンの後に続いた。

「…おい、」

「何?」

「お前、今のレベルは?」

先ほどの契約で、私の本名―ミア・ビンデバルト―は名乗り済みなのだが、ブレンには私の名前を口にする気はないらしい。

「答えろ、いくつだ?」

「…71」

「…」

嘘を、つくことも出来た。相手のステータスを見ることが出来る『アナライズ』を習得出来るのは、レベル60以上。だから、ブレンが私のステータスを知る術はなくて―

それでも、正直に答えたのは、私に賭けて奴隷となることを受け入れたブレンに対する誠意。私の答えレベルに彼が何を思ったかはわからないけれど。

「ブレン、さっきまで甲虫系のモンスターを狩ってた場所があるでしょ?あそこに戻ろう」

「…」

黙ったまま先導するブレンの後に従う。ある程度時間が経過していたからか、元居た場所には、先ほど見た時と変わらない量のモンスターが湧いていた。

「とりあえず何体か狩ってみて?身体強化系はかけるから」

「…」

頷くブレンにブーストをかける。かけ終わると同時に、自身の身の丈ほどはある虫型モンスターに挑むブレン。その戦いを間近で見て、彼が何故こんな階層まで潜れたのかがわかった気がした。

上手いのだ。剣の使い方が。甲虫の硬い装甲の隙間―弱点となる部分―を走りながら見定めてから、一瞬で攻撃を決め、相手の反撃の前には離脱している。ブーストをかけてはいるが、それだけでこの動きは出来ない。レベルの不足を技術で埋めている。

見ている内にも、二体、三体と、甲虫が倒され、消滅していく。五体目を倒した時だった。ブレンの動きが一瞬、ぎこちなくなった。

モンスターの群から大きく距離をとる彼の姿に、予感めいたものを感じる。すかさず、彼にかけたアナライズ。示された数値は、レベル31。漏れそうになる歓声を必死に飲み込んで、ブレンの様子を伺った。茫然としたようにも見える彼は、剣を掴んだ自身の手を眺めていて―

その手首から、先ほど結んだばかりの労役契約の証しが消えていた。




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