バグ発見~モブキャラの私にレベルキャップが存在しなかった~

リコピン

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前編 学園編

1-1. これまでの二人、これからのこと

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1-1.

最下層ここまで来たのは何度目だろう。

王都周辺では最高難易度を誇るダンジョン『灼熱のミハナ宮殿』、その地下60階の大広間。数えるのも面倒なほど繰り返し訪れたこの場所に、出現するのはダンジョンボスの『魔人イフリート』のみ。

今、そのイフリートと単身戦っているのは、黒目黒髪の長身の男、自分の数倍はある巨体を相手に、縦横無尽に部屋中を跳び回っている。

―楽しそうで何より

広間の壁際に置かれた彫像、その台座の一つに腰かけて彼の戦いを見守る。この距離からでも、滅多に笑わない男の口角が上がっているのがわかる。いつもは鋭さの際立つ黒い瞳も、今は愉悦に輝いていて。

物理耐性の高いイフリート相手に、付与魔法も何も掛かっていない鋼の剣一つで挑む姿を見るのも、これで何度目だろうか。

―よくもまあ、飽きもせずに

高位魔法一発で倒せる相手を、私の手出しを禁じた上で、態々わざわざ、物理攻撃のみでチマチマチマチマと削り続けているのだ。

―本当に好きだな、肉弾戦

特に、イフリートのような人の姿をとるモンスターと戦うのが好きなようで、今回は剣を使っているが、文字通り、拳一つで戦いを挑むこともある。

そのこと自体に文句はないが、手出しを禁じられている私は、その間、非常に手持ち無沙汰なわけで。かといって他の場所で何かしようにも、彼の探知範囲の外に出ると、それはそれで怒られてしまうため、こうしてただ彼の戦いを眺めているしかない。

長身が宙が跳び、剣を振り下ろす。その度に、高い位置で結んだ癖の強い長髪が揺れている。

―髪、伸びたな

揺れる黒髪を目で追う内に、イフリートの動きが鈍くなってきた。このまま、彼一人で狩りきってしまうかもしれない、そう思い始めた時だった。

突然、敵の巨体が赤く輝きだした。イフリートのレア覚醒、大憤怒モードだ。詳しい条件はまだわかっていないが、特定の被ダメージ条件を満たすと発動する覚醒。発動するとイフリートが強化されてしまうが、倒した時のドロップアイテムもレアになる、『おいしい』モード―

「っ!ミア!!」

鋭い警告の声が飛んできた。レアドロップについてぼーっと考えていた分、反応が遅れる。燃える巨大な岩石がいくつも頭上から降り注ぐのが見え、思わず目をつぶった。一瞬の間、岩が轟音をたてて周囲に砕け散る。張っていた結界に弾かれたのだ。

音が止み、つぶっていた目をそっと開けた。目の前には、さっきまで楽しそうにしていた男が不機嫌をあらわに立っていた―

「…ブレン」

どうやら、イフリートの元から一瞬でここまで跳んで来たらしい。

「油断するな」

「防御壁張ってるから、平気」

目をつぶってしまうのはしょうがない。巨大な岩石が飛んでくるなんて―当たらないとわかっていても―怖いものは怖い。

「…」

ブレンの無言の一瞥は、恐らく本当に怪我が無いか、『アナライズ』をかけられたのだと思う。平気だと言っているのに、全く信用されていない。

おまけに、私が巻き込まれたことで戦いに水を差してしまったらしく、ブレンの瞳から、先程までの熱が消えている。どうやら、闘争心が冷めてしまったようだ。

「…けりをつけるぞ」

一言だけ残して、駆け出したブレン。先程とは違い、魔力がのった打撃で、一瞬の内にイフリートを殴り倒してしまった。そのまま倒れた巨体を押さえ込んだブレンの、声が飛ぶ―

「ミア!」

名前を呼ばれてしまったから、仕方ない。立ち上がって魔力を練り上げる。そこそこ大きい魔力の塊を、水の流れに変換していく。

―ハイドロクラッシュ

出来上がった水の圧力を前方に開放した。巨大な水のうねりが真っ直ぐに飛んでいく。モンスターを、名前を呼んだブレンごと飲み込む勢いで。

飲み込まれる寸前、彼が大きく飛び退いた。かなりの水量と速度のあった水の流れを、軽々とかわす。

―ほんと、心臓に悪い

いくら「やれ」と言われているとはいえ、指示する本人ごと魔法攻撃に巻き込むのは、いつだって緊張する。決して、彼の実力を信じていないわけではないけれど―

イフリートを飲み込んだ水の流れが、広間の反対側の壁に激突し、霧散していく。ダンジョンの壁には傷一つつかないが、水の引いた後にイフリートの姿はない。大憤怒モードのイフリートでも、問題なく倒しきることができたようだ。

敵の消滅を見届けたブレンがこちらへと戻ってくる。近づく彼を見ながら、彼の髪がまたほどけてしまっていることに気がついた。

この世界には「ゴム製品」というものが存在しない。一般的に使われている髪紐だと、今のように戦闘中にほどけてしまうことも多い。

―ヘアゴムがあればいいのに

ブレンが、首元に張り付く髪を鬱陶しそうにかきあげた。

彼の首そこに、首輪のようにぐるりと巻き付く、青い紋様が浮かぶ。蛇のように、蔦のように、鎖のように―

彼を絡めとるそれは、ブレンと私が結んだ契約、隷属の証し、

永続の奴隷紋―




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