読心令嬢が地の底で吐露する真実

リコピン

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第五章

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――昨夜は言い過ぎた。悪かった。

フリッツに詰られた翌朝、バツの悪そうな顔をしながらも潔く頭を下げられ、レジーナは驚きながらもフリッツの謝罪を受け入れた。レジーナとて、危険なダンジョン内において彼らと仲違いをするつもりはない。クロードの負担が増えるような真似は慎むべきだ。だが、なぜフリッツが態度を急に変えたのか、その疑問だけは残った。

昨日と同じ隊列で進むダンジョン、時間の感覚のわからなくなる空間で、レジーナ達はひたすらに歩き続けた。ただ、水の補給はどうにかなるものの、もう丸一日以上、何も口にしていない。元々、体力の少ないレジーナとエリカの疲労は頂点に達していた。レジーナは、油断するとふらつきそうになる足を何とか前に進める。

そんな状況の中、十階層を目前に現れた別れ道に、クロードがその日初めて足を止めた。彼曰く、この先の道はどちらも同じ場所に繋がっているが、夫々の道の先にある仕掛けを同時に起動しないことには、その先の扉が開かないのだと言う。

「二手に分かれるしかないだろうな」

クロードの説明に、フリッツがそう決断を下した。彼の決断にクロードは直ぐには返事をせず、逡巡を見せる。彼の迷いに、フリッツが言葉を重ねた。

「ここまで来れば、俺たちだけでも魔物に対処できる」

自信を見せるフリッツに、クロードがボソリと告げる。

「……トラップがある」

「それも問題ない。学園の実習でダンジョンには何度も潜ったことがある。……だが、そうだな。万一を考えて、回復役を分けるか」

そう言ったフリッツが、レジーナに視線を向けた。

「レジーナ、お前、治癒魔法はどの程度使える?擦り傷程度か?重症でも、止血ぐらいは出来るのか?」

「……自身の怪我であれば、気を失っていない限りは」

「ふん。だったらまあ、問題はないだろう」

そう言ってフリッツが提案したのは、私とクロードが二人で片方の道を行き、残りの五人でもう片方の道を行くというものだった。

悩んだ末、結局、クロードはその提案に頷いた。

それぞれの道に分かれ、レジーナはクロードと二人で歩く。戦闘よりも罠の回避が主になるため、レジーナはクロードのすぐ後ろを歩くことになったのだが。

(……これは、罠の意味があるのかしら?)

クロードは、罠を回避するのではなく、尽く発動させ、それを破壊して進んでいく。翔んでくる矢を叩き落とし、発射口に剣をたてる。地面に露出した毒針の山を、剣で横薙ぎに払う。まさに「露払い」ではあるのだが、流石に転がってきた巨大な鉄球を一刀両断した時には、レジーナは悲鳴を上げそうになってしまった。

そうして、レジーナが罠の一切を気にする必要なくたどり着いたのは、行き止まりの大広間だった、クロードが部屋の隅の装置を作動させれば、広間の壁の一部がギシギシと機械の巻き上げのような音を立てながら持ち上がっていく。その向こうに現れたのは更なる石の壁。それも、暫く待つと同じような音を立てながら、上部へと持ち上がっていく。

その持ち上がる石壁の向こうに、複数の人の姿が見えた。無事合流できたことにホッとしたのも束の間、目にした異変にレジーナの心臓が凍り付く。

「っ!アロイスッ!?」

同じような石の広間に、アロイスが横たわっていた。その横にしゃがみ込むのはエリカ。彼女が、アロイスの脇腹に手を触れているのが見える。

ああ、だけど――

「アロイスッ!」

レジーナは、転びそうになりながら駆け出した。気ばかりが急いて、身体が思うように動かない。どうにか駆け寄ったアロイスの側、フリッツが茫然と立ち尽くすのが見えた。

「殿下!アロイスはっ!?」

「……毒を、毒矢を受けた。俺を庇って。……だから、直ぐにエリカが治癒を
、なのに……」

なのに、治らないのだという。その理由は明らかだった。

固い石の上に寝かせられたアロイスは、治療のためだろう、その上半身を覆っていた革製の肌着を外されている。恐らく、身体の線を隠すためのもの、それを外された今、の身体の膨らみは最早隠しようもなかった。

「……なんで、なんで、アロイス。お前、女なんだよ……」

言って、ガクリと膝をついたフリッツの口から弱弱しい懇願の声が漏れた。

「……頼む、エリカ。何とか、アロイスを助けてくれ……」

フリッツのその声に、エリカがフルフルと首を横に振った。

「申し訳ありません、殿下。やってはみたのですが、やはり、私の力は女性には……」

そう言って言葉を切るエリカの姿に、レジーナは目の前が暗くなる。見下ろしたアロイスの血の気の失せた顔。ゼェゼェと苦し気な呼吸を繰り返す彼女の姿に、レジーナはアロイスの側に膝をついた。

(嫌よ、こんなのは嫌!絶対に嫌よ……っ!)




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