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第三章
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見違える姿で大部屋に戻ってきたクロードの姿にレジーナが満足し、エリカの上げた驚きの声に悦に入りそうになった時、リオネルの鋭い警告の声が聞こえた。
「レジーナ!その男から離れろ!」
言って、一瞬でレジーナとの距離を詰めたリオネルが、レジーナを庇うようにしてクロードの前に立つ。リオネルの行動に思考が追い付かなったレジーナはあっけにとられたが、彼が剣を抜こうとしていることに気づき、慌ててリオネルを止めた。
「リオネル!?止めて、何をするつもりなの!」
「レジーナ、君も気づいているだろう?この男はかつての英雄、クロードに酷似している。この男が真実、かつての英雄だとすれば、今やこいつは国に仇なす反逆者、帝国の間者だ」
リオネルの言わんとすることが分かったレジーナは、黙って彼の後ろを離れ、クロードの隣へと並んだ。
「レジーナ、止せ!そいつは王国騎士としての職務を放棄し、帝国へ亡命した男だぞ!」
そこまで言ったリオネルが、ハッとしたように言葉を切った。途端、瞳に憎しみの炎を燃え上がらせ、震える声でレジーナをなじる。
「やはり、やはり君は私たちを裏切っていたのか?もしや、帝国の力を借りて……!?」
敵意を剥き出しにするリオネルがそう口にした根拠、クロードが帝国に寝返ったとされる話は、王国内では既に周知の事実となっている。レジーナ自身、その話を――若干のきな臭さを覚えながらも――事実として受け止めていた。クロードの真実に直接触れるまでは。
「……その前提が間違っていたとしたら?クロードは亡命なんてしていない。ずっと、ここに居たのよ」
「馬鹿な!何を言っている!?」
レジーナの言葉にも、リオネルは聞く耳を持たない。クロードの出奔、帝国への寝返りを証言したのが当時の騎士団長、リオネルの父なのだから、それも当然だが。
レジーナは自身の義父になる予定であった現プライセル家当主の顔を思い浮かべながら、告げる。
「クロードは、『亡命した』とされていただけ」
「裏切り者を庇うつもりかっ!?」
「庇うも何も、それが真実だわ」
クロードのビジョンから見えたのは、国が彼を危険視していたという事実。平民である「英雄クロード」が力をつけ過ぎ、国民からの熱狂的な人気を得たことを、国は恐れた。彼の失踪後、帝国への亡命という汚名が不自然なほどの早さで広まったことを鑑みれば、クロードの失脚がプライセルの独断ではなく、国主導で行われた可能性は高い。
そして、今なお、彼を崇拝する声が完全には消えていないという事実が、国の懸念が決してただの杞憂では無かったことを示している。
「……クロードは国を裏切ってなんかいない。それどころか、命じられた任務に忠実に、ずっとこの地でダンジョンを支えていたのよ」
愚かな忠誠だと思う。死を望まれての命になど従う必要はない。逆らって、逃げ出して、それこそ帝国へでもどこでも亡命してしまえばよかったのだ。
内心の苛立ちを隠して淡々と告げたレジーナに、「待て」と制止をかけたフリッツが近づいて来る。
「レジーナ、今の言葉はどういう意味だ。ダンジョンを支えるだと?」
リオネルの隣に並び立ったフリッツの問いに、レジーナは頷いた。
「四年前に枯れたとされるダンジョン、それを今日この日まで支えていたのはクロードの魔力です」
「何を馬鹿な……」
ダンジョンは、その内に潜る人や魔物が自然に発する僅かな魔力を吸収することで発達していく。ある程度の規模に成長した後は、再び収束していくのだが、カシビアほどのダンジョンを支えるには、当然、相当量の魔力が求められる。最盛期には、何百、何千人分もの魔力を必要としただろう。
「信じがたいかもしれません。ですが、殿下、事実、国が枯れたと発表したこのダンジョンは、辛うじてではありますが、まだ生き残っていたでしょう?」
レジーナの言葉に黙り込んだフリッツに代わり、リオネルが怒りに任せて吐き捨てる。
「ここがカシビアだという保証はどこにもない!その男が勝手にほざいているだけだろうっ!?」
リオネルの言葉に、レジーナは首を横に振る。
「ここで真偽をどうこうしようとは思っていないわ。ただ……」
言って、リオネル以外の全員に視線を向けた。
「ダンジョンを支えていたクロードの魔力が尽きた今、ここはもってあと数日……」
レジーナの言葉の衝撃に、フリッツとアロイス、それからエリカが驚きの声を上げた。それを見て、少なくともリオネル以外には話が通じそうだと判断したレジーナは言葉を続ける。
「それもあって、三日以内にここを脱出したいと考えています。……先程の、『提案を受け入れる』という話は、覆らないということでよろしいですか?」
その問いかけに逡巡を見せる男たちの中、レジーナは、エリカだけがキラキラとした視線を向けていることに気がついた。
(……違う)
レジーナではない。彼女が見つめているのは、レジーナの隣に立つクロードだった。
「レジーナ!その男から離れろ!」
言って、一瞬でレジーナとの距離を詰めたリオネルが、レジーナを庇うようにしてクロードの前に立つ。リオネルの行動に思考が追い付かなったレジーナはあっけにとられたが、彼が剣を抜こうとしていることに気づき、慌ててリオネルを止めた。
「リオネル!?止めて、何をするつもりなの!」
「レジーナ、君も気づいているだろう?この男はかつての英雄、クロードに酷似している。この男が真実、かつての英雄だとすれば、今やこいつは国に仇なす反逆者、帝国の間者だ」
リオネルの言わんとすることが分かったレジーナは、黙って彼の後ろを離れ、クロードの隣へと並んだ。
「レジーナ、止せ!そいつは王国騎士としての職務を放棄し、帝国へ亡命した男だぞ!」
そこまで言ったリオネルが、ハッとしたように言葉を切った。途端、瞳に憎しみの炎を燃え上がらせ、震える声でレジーナをなじる。
「やはり、やはり君は私たちを裏切っていたのか?もしや、帝国の力を借りて……!?」
敵意を剥き出しにするリオネルがそう口にした根拠、クロードが帝国に寝返ったとされる話は、王国内では既に周知の事実となっている。レジーナ自身、その話を――若干のきな臭さを覚えながらも――事実として受け止めていた。クロードの真実に直接触れるまでは。
「……その前提が間違っていたとしたら?クロードは亡命なんてしていない。ずっと、ここに居たのよ」
「馬鹿な!何を言っている!?」
レジーナの言葉にも、リオネルは聞く耳を持たない。クロードの出奔、帝国への寝返りを証言したのが当時の騎士団長、リオネルの父なのだから、それも当然だが。
レジーナは自身の義父になる予定であった現プライセル家当主の顔を思い浮かべながら、告げる。
「クロードは、『亡命した』とされていただけ」
「裏切り者を庇うつもりかっ!?」
「庇うも何も、それが真実だわ」
クロードのビジョンから見えたのは、国が彼を危険視していたという事実。平民である「英雄クロード」が力をつけ過ぎ、国民からの熱狂的な人気を得たことを、国は恐れた。彼の失踪後、帝国への亡命という汚名が不自然なほどの早さで広まったことを鑑みれば、クロードの失脚がプライセルの独断ではなく、国主導で行われた可能性は高い。
そして、今なお、彼を崇拝する声が完全には消えていないという事実が、国の懸念が決してただの杞憂では無かったことを示している。
「……クロードは国を裏切ってなんかいない。それどころか、命じられた任務に忠実に、ずっとこの地でダンジョンを支えていたのよ」
愚かな忠誠だと思う。死を望まれての命になど従う必要はない。逆らって、逃げ出して、それこそ帝国へでもどこでも亡命してしまえばよかったのだ。
内心の苛立ちを隠して淡々と告げたレジーナに、「待て」と制止をかけたフリッツが近づいて来る。
「レジーナ、今の言葉はどういう意味だ。ダンジョンを支えるだと?」
リオネルの隣に並び立ったフリッツの問いに、レジーナは頷いた。
「四年前に枯れたとされるダンジョン、それを今日この日まで支えていたのはクロードの魔力です」
「何を馬鹿な……」
ダンジョンは、その内に潜る人や魔物が自然に発する僅かな魔力を吸収することで発達していく。ある程度の規模に成長した後は、再び収束していくのだが、カシビアほどのダンジョンを支えるには、当然、相当量の魔力が求められる。最盛期には、何百、何千人分もの魔力を必要としただろう。
「信じがたいかもしれません。ですが、殿下、事実、国が枯れたと発表したこのダンジョンは、辛うじてではありますが、まだ生き残っていたでしょう?」
レジーナの言葉に黙り込んだフリッツに代わり、リオネルが怒りに任せて吐き捨てる。
「ここがカシビアだという保証はどこにもない!その男が勝手にほざいているだけだろうっ!?」
リオネルの言葉に、レジーナは首を横に振る。
「ここで真偽をどうこうしようとは思っていないわ。ただ……」
言って、リオネル以外の全員に視線を向けた。
「ダンジョンを支えていたクロードの魔力が尽きた今、ここはもってあと数日……」
レジーナの言葉の衝撃に、フリッツとアロイス、それからエリカが驚きの声を上げた。それを見て、少なくともリオネル以外には話が通じそうだと判断したレジーナは言葉を続ける。
「それもあって、三日以内にここを脱出したいと考えています。……先程の、『提案を受け入れる』という話は、覆らないということでよろしいですか?」
その問いかけに逡巡を見せる男たちの中、レジーナは、エリカだけがキラキラとした視線を向けていることに気がついた。
(……違う)
レジーナではない。彼女が見つめているのは、レジーナの隣に立つクロードだった。
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