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【完結】私達の冒険はまだまだ…▶️6話
#5 これから先、共にあるために(ルキ視点)
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ヴァイズ・ミレン邸での二度目の夕食を終えた後、夜風に当たりに外へ出る。冷たさの混じり始めた空気、周囲を取り囲む闇に、沈みっぱなしの心がいくらか和らぐ。
大木の根に腰を下ろし、森の静寂に身を浸していると、先ほど出てきた家の扉が開くのが見えた。漏れる灯り、小さな影が近づいて来る。
目の前で立ち止まったセリ、互いの視線がちょうど合う高さ、両手に握られたカップの一つがこちらへと向けられた。
「…ルキさん、コーヒー、飲みますか?」
「あー、サンキュ。」
「いえ、私も飲みたかったので。」
セリの手に握られているもう一つのカップからは甘いココアの香りが立ち上っている。コーヒーカップをこちらへ渡し、隣に座ろうとするセリに、空いた手を伸ばした。
「…セリ、こっち座れよ。」
「え?…あの、でも、」
「なんで?お師匠さんやザーラの膝には座ってたろ?」
「…でも。」
「…しゃーねーなー。」
「わ。」
体格差を十分に活かして、セリの捕獲を試みた。カップの中味を溢さないようにしているセリの捕獲は容易で、膝の上、完全に抱き込んでしまえるサイズの温もりに満足する。
「…」
「…」
逃走は不可能と悟ったのか、大人しく自分のカップに口をつけるセリ。それを上からのぞきみながら、聞いてみる。
「…あー、あのさ、セリにちょっと聞いて欲しい話あんだけど、相談、のってくれっか?」
「…私で相談相手になりますか?」
「ああ、うん、なる、てか、セリに聞いて欲しいだけだからさ。『なんか言ってんなー』くらいで聞き流してくれていいから。」
「…分かりました。」
「サンキュ。」
セリの頭の上、重くないよう顎を乗せ、何でもない風で胸の重石を明かしてみる。セリであって、セリではない存在に─
「…俺さー、ちょっと前にプロポーズして、んで、まぁ、今は結婚式の準備ってか、挨拶回り?っての?してる最中なんだけどさー…」
「…おめでとうございます。」
「…ああ、うん、まぁ、そうだよな。そうなるよな?…アリガトウゴザイマス。」
今のセリにとっては完全に他人事、祝いの言葉までもらって苦笑する。
「あー、で、まぁ、その準備っての、してる最中なんだけどさ、…実は、まだ、本人からプロポーズの返事、もらってねぇんだよ…」
「え…?…それは、あの、…それで、いいんですか?」
「どうだろなー。本人、気づかないままに流されてっけど、一応、拒否られてはねぇから、俺の中では『アリ』ってことになってる。」
「…」
黙り込んでしまったセリに、もう一つ、情けない打ち明け話。
「…後さ、俺、セリのお師匠さんの実年齢知んなくて…」
「師の?」
「そ。んで、俺の惚れてる相手ってのが、セリのお師匠さんとすっげぇ仲いいの。距離感近くてさぁ、まあ、正直、そういうのにも嫉妬してたりしてたんだけどさー…」
「…」
「…今日、あの人の歳聞いて、メチャクチャ安心して、今まで俺が嫉妬してたのは、子どもってか、孫?見てる眼差しってやつなんだなって分かって、でー、凹んでる…」
「…凹むまでの間、何か省略されてませんか?」
「んー、いや、まぁ、正直、俺、カッコ悪くね?って思ってる…」
勝手に嫉妬して、必死に囲い込もうとしての空回り。セリの意思を無視して、丸め込めりゃいいな、って思う浅ましさまでは明かせないけれど─
「…あの、思うんですけど、私にではなく、ルキさんの好きな人にも、そうやって、直接、伝えてみればいいんじゃないですか?」
「あー、やー、でも、カッコ悪いとこ見せて逃げられでもしたら、洒落になんねぇからなー…。セリも、好きな男のカッコ悪いとことか見たくねぇだろ?」
「好きな人…、私の周りには兄と師しか居ないので、参考になるか分かりませんが…」
「うん?」
「兄も師も、基本的にあまりカッコ良くはないといいますか、その、尊敬はもちろんしてますが、カッコ悪いことなんて日常茶飯事で…」
「あー…」
「でも、あの、二人とも、大好きです。」
「…」
腕の中の小さな身体が身じろいで、こちらを振り仰ぐ。
「…それに、私なら、結婚する相手のカッコ悪いところ、いっぱい、見せて欲しいと思います。」
「…マジで?」
「はい。…あの、子どもっぽい意見かもしれませんけど、でも、好きな人のことなら全部知りたいし、その人の色んな面を見られるのは嬉しい、です、…あの、私なら…」
「…」
言ってる途中で照れが勝ったのか、正面に向き直ってしまったセリの頭を見下ろす。その頭に向かって、予防線張りつつの決意表明。
「…セリが、そう言うんなら、まぁ、じゃあ、ちょっとは、晒してっても大丈夫かもしんねぇなぁ…。やってみっか。」
「…あの、私なら、ですよ?」
「ああ、うん。オッケー、セリの意見が一番参考なっから。」
「?」
もう一度振り向いたセリの、分かってなさそうな顔に笑う。
「アドバイス、サンキューな。」
「…あの、でも、やっぱり、お相手の方との意見のすり合わせが一番大事だと思います。」
「ん。だな。」
「あと、プロポーズの返事は、一応、ちゃんと確認した方が…」
「あー、だなー…」
「…結婚式の準備を反対されてないのなら、言葉にしなくても通じ合ってるってことだとは思いますけど…」
「ん。」
必死に言葉を紡いで「相談にのって」くれるセリの言葉に頷いた。頷く自分に安心したように笑うセリ。
(…いつも、こんな風に出来りゃいいんだけどな…)
明日、朝、目覚めたセリが、今、確かに通じ合ってる気がするこの時間を覚えているかは不明だが、言葉にしたこともしなかったことも、もう一度、伝えてみよう。そう決めて、セリの頭に手を伸ばす。
撫でられるままのセリの小さな頭が、小さく傾いで、
「…あの、ところで、ルキさんがプロポーズされた相手は、ザーラさんですか?」
「っ!?ちげぇよ!?」
全然、通じ合ってなんてなかった─
だから、つまり、結局、そういうこと。口にしなきゃ、思いなんて簡単には伝わらない。セリのことに関しては最強のアドバイザーから言質もとった。明日になったら、先ずは、セリにプロポーズの返事をもらおう。
腕の中、大人しく抱かれてくれるセリのつむじに、誓いのキスを落とす─
大木の根に腰を下ろし、森の静寂に身を浸していると、先ほど出てきた家の扉が開くのが見えた。漏れる灯り、小さな影が近づいて来る。
目の前で立ち止まったセリ、互いの視線がちょうど合う高さ、両手に握られたカップの一つがこちらへと向けられた。
「…ルキさん、コーヒー、飲みますか?」
「あー、サンキュ。」
「いえ、私も飲みたかったので。」
セリの手に握られているもう一つのカップからは甘いココアの香りが立ち上っている。コーヒーカップをこちらへ渡し、隣に座ろうとするセリに、空いた手を伸ばした。
「…セリ、こっち座れよ。」
「え?…あの、でも、」
「なんで?お師匠さんやザーラの膝には座ってたろ?」
「…でも。」
「…しゃーねーなー。」
「わ。」
体格差を十分に活かして、セリの捕獲を試みた。カップの中味を溢さないようにしているセリの捕獲は容易で、膝の上、完全に抱き込んでしまえるサイズの温もりに満足する。
「…」
「…」
逃走は不可能と悟ったのか、大人しく自分のカップに口をつけるセリ。それを上からのぞきみながら、聞いてみる。
「…あー、あのさ、セリにちょっと聞いて欲しい話あんだけど、相談、のってくれっか?」
「…私で相談相手になりますか?」
「ああ、うん、なる、てか、セリに聞いて欲しいだけだからさ。『なんか言ってんなー』くらいで聞き流してくれていいから。」
「…分かりました。」
「サンキュ。」
セリの頭の上、重くないよう顎を乗せ、何でもない風で胸の重石を明かしてみる。セリであって、セリではない存在に─
「…俺さー、ちょっと前にプロポーズして、んで、まぁ、今は結婚式の準備ってか、挨拶回り?っての?してる最中なんだけどさー…」
「…おめでとうございます。」
「…ああ、うん、まぁ、そうだよな。そうなるよな?…アリガトウゴザイマス。」
今のセリにとっては完全に他人事、祝いの言葉までもらって苦笑する。
「あー、で、まぁ、その準備っての、してる最中なんだけどさ、…実は、まだ、本人からプロポーズの返事、もらってねぇんだよ…」
「え…?…それは、あの、…それで、いいんですか?」
「どうだろなー。本人、気づかないままに流されてっけど、一応、拒否られてはねぇから、俺の中では『アリ』ってことになってる。」
「…」
黙り込んでしまったセリに、もう一つ、情けない打ち明け話。
「…後さ、俺、セリのお師匠さんの実年齢知んなくて…」
「師の?」
「そ。んで、俺の惚れてる相手ってのが、セリのお師匠さんとすっげぇ仲いいの。距離感近くてさぁ、まあ、正直、そういうのにも嫉妬してたりしてたんだけどさー…」
「…」
「…今日、あの人の歳聞いて、メチャクチャ安心して、今まで俺が嫉妬してたのは、子どもってか、孫?見てる眼差しってやつなんだなって分かって、でー、凹んでる…」
「…凹むまでの間、何か省略されてませんか?」
「んー、いや、まぁ、正直、俺、カッコ悪くね?って思ってる…」
勝手に嫉妬して、必死に囲い込もうとしての空回り。セリの意思を無視して、丸め込めりゃいいな、って思う浅ましさまでは明かせないけれど─
「…あの、思うんですけど、私にではなく、ルキさんの好きな人にも、そうやって、直接、伝えてみればいいんじゃないですか?」
「あー、やー、でも、カッコ悪いとこ見せて逃げられでもしたら、洒落になんねぇからなー…。セリも、好きな男のカッコ悪いとことか見たくねぇだろ?」
「好きな人…、私の周りには兄と師しか居ないので、参考になるか分かりませんが…」
「うん?」
「兄も師も、基本的にあまりカッコ良くはないといいますか、その、尊敬はもちろんしてますが、カッコ悪いことなんて日常茶飯事で…」
「あー…」
「でも、あの、二人とも、大好きです。」
「…」
腕の中の小さな身体が身じろいで、こちらを振り仰ぐ。
「…それに、私なら、結婚する相手のカッコ悪いところ、いっぱい、見せて欲しいと思います。」
「…マジで?」
「はい。…あの、子どもっぽい意見かもしれませんけど、でも、好きな人のことなら全部知りたいし、その人の色んな面を見られるのは嬉しい、です、…あの、私なら…」
「…」
言ってる途中で照れが勝ったのか、正面に向き直ってしまったセリの頭を見下ろす。その頭に向かって、予防線張りつつの決意表明。
「…セリが、そう言うんなら、まぁ、じゃあ、ちょっとは、晒してっても大丈夫かもしんねぇなぁ…。やってみっか。」
「…あの、私なら、ですよ?」
「ああ、うん。オッケー、セリの意見が一番参考なっから。」
「?」
もう一度振り向いたセリの、分かってなさそうな顔に笑う。
「アドバイス、サンキューな。」
「…あの、でも、やっぱり、お相手の方との意見のすり合わせが一番大事だと思います。」
「ん。だな。」
「あと、プロポーズの返事は、一応、ちゃんと確認した方が…」
「あー、だなー…」
「…結婚式の準備を反対されてないのなら、言葉にしなくても通じ合ってるってことだとは思いますけど…」
「ん。」
必死に言葉を紡いで「相談にのって」くれるセリの言葉に頷いた。頷く自分に安心したように笑うセリ。
(…いつも、こんな風に出来りゃいいんだけどな…)
明日、朝、目覚めたセリが、今、確かに通じ合ってる気がするこの時間を覚えているかは不明だが、言葉にしたこともしなかったことも、もう一度、伝えてみよう。そう決めて、セリの頭に手を伸ばす。
撫でられるままのセリの小さな頭が、小さく傾いで、
「…あの、ところで、ルキさんがプロポーズされた相手は、ザーラさんですか?」
「っ!?ちげぇよ!?」
全然、通じ合ってなんてなかった─
だから、つまり、結局、そういうこと。口にしなきゃ、思いなんて簡単には伝わらない。セリのことに関しては最強のアドバイザーから言質もとった。明日になったら、先ずは、セリにプロポーズの返事をもらおう。
腕の中、大人しく抱かれてくれるセリのつむじに、誓いのキスを落とす─
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