上 下
173 / 174
【完結】私達の冒険はまだまだ…▶️6話

#5 これから先、共にあるために(ルキ視点)

しおりを挟む
ヴァイズ・ミレン邸での二度目の夕食を終えた後、夜風に当たりに外へ出る。冷たさの混じり始めた空気、周囲を取り囲む闇に、沈みっぱなしの心がいくらか和らぐ。

大木の根に腰を下ろし、森の静寂に身を浸していると、先ほど出てきた家の扉が開くのが見えた。漏れる灯り、小さな影が近づいて来る。

目の前で立ち止まったセリ、互いの視線がちょうど合う高さ、両手に握られたカップの一つがこちらへと向けられた。

「…ルキさん、コーヒー、飲みますか?」

「あー、サンキュ。」

「いえ、私も飲みたかったので。」

セリの手に握られているもう一つのカップからは甘いココアの香りが立ち上っている。コーヒーカップをこちらへ渡し、隣に座ろうとするセリに、空いた手を伸ばした。

「…セリ、こっち座れよ。」

「え?…あの、でも、」

「なんで?お師匠さんやザーラの膝には座ってたろ?」

「…でも。」

「…しゃーねーなー。」

「わ。」

体格差を十分に活かして、セリの捕獲を試みた。カップの中味を溢さないようにしているセリの捕獲は容易で、膝の上、完全に抱き込んでしまえるサイズの温もりに満足する。

「…」

「…」

逃走は不可能と悟ったのか、大人しく自分のカップに口をつけるセリ。それを上からのぞきみながら、聞いてみる。

「…あー、あのさ、セリにちょっと聞いて欲しい話あんだけど、相談、のってくれっか?」

「…私で相談相手になりますか?」

「ああ、うん、なる、てか、セリに聞いて欲しいだけだからさ。『なんか言ってんなー』くらいで聞き流してくれていいから。」

「…分かりました。」

「サンキュ。」

セリの頭の上、重くないよう顎を乗せ、何でもない風で胸の重石を明かしてみる。セリであって、セリではない存在に─

「…俺さー、ちょっと前にプロポーズして、んで、まぁ、今は結婚式の準備ってか、挨拶回り?っての?してる最中なんだけどさー…」

「…おめでとうございます。」

「…ああ、うん、まぁ、そうだよな。そうなるよな?…アリガトウゴザイマス。」

今のセリにとっては完全に他人事、祝いの言葉までもらって苦笑する。

「あー、で、まぁ、その準備っての、してる最中なんだけどさ、…実は、まだ、本人からプロポーズの返事、もらってねぇんだよ…」

「え…?…それは、あの、…それで、いいんですか?」

「どうだろなー。本人、気づかないままに流されてっけど、一応、拒否られてはねぇから、俺の中では『アリ』ってことになってる。」

「…」

黙り込んでしまったセリに、もう一つ、情けない打ち明け話。

「…後さ、俺、セリのお師匠さんの実年齢知んなくて…」

「師の?」

「そ。んで、俺の惚れてる相手ってのが、セリのお師匠さんとすっげぇ仲いいの。距離感近くてさぁ、まあ、正直、そういうのにも嫉妬してたりしてたんだけどさー…」

「…」

「…今日、あの人の歳いて、メチャクチャ安心して、今まで俺が嫉妬してたのは、子どもってか、孫?見てる眼差しってやつなんだなって分かって、でー、凹んでる…」

「…凹むまでの間、何か省略されてませんか?」

「んー、いや、まぁ、正直、俺、カッコ悪くね?って思ってる…」

勝手に嫉妬して、必死に囲い込もうとしての空回り。セリの意思を無視して、丸め込めりゃいいな、って思う浅ましさまでは明かせないけれど─

「…あの、思うんですけど、私にではなく、ルキさんの好きな人にも、そうやって、直接、伝えてみればいいんじゃないですか?」

「あー、やー、でも、カッコ悪いとこ見せて逃げられでもしたら、洒落になんねぇからなー…。セリも、好きな男のカッコ悪いとことか見たくねぇだろ?」

「好きな人…、私の周りには兄と師しか居ないので、参考になるか分かりませんが…」

「うん?」

「兄も師も、基本的にあまりカッコ良くはないといいますか、その、尊敬はもちろんしてますが、カッコ悪いことなんて日常茶飯事で…」

「あー…」

「でも、あの、二人とも、大好きです。」

「…」

腕の中の小さな身体が身じろいで、こちらを振り仰ぐ。

「…それに、私なら、結婚する相手のカッコ悪いところ、いっぱい、見せて欲しいと思います。」

「…マジで?」

「はい。…あの、子どもっぽい意見かもしれませんけど、でも、好きな人のことなら全部知りたいし、その人の色んな面を見られるのは嬉しい、です、…あの、私なら…」

「…」

言ってる途中で照れが勝ったのか、正面に向き直ってしまったセリの頭を見下ろす。その頭に向かって、予防線張りつつの決意表明。

「…セリが、そう言うんなら、まぁ、じゃあ、ちょっとは、晒してっても大丈夫かもしんねぇなぁ…。やってみっか。」

「…あの、私なら、ですよ?」

「ああ、うん。オッケー、セリの意見が一番参考なっから。」

「?」

もう一度振り向いたセリの、分かってなさそうな顔に笑う。

「アドバイス、サンキューな。」

「…あの、でも、やっぱり、お相手の方との意見のすり合わせが一番大事だと思います。」

「ん。だな。」

「あと、プロポーズの返事は、一応、ちゃんと確認した方が…」

「あー、だなー…」

「…結婚式の準備を反対されてないのなら、言葉にしなくても通じ合ってるってことだとは思いますけど…」

「ん。」

必死に言葉を紡いで「相談にのって」くれるセリの言葉に頷いた。頷く自分に安心したように笑うセリ。

(…いつも、こんな風に出来りゃいいんだけどな…)

明日、朝、目覚めたセリが、今、確かに通じ合ってる気がするこの時間を覚えているかは不明だが、言葉にしたこともしなかったことも、もう一度、伝えてみよう。そう決めて、セリの頭に手を伸ばす。

撫でられるままのセリの小さな頭が、小さく傾いで、

「…あの、ところで、ルキさんがプロポーズされた相手は、ザーラさんですか?」

「っ!?ちげぇよ!?」

全然、通じ合ってなんてなかった─

だから、つまり、結局、そういうこと。口にしなきゃ、思いなんて簡単には伝わらない。セリのことに関しては最強のアドバイザーから言質もとった。明日になったら、先ずは、セリにプロポーズの返事をもらおう。

腕の中、大人しく抱かれてくれるセリのつむじに、誓いのキスを落とす─





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました! 死んだら私も異世界転生できるかな。 転生してもやっぱり腐女子でいたい。 それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい…… 天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生! 最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。 父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!? ※BL要素ありますが、全年齢対象です。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する

もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。 だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

処理中です...