上 下
162 / 174
【潜入】衝撃の舞台裏、みんなの憧れの学園でまさかの… ▶15話

#6 必要最低限の接触ってやつを可及的速やかに(ルキ視点)

しおりを挟む
遠耳のスキルには効果範囲の他に、障害の有無も関係してくる。複雑な魔法術式の多い学園内で、フローラの居場所─主に、教室かサロン─の声を拾うには、中庭近くの回廊が最も収音率が良かった。

(…っても、今日もまたくだんねぇ話しかしねぇなぁ、こいつら…)

人目を避けた廊下の壁、背中を預けて拾う会話はここ最近でうんざりするほど聞き飽きたもの。男達が複数人でフローラの美しさとやらを称え合い、貢物を献上しまくり、恋のさや当てを行う。

(よくもまぁ、同じ内容で飽きもせず、毎日毎日…)

結局、毎度、フローラが誰も選ばずに終わるから、勝負は常に持ち越し、会話もループし続けている。スキルに毒されているとは言え、「それでいいのか?」と男連中が心配になるが、よく考えたらアイツらは毎日好きな女と会っているわけで─

(…ざけんなよ、マジで…)

別の意味でイラつきが増した。エルから、セリがリーンハルトに絡まれていたという話を聞いてから、既に一週間。捜査は進展しないし、セリにも会えていない。

(クッソ、こっちがどんだけ…)

「…ルキ先生?」

「…」

(…ミスったな。)

気配には気づいていたが、話しかけてくるとは思わなかった。常日頃、周囲にまとわりつく生徒達とは異なる雰囲気の、どちらかというとこっちのことなんて見下してそうな高位貴族、そんな雰囲気のお嬢様に声を掛けられ、僅かに迷う。

(…ここ、まだ、離れらんねぇしなぁ…)

仕方なく、お嬢様と向かいあった。

「…なんだ?何か用か?」

「初めまして、ルキ先生。私、淑女科二年のレナータ・ヤンセンと言います。」

「…」

(…淑女科の二年。)

セリが所属するクラスの名が出てきたことに、身構える。

「私、ルキ先生と、一度お話してみたいと思っていたんです。」

「俺は思わねぇから、用ってのがそれなら、どっか行ってくれ。」

「…先生はこちらで何を?」

「…」

「…本当に噂どおり。先生って、素っ気ないというか、女性に対して少し冷たくありません?」

言って、こちらをのぞき込む女の顔が笑っている。

「…それって、やっぱり、婚約者さんに操を立てているから?それとも、の都合上、生徒と親しくするわけにはいかないんですか?」

無視し続ける会話の中、女の言葉に不快さが増した。

「…それなら、先生、私はだと思いますよ?…だって、私、先生が何のために学園の先生なんてやっているのか、その理由、知っていますから。」

「…何が言いてぇんだよ。」

膨らむ予感は、神経に触る。だが、この女の言い方だと─

「実は私、先生のお仕事の中身、知ってるんです。」

「…なに?」

「ヤンセンという名に聞き覚えありません?外務大臣のオズワルド・ヤンセンは私の父なんです。」

「外務大臣、てことは…」

「ええ。先生をこの国にお呼びした、冒険者風に言うなら、『依頼主』ということになるのかしら?それが、うちの父です。私、父からこっそり、先生の正体を教えてもらってるんです。」

「…」

(…おいおい、最悪じゃねぇか。)

一体、この国の情報規制はどうなってるんだと、責任者を問い詰めたい。

(国家機密扱いだろうが。…それを父親が娘にって…)

「…疑ってます?本当に知ってるんですよ?先生がS級冒険者で、学園内で起こってる事件の捜査のために潜入してるってこと。…王太子殿下に関わる事件、なんですよね?」

共犯者めいた笑みを浮かべる女に、怒りを通り越して、逆に冷静になれた。

「…知ってんのは、それだけか?」

「え?」

「捜査対象は?指揮系統は?支援員の数は?」

「え?え?…あの、いえ、そこまでは、ただ、」

「何だよ。結局、何も知らねぇのと同じじゃねぇか。」

「っ!?それは、でも、お父様に聞けばすぐに分かるわ!」

「分かった時点で、俺は今回の依頼、降りるからな?…そういう契約なんだからよ。」

「っ!?私!私は、そういうつもりじゃ!」

「そういうつもりじゃねぇなら、何?」

国家機密を利用しての強請り行為。そう受け取られてもおかしくない発言をしていることに、どうやら、このお嬢様は気づいていないらしい。

怒りに赤く染めてた顔で、何とか平静を取りつくろうとしている。

「…私、私は、ただ、先生と仲良くなりたいなと思っただけで…」

「はぁ?」

「…ねぇ、先生?私と仲良くしません?そうすれば、生徒の情報や、王太子殿下の情報も、先生に教えてあげることができるし、」

「要らねぇ。」

「っ!?なんで、そんなっ!」

「仕事の仕方もしらねぇガキとは組まねぇってことだよ。お前じゃ無理。」

「!?そんなこと言って、後で後悔しても知りませんよ!」

「しねぇよ。」

言って、会話を終了する。どうやら、も、今日は解散の時間らしい。遠ざかる音にスキルを切って、壁から背を離した。

「じゃあな。お前、あんま余計なこと言って回んなよ?自分の首絞めることになるからな?」

「っ!馬鹿にしてっ!」

馬鹿にしているのではなく、単なる忠告。それを素直に聞き入れない時点で、一緒に仕事なんてのはまず絶対にあり得ない。

「…ああ、そういや、お前、名前なんだっけ?」

確認の意味で振り向けば、一瞬、驚いた女の顔に笑みが浮かんだ。

「…なんだ、結局、名前、覚えてくれる気あるんじゃないですか。…レナータ・ヤンセンです。ちゃんと覚えててくださいね、ルキ先生?」

「レナータ・ヤンセン。…お前、覚えたからな。」

念押しして、今度こそ、その場を後にする。ギルド経由で警告を出してもらうにしても、時間がかかる。この程度の契約違反では、依頼破棄にはならないだろうから、こちらが自衛するしかないのだろう。面倒だなと、そこまで考えて、ふと思い浮かんだ。

(…これ、セリにも忠告しといたがいい、よな?)

口実ではない。あの女がセリの存在まで認識していないとしても、同じクラスに居る以上、注意しておくに越したことはない。そう、自分自身に納得させる。

エル経由で伝えればいいという事実には最後まで気づかなかった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する

もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。 だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く

とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。 しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。 その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。 だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。 そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。 さて、アリスの運命はどうなるのか。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

頑張った結果、周りとの勘違いが加速するのはどうしてでしょうか?

高福あさひ
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生した元OL。しかし転生した先の自身のキャラクターはまさかの悪役令嬢のボスである王女様。このまま流れに身を任せていたら殺されるか、他国の変態に売られるか、歓楽街行きかのバッドエンドまっしぐら!!それを回避するために行動を起こすのだけれど…、主人公ははたしてどうなってしまうのか!?※不定期更新です、小説家になろう様でも投稿しております。外部サイトとして登録しておりましたが、投稿しなおすことにしました。内容は以前と変わりはありません。しばらくはR18要素はありません。現在改稿作業をしております。

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~

リコピン
恋愛
前世、会社勤務のかたわら婚活に情熱を燃やしていたクロエ。生まれ変わった異世界では幼馴染の婚約者がいたものの、婚約を破棄されてしまい、またもや婚活をすることに。一風変わった集団お見合いで出会ったのは、その場に似合わぬ一匹狼風の男性。(…って本当に狼獣人!?)うっかり惚れた相手が生きる世界の違う男性だったため、番(つがい)やら発情期やらに怯え、翻弄されながらも、クロエは幸せな結婚生活を目指す。 シリアス―★☆☆☆☆ コメディ―★★★★☆ ラブ♡♡―★★★★☆ ざまぁ∀―★★☆☆☆ ※匂わす程度ですが、性的表現があるのでR15にしています。TLやラブエッチ的な表現はありません。 ※このお話に出てくる集団お見合いの風習はフィクションです。 ※四章+後日談+番外編になります。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

処理中です...