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【潜入】衝撃の舞台裏、みんなの憧れの学園でまさかの… ▶15話

#4 兄とは異種の何かとの遭遇

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(…結局、眼鏡だし…)

女生徒を引き連れて去っていくルキの後ろ姿を見送った後、エルとは中庭の前で別れた。教授棟へ向かって回廊を歩きながら、慣れない眼鏡を押し上げる。兄が無駄な拘りを発揮して作成に協力してくれた認識阻害眼鏡はいい仕事をしているらしく、潜入りゅうがくしてきて一週間経つけれど、誰もこちらに積極的に関わってこようとはしない。

(留学生、なのに…)

ルキとは別口での潜入となった私とエルは、隣国からの「留学生」ということになっている。偽名を使って、エルは貴族籍のカール・ベックマンとして、私は平民枠のカレンとして。同じ国から来た者同士、たまに会話はするけれど、基本は別行動。そういう設定で動いているから、エルとはまだ情報交換かいわがあるけれど、ルキとは一週間、全く話せていない。

(寂しい…)

授業での繋がりも、座学しか取っていない私に、演習担当のルキとの関わりがあるはずもなく─

「…おい、貴様。」

「…」

不遜に呼び止められた声に顔を上げる。白銀の髪、青い瞳の端正な顔立ち。少しだけ師に似た風貌の男が、廊下に立ちふさがっていた。

「…あの?」

「貴様、この先に何の用がある?」

「…テレンス教授に課題を提出しに行くところ、です。」

「課題、だと…?」

「はい…」

ぶしつけ男に、上から下までジロジロ見られているので、こっちもこっそり観察し返す。

(?…もしかして?)

顔を確認するのは今日が初めて。だけど、特徴的な髪や瞳の色から察するに─

「戻れ、時間を改めろ。」

「え…?」

「聞こえなかったのか?時間を改めろと言っている。この時間帯、この通路は使用禁止だ。」

「え。…でも、そんな話は聞いて、」

「知らん。お前が聞いていようがいまいが関係ない。…引き返せ。」

「…」

「…もしや、お前、分かった上でここに来た訳ではないだろうな?」

「え…?」

ぶしつけ男の不機嫌顔に、怒りが加わる。

「茶会を邪魔するつもりかと聞いている。」

「は?え…?」

「この時間、我が妹がサロンで茶会を開いていることは周知の事実。それを、そ知らぬふりで近づき、場を乱すつもりだろう?…小賢しい真似を。」

「…」

(うわー…)

二重の意味でうわー。ぶしつけ男の思い込みの激しさにもうわーだけれど、お茶会を邪魔するくらいでこんなにキレられるなんて─

(うわー…)

「貴様、家名と学年は?家にも、厳重な抗議を、」

「あの、私、留学生、です。」

「…なに?」

「学園には、先日留学してきたばかりなので、サロンのことは全く知りませんでした。」

「…フローラを害するつもりは無かったというのか?」

「…はい。」

ぶしつけ男の出した名前に、身体が一瞬反応しそうになってしまった。それを抑え込み、殊勝な態度で頭を下げる。

「…ふん。まぁ、いい。ならば、今日のところは見逃してやる。だが、この時間帯はフローラ・ブライテンの茶会の時間だ。東棟へは一切近づくな。」

「…」

(…馬鹿、なのかな?)

フローラを「妹」だと呼ぶ男、リーンハルト・ブライテンだとほぼ確定したぶしつけ男は、これでも、公爵家の跡取り息子のはず。それが、こんなでいいんだろうか?

呆気にとられて立ち尽くしていたら、

「…お兄様?」

回廊の外、中庭に繋がる木立の間から現れた人影に、少し緊張する。

(フローラ・ブライテン…)

予定外でのターゲットとの接触、なるべく認識されないよう顔を伏せた。

「…フローラ。どうした?茶会の最中だろう?」

「…お兄様がどなたかとお話されているのが見えたから、それで…」

「ああ、そうだったのか。すまん。迎えに来てくれたんだな。ありがとう。」

「…いえ。少し、寂しかっただけ。」

「…フローラ。…待たせて悪かったね?行こうか?」

「ええ。…でも、あの、こちらの方は?」

「ああ、気にするな。フローラが気にかけてやる価値もない。お前の茶会を邪魔だてしようとする、ただのつまらん羽虫だ。」

「まぁ…」

(羽虫…)

人生で初めて言われた。

「…おい、貴様。忠告はした。覚えておけ、二度目はないからな。」

「…」

言い捨てて、去っていく足音は二人分。それが聞こえなくなってから、伏せていた顔を上げる。

(ビックリ…)

うちの兄も─認めるのは多少アレだけれど─そこそこの兄バカ、だと思う。けど、あれはそういうんじゃなくて、なんだかもっと残念な何かだった。




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