【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン

文字の大きさ
上 下
158 / 174
【潜入】衝撃の舞台裏、みんなの憧れの学園でまさかの… ▶15話

#4 兄とは異種の何かとの遭遇

しおりを挟む
(…結局、眼鏡だし…)

女生徒を引き連れて去っていくルキの後ろ姿を見送った後、エルとは中庭の前で別れた。教授棟へ向かって回廊を歩きながら、慣れない眼鏡を押し上げる。兄が無駄な拘りを発揮して作成に協力してくれた認識阻害眼鏡はいい仕事をしているらしく、潜入りゅうがくしてきて一週間経つけれど、誰もこちらに積極的に関わってこようとはしない。

(留学生、なのに…)

ルキとは別口での潜入となった私とエルは、隣国からの「留学生」ということになっている。偽名を使って、エルは貴族籍のカール・ベックマンとして、私は平民枠のカレンとして。同じ国から来た者同士、たまに会話はするけれど、基本は別行動。そういう設定で動いているから、エルとはまだ情報交換かいわがあるけれど、ルキとは一週間、全く話せていない。

(寂しい…)

授業での繋がりも、座学しか取っていない私に、演習担当のルキとの関わりがあるはずもなく─

「…おい、貴様。」

「…」

不遜に呼び止められた声に顔を上げる。白銀の髪、青い瞳の端正な顔立ち。少しだけ師に似た風貌の男が、廊下に立ちふさがっていた。

「…あの?」

「貴様、この先に何の用がある?」

「…テレンス教授に課題を提出しに行くところ、です。」

「課題、だと…?」

「はい…」

ぶしつけ男に、上から下までジロジロ見られているので、こっちもこっそり観察し返す。

(?…もしかして?)

顔を確認するのは今日が初めて。だけど、特徴的な髪や瞳の色から察するに─

「戻れ、時間を改めろ。」

「え…?」

「聞こえなかったのか?時間を改めろと言っている。この時間帯、この通路は使用禁止だ。」

「え。…でも、そんな話は聞いて、」

「知らん。お前が聞いていようがいまいが関係ない。…引き返せ。」

「…」

「…もしや、お前、分かった上でここに来た訳ではないだろうな?」

「え…?」

ぶしつけ男の不機嫌顔に、怒りが加わる。

「茶会を邪魔するつもりかと聞いている。」

「は?え…?」

「この時間、我が妹がサロンで茶会を開いていることは周知の事実。それを、そ知らぬふりで近づき、場を乱すつもりだろう?…小賢しい真似を。」

「…」

(うわー…)

二重の意味でうわー。ぶしつけ男の思い込みの激しさにもうわーだけれど、お茶会を邪魔するくらいでこんなにキレられるなんて─

(うわー…)

「貴様、家名と学年は?家にも、厳重な抗議を、」

「あの、私、留学生、です。」

「…なに?」

「学園には、先日留学してきたばかりなので、サロンのことは全く知りませんでした。」

「…フローラを害するつもりは無かったというのか?」

「…はい。」

ぶしつけ男の出した名前に、身体が一瞬反応しそうになってしまった。それを抑え込み、殊勝な態度で頭を下げる。

「…ふん。まぁ、いい。ならば、今日のところは見逃してやる。だが、この時間帯はフローラ・ブライテンの茶会の時間だ。東棟へは一切近づくな。」

「…」

(…馬鹿、なのかな?)

フローラを「妹」だと呼ぶ男、リーンハルト・ブライテンだとほぼ確定したぶしつけ男は、これでも、公爵家の跡取り息子のはず。それが、こんなでいいんだろうか?

呆気にとられて立ち尽くしていたら、

「…お兄様?」

回廊の外、中庭に繋がる木立の間から現れた人影に、少し緊張する。

(フローラ・ブライテン…)

予定外でのターゲットとの接触、なるべく認識されないよう顔を伏せた。

「…フローラ。どうした?茶会の最中だろう?」

「…お兄様がどなたかとお話されているのが見えたから、それで…」

「ああ、そうだったのか。すまん。迎えに来てくれたんだな。ありがとう。」

「…いえ。少し、寂しかっただけ。」

「…フローラ。…待たせて悪かったね?行こうか?」

「ええ。…でも、あの、こちらの方は?」

「ああ、気にするな。フローラが気にかけてやる価値もない。お前の茶会を邪魔だてしようとする、ただのつまらん羽虫だ。」

「まぁ…」

(羽虫…)

人生で初めて言われた。

「…おい、貴様。忠告はした。覚えておけ、二度目はないからな。」

「…」

言い捨てて、去っていく足音は二人分。それが聞こえなくなってから、伏せていた顔を上げる。

(ビックリ…)

うちの兄も─認めるのは多少アレだけれど─そこそこの兄バカ、だと思う。けど、あれはそういうんじゃなくて、なんだかもっと残念な何かだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オカン公爵令嬢はオヤジを探す

清水柚木
ファンタジー
 フォルトゥーナ王国の唯一の後継者、アダルベルト・フォルトゥーナ・ミケーレは落馬して、前世の記憶を取り戻した。  ハイスペックな王太子として転生し、喜んだのも束の間、転生した世界が乙女ゲームの「愛する貴方と見る黄昏」だと気付く。  そして自身が攻略対象である王子だったと言うことも。    ヒロインとの恋愛なんて冗談じゃない!、とゲームシナリオから抜け出そうとしたところ、前世の母であるオカンと再会。  オカンに振り回されながら、シナリオから抜け出そうと頑張るアダルベルト王子。  オカンにこき使われながら、オヤジ探しを頑張るアダルベルト王子。  あげく魔王までもが復活すると言う。  そんな彼に幸せは訪れるのか?   これは最初から最後まで、オカンに振り回される可哀想なイケメン王子の物語。 ※ 「第15回ファンタジー小説大賞」用に過去に書いたものを修正しながらあげていきます。その為、今月中には完結します。 ※ 追記 今月中に完結しようと思いましたが、修正が追いつかないので、来月初めに完結になると思います。申し訳ありませんが、もう少しお付き合い頂けるとありがたいです。 ※追記 続編を11月から始める予定です。まずは手始めに番外編を書いてみました。よろしくお願いします。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

処理中です...