155 / 174
【潜入】衝撃の舞台裏、みんなの憧れの学園でまさかの… ▶15話
#2 新たな依頼、潜入先は魔術学園
しおりを挟む
二週間前、冒険者ギルド、ロカール支部─
「将来の夢は!ガンナー、賢者の二刀流!呪術師のシオンです!」
「…将来の夢は、大きな家で子どもと犬に囲まれて…?魔導師のセリです。」
「将来は、ロカール丸ごと癒してみせる!エリアヒール特訓中のエルちゃんです!」
「将来の夢は、犬に懐かれること!シーフのルキです!」
「「「「四人合わせて、『深淵をのぞく四翼の風』です!」」」」
「はい、了解、ありがとう。若干一名、とんでもなく小さな夢の子がいた気がするけど、僕は流すよ。シオン君とエル君は頑張って。」
イグナーツさんの言葉に、反省する。
「…ルキ、すみません。何も浮かばなくて、勢いで言ってしまいました。」
「ん?いいんじゃねぇの?セリが飼いたいなら飼おうぜ、犬。」
「はいはい。家族計画は後でしてね。…では、えー、今回の依頼ですが、指名はS級のルキ君で来てますが、サポートにもう二名を要求されています。」
「サポート?…んな、危ない依頼なんすか?」
険しい顔をするルキに、イグナーツさんが首を振る。
「危ない、というか、面倒な依頼だね。…今回、ルキ君には、隣国ブルーメの魔術学園に潜入してもらうことになる。」
「は?」
「…どうやらね、学園の生徒に対して、『セイレーンの歌声』が使われた形跡があるんだ。」
「っ!?」
「へぇ、そんな時代遅れスキル、まだ使える人間が残ってたんだ。」
「…時代遅れと言うけどね、魅了魔法のように使用痕跡が残らない分、証拠の確保が難しくて、なかなか容疑者の逮捕には至っていないらしい。」
セイレーンの歌声は、かつて、この国で開発された魅了系のスキル。文字通り、「歌声」を使うことで対象者を軽い魅了状態にすることが出来るが、魅了ほどの強い効果はない。ただ、繰り返し使用することで依存性を生み、依存状態のモンスターは凶暴性を増すことが分かってからは、使用が禁止されるようになった。当然のように「人間」相手の使用は犯罪行為─
「容疑者ってことは、スキル持ちが誰かってのは分かってんすよね?」
「そうだね。容疑者の名前はフローラ・ブライテン、学園に通う二年生で十七歳。」
「…ちょっと待って、ブライテン家って…?」
「うん。…それも、容疑者確保に至っていない理由の一つだろうね。」
エルの疑問に頷いたイグナーツさんが、飲み込めていないこちらに視線を向ける。
「ブライテン家ってのは、隣国の公爵家なんだ。フローラ・ブライテンはそこのご令嬢。…貴族特権ってのは、どこの国でも強いからねぇ…」
「…ブライテン家でしょ?あそこって、娘なんていた?確か、跡取り息子が一人、じゃなかった?」
「いたみたいだね。…というか、最近、戻って来た、と言えばいいのか。」
「…戻って来る?」
イグナーツさんが手元の資料を、こちらに向けた。
「フローラ嬢は、幼少時に一度誘拐されている。…その後、どういう経緯をたどったのかは不明だが、市井で暮らしていたところを、昨年、ブライテン家が発見、保護にいたった、と…」
「何それ?すっごく怪しい話じゃない。その子、本物なの?」
「まぁ、その辺は公爵家でも調査くらいはしているとは思うけど。…真偽はどうあれ、公爵家が認めている以上、今、学園に居るフローラ・ブライテンが公爵令嬢、ってことになる。」
「…そうなると、まぁ、確かに。面倒な依頼、かもね…?」
難しい顔をするエルとイグナーツさんに向かって、兄が手を上げた。
「はい!…あー、えっと、そのお嬢様が容疑者で、まぁ、現行犯逮捕くらいしないと捕まえるの難しいんだろうなってのは分かったんですけど、『セイレーンの歌声』が使われた形跡っていうのは何なんですか?王子様、虜にしちゃったりとか?」
「…」
イグナーツさんが、黙って資料を差し出してくる。そこに書かれた名前─
「王太子ディートリヒ・エルスハイマー、宰相子息マルクス・ルーマン、騎士団長子息バルタザール・オルフ、大主教子息ハインツ・グレーデン、ヘルトル商会子息フランク・ヘルトル…」
「…」
「…」
「…」
「…っ!?えっ!?もしかして、これ全部!?全部やっちゃったの!?」
兄の驚愕の声。「やっちゃった」なんて軽く言っているけれど、イグナーツさんが重々しく頷いているから、そんな軽い感じではないと思う。絶対。
「…学園内でのことで発見が遅れた、ということらしいけれどね。…被害者が被害者だ。事態を重く見た国、…直接の依頼はあちらの外務大臣になるけど、事件解決にこちらのS級冒険者の派遣を要請してきてる。」
「…俺が潜入ってのはどうやって…?」
「魔術学園に講師として招かれたS級冒険者、という形で入ってもらう。隣国とは言え、S級冒険者の肩書を完全に隠すのは難しいだろうからね。…ルキ君の顔が割れてる可能性もあるから。」
「あー、まぁ、しゃあねぇのか…」
確かに、最近のルキの活躍からすればそうかもしれない。若くしてS級冒険者。魔王討伐を含む八面六臂の活躍。
おまけに、
(…イケメン。ヤンキーだけど、イケメン。)
これは、身内びいきではない、はず。
ここまでの話を聞いて、空気が、「じゃあ、まあ、そんな感じで」という流れになったので、兄とイグナーツさんが契約書を交わし始めた。
「ああ。そう、それで、サポートメンバーなんだけど、そっちはセリ君とエル君に任せようかと思ってる…」
「え?…俺とエルじゃ駄目ですかね?」
「うん。二人には、学園の生徒として潜入してもらいたいんだよね。フローラ嬢に不自然でなく直接コンタクトを取れる人間が必要だから。」
「なるほど…。じゃあ、まあ、セリじゃないと無理か。」
「そうしてくれると助かります。」
「あー、はい。オーケーです。じゃあ、まぁ、俺は留守番かなぁ。」
「よろしくね。…大丈夫、シオン君には通常依頼、たくさん用意するから。」
「…あざーっす。」
おざなりな返事で兄が契約書にサインをし終わったところで、イグナーツさんが潜入先の資料を渡してきた。
そのまま、何でもないような顔で─
「生徒は男女一人ずつでお願いするね。」
「…え?」
イグナーツさんの視線が、私とエルを交互に見る。
「…どっちが女の子を演るかは、君達に任せるから。」
「将来の夢は!ガンナー、賢者の二刀流!呪術師のシオンです!」
「…将来の夢は、大きな家で子どもと犬に囲まれて…?魔導師のセリです。」
「将来は、ロカール丸ごと癒してみせる!エリアヒール特訓中のエルちゃんです!」
「将来の夢は、犬に懐かれること!シーフのルキです!」
「「「「四人合わせて、『深淵をのぞく四翼の風』です!」」」」
「はい、了解、ありがとう。若干一名、とんでもなく小さな夢の子がいた気がするけど、僕は流すよ。シオン君とエル君は頑張って。」
イグナーツさんの言葉に、反省する。
「…ルキ、すみません。何も浮かばなくて、勢いで言ってしまいました。」
「ん?いいんじゃねぇの?セリが飼いたいなら飼おうぜ、犬。」
「はいはい。家族計画は後でしてね。…では、えー、今回の依頼ですが、指名はS級のルキ君で来てますが、サポートにもう二名を要求されています。」
「サポート?…んな、危ない依頼なんすか?」
険しい顔をするルキに、イグナーツさんが首を振る。
「危ない、というか、面倒な依頼だね。…今回、ルキ君には、隣国ブルーメの魔術学園に潜入してもらうことになる。」
「は?」
「…どうやらね、学園の生徒に対して、『セイレーンの歌声』が使われた形跡があるんだ。」
「っ!?」
「へぇ、そんな時代遅れスキル、まだ使える人間が残ってたんだ。」
「…時代遅れと言うけどね、魅了魔法のように使用痕跡が残らない分、証拠の確保が難しくて、なかなか容疑者の逮捕には至っていないらしい。」
セイレーンの歌声は、かつて、この国で開発された魅了系のスキル。文字通り、「歌声」を使うことで対象者を軽い魅了状態にすることが出来るが、魅了ほどの強い効果はない。ただ、繰り返し使用することで依存性を生み、依存状態のモンスターは凶暴性を増すことが分かってからは、使用が禁止されるようになった。当然のように「人間」相手の使用は犯罪行為─
「容疑者ってことは、スキル持ちが誰かってのは分かってんすよね?」
「そうだね。容疑者の名前はフローラ・ブライテン、学園に通う二年生で十七歳。」
「…ちょっと待って、ブライテン家って…?」
「うん。…それも、容疑者確保に至っていない理由の一つだろうね。」
エルの疑問に頷いたイグナーツさんが、飲み込めていないこちらに視線を向ける。
「ブライテン家ってのは、隣国の公爵家なんだ。フローラ・ブライテンはそこのご令嬢。…貴族特権ってのは、どこの国でも強いからねぇ…」
「…ブライテン家でしょ?あそこって、娘なんていた?確か、跡取り息子が一人、じゃなかった?」
「いたみたいだね。…というか、最近、戻って来た、と言えばいいのか。」
「…戻って来る?」
イグナーツさんが手元の資料を、こちらに向けた。
「フローラ嬢は、幼少時に一度誘拐されている。…その後、どういう経緯をたどったのかは不明だが、市井で暮らしていたところを、昨年、ブライテン家が発見、保護にいたった、と…」
「何それ?すっごく怪しい話じゃない。その子、本物なの?」
「まぁ、その辺は公爵家でも調査くらいはしているとは思うけど。…真偽はどうあれ、公爵家が認めている以上、今、学園に居るフローラ・ブライテンが公爵令嬢、ってことになる。」
「…そうなると、まぁ、確かに。面倒な依頼、かもね…?」
難しい顔をするエルとイグナーツさんに向かって、兄が手を上げた。
「はい!…あー、えっと、そのお嬢様が容疑者で、まぁ、現行犯逮捕くらいしないと捕まえるの難しいんだろうなってのは分かったんですけど、『セイレーンの歌声』が使われた形跡っていうのは何なんですか?王子様、虜にしちゃったりとか?」
「…」
イグナーツさんが、黙って資料を差し出してくる。そこに書かれた名前─
「王太子ディートリヒ・エルスハイマー、宰相子息マルクス・ルーマン、騎士団長子息バルタザール・オルフ、大主教子息ハインツ・グレーデン、ヘルトル商会子息フランク・ヘルトル…」
「…」
「…」
「…」
「…っ!?えっ!?もしかして、これ全部!?全部やっちゃったの!?」
兄の驚愕の声。「やっちゃった」なんて軽く言っているけれど、イグナーツさんが重々しく頷いているから、そんな軽い感じではないと思う。絶対。
「…学園内でのことで発見が遅れた、ということらしいけれどね。…被害者が被害者だ。事態を重く見た国、…直接の依頼はあちらの外務大臣になるけど、事件解決にこちらのS級冒険者の派遣を要請してきてる。」
「…俺が潜入ってのはどうやって…?」
「魔術学園に講師として招かれたS級冒険者、という形で入ってもらう。隣国とは言え、S級冒険者の肩書を完全に隠すのは難しいだろうからね。…ルキ君の顔が割れてる可能性もあるから。」
「あー、まぁ、しゃあねぇのか…」
確かに、最近のルキの活躍からすればそうかもしれない。若くしてS級冒険者。魔王討伐を含む八面六臂の活躍。
おまけに、
(…イケメン。ヤンキーだけど、イケメン。)
これは、身内びいきではない、はず。
ここまでの話を聞いて、空気が、「じゃあ、まあ、そんな感じで」という流れになったので、兄とイグナーツさんが契約書を交わし始めた。
「ああ。そう、それで、サポートメンバーなんだけど、そっちはセリ君とエル君に任せようかと思ってる…」
「え?…俺とエルじゃ駄目ですかね?」
「うん。二人には、学園の生徒として潜入してもらいたいんだよね。フローラ嬢に不自然でなく直接コンタクトを取れる人間が必要だから。」
「なるほど…。じゃあ、まあ、セリじゃないと無理か。」
「そうしてくれると助かります。」
「あー、はい。オーケーです。じゃあ、まぁ、俺は留守番かなぁ。」
「よろしくね。…大丈夫、シオン君には通常依頼、たくさん用意するから。」
「…あざーっす。」
おざなりな返事で兄が契約書にサインをし終わったところで、イグナーツさんが潜入先の資料を渡してきた。
そのまま、何でもないような顔で─
「生徒は男女一人ずつでお願いするね。」
「…え?」
イグナーツさんの視線が、私とエルを交互に見る。
「…どっちが女の子を演るかは、君達に任せるから。」
10
お気に入りに追加
1,489
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。
水都(みなと)
ファンタジー
★完結しました!
死んだら私も異世界転生できるかな。
転生してもやっぱり腐女子でいたい。
それからできれば今度は、家族に囲まれて暮らしてみたい……
天涯孤独で腐女子の桜野結理(20)は、元勇者の父親に溺愛されるアリシア(6)に異世界転生!
最期の願いが叶ったのか、転生してもやっぱり腐女子。
父の同僚サディアス×父アルバートで勝手に妄想していたら、実は本当に2人は両想いで…!?
※BL要素ありますが、全年齢対象です。
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する
もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。
だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く
拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。
とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。
…‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。
「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」
これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め)
小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。
ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
望月かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
こちらの世界でも図太く生きていきます
柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!?
若返って異世界デビュー。
がんばって生きていこうと思います。
のんびり更新になる予定。
気長にお付き合いいただけると幸いです。
★加筆修正中★
なろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる