【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン

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【緊張】好きな人の帰省についていったら…/実家ご挨拶/地元の友人/豊漁祭/ ▶17話

#9 繋ぎとめるための手段があんなら(ルキ視点)

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(…あれは、やっぱ怒ってた、よな?)

肩を抱いて、セリと密着して歩く。角度的にその表情は見えないが、既に怒ってはいない様子のセリ。周囲の屋台をもの珍しそうに眺めている。

(…セリ怒らせたのって、何気に初めてじゃねぇ?)

先ほどの、淡々と、だが確実にこちらを責めていたセリの姿。正直、そんな姿も可愛いと思ってしまったけれど、多分、言うとマズいやつなので口にはしていない。

「…セリ、なんか見たいもんとか、食いたいもんある?」

「いえ、あの、よく分からないので、…ルキのお勧めはありますか?」

「んー、じゃあ、取り敢えず、甘いもんでも食う?」

「はい。」

頷くセリの姿に、先ほどのクソ野郎のことは即行わすれて、セリと二人の祭りを楽しむことに決めた。当然、肩を抱くことはやめなかったし、棒付き飴を舐める女はエロイという都市伝説を目の当たりにして、ちょっとキたりはしたけれど─

「…ルキ、砂浜の方、見に行ってもいいですか?」

「ああ、シオン?」

「はい。…張り切っていたので、見に行きたいなと。」

「ん、オケ。行ってみるか。」

セリの提案にのって訪れた砂浜、いつもなら、間遠に置かれた篝火でそこそこ明るいといった程度のその場所が、初めて目にする明るさに包まれていた。

「…なんか、すげぇな。」

「ライトアップ、…イルミネーション?」

砂で出来た建造物や動物を模したらしい像が乱立し、その一つ一つが足元から照らされている。

「あ!セリ!ルキ!」

「…兄さん。」

「どう?どう?凄い?凄いでしょ?土魔法と光魔法を駆使した『光の祭典!砂のお城大作戦!』。みんなが作るの片っ端から固めて、光らせてみた!」

「…なんてぇか、無駄遣いしてんなー。」

「え?すごい有効活用!メッチャ楽しいよ?」

「まぁ、シオンが楽しいならいいけど。」

横でセリが頷いている。その後、子ども相手に「砂の城作り体験」なるものを開催しているというシオンと分かれ、セリと二人、もと来た道を戻る。

(あん中の何人が、分かってっかなー…)

あれだけの規模の魔法を展開し、それを維持する。通常ならあり得ないそれを成してしまうシオン、それこそ、子どもの思い描く「魔法使い」のような存在─

「…セリ?」

ふと、セリが足を止めた。セリの視線の先にあるのは、二メートはありそうな城。

「シンデレラ城…?」

セリの口から、耳慣れない言葉が零れる。

「…ちょっと違う。けど、でも、すごい、…要塞がお城になってる。」

「…やっぱ、こういうの憧れっか?」

「え…?」

「城とか?王子様とか?」

「…憧れはします、けど、自分がお姫様になれる気がしないので、憧れるだけです。」

「セリなら、お姫様、似合うけどな。」

「!」

ちょっと驚いて、それから照れたように笑うセリ。そんな姿は本当に「お姫様」そのものだなと思いながら─

「…結構歩いたから、どっか店入って休憩すっか?」

「あ…、そう言えば、デニス君が、お店、遊びに来て欲しいって言ってました。」

「デニス?…アイツとどっかで会ったのか?」

「はい。この前、ここでカッシュさんと会った後に、えーっと、世間話?をしまして、今度、お店に『彼氏』と来て欲しいと言われました。」

「ふーん…」

何故、「彼氏」なんて話題になったのか。少し、気になりはしたが、ここでセリを自分の「結婚相手」として認識させておくのは悪くない気がして、

「あー、デニス居んのはアレだけど、あそこなら座って飯食えんな。セリは?それでいいのか?」

「はい…」

頷くセリを連れて向かったのは、子どもの頃から世話になっている店。波乗りに来る観光客相手にボードなんかの貸し出しを行っているその店は、地元の人間にとっては、旨い食事を出す店でもある。

店に着いた途端、早速デニスに見つかった。こちらを見つけて駆け寄って来ようとする姿はまだまだガキなのに、「店員」やってる姿に、デカくなったなーなんて、少し感慨深く思ったりして─

「ルキにい!ってか、あんたも!やっぱ、あんたの彼氏ってルキ兄なんだなっ!さっき、喧嘩止めたの、マジで面白かった!」

「デニス、ちけぇ、セリに近寄んな。」

突進してくる勢いのデニスを牽制する。

「っ!?ルキ兄が!彼氏みたいなこと言ってる!!」

「みたいじゃなくて、そうなんだよ。」

「っ!あんた!すげぇな!?」

興奮気味のデニスに、何故か少し得意げな顔をしているセリ。

「てか、じゃあ、やっぱり、こっちがルキ兄の本命?じゃあ、あの男は?」

「あ?」

「ルキ兄が連れて来てた魔導師。姉ちゃんが、セリって魔導師野郎がルキ兄の結婚相手だっつーから。」

「…」

そういえば、デニスには何も言っていなかった。

(てか、誰も言ってねぇの?ミランダも?)

微妙な沈黙の後に、セリが口を開く

「…私が、その魔導師、です。」

「は?」

「私、お仕事用のローブに認識阻害をかけています。…『姉ちゃんの言ってた魔導師野郎』は私です。」

「…」

目を見開いたデニスが、穴が開くほどの勢いでセリを見つめて、

「マジでっ!?すっげぇ!!マジであんたがアレなの!?うっそ!全っ然、分かんねぇ!あんた、マジで凄いじゃん!!」

「…だから、ちけぇって、触んな離れろ、見るなしゃべるな。」

「えーっ!?見てしゃべるくらい許してよ!俺、セリみたいな魔導師見るの初めて、」

「セリって呼ぶな。」

「えっ!?じゃあ、何て呼べば、」

「呼ぶな。」

まだからんで来ようとするデニスに、セリを会わせたのは失敗だったかもしれないと思いながら、セリを店内へと促す。

「…セリ、さっさと飯食って出ようぜ。」

「あ!ちょ!ルキ兄!」

デニスの声を無視して、セリの手を引く。壁の無い店の奥、海に面した一角に空席を見つけて座り込んだ。スカート姿のセリが、裾を気にしながら床に座るのを眺めながら気づく。

(おふくろのか…?)

セリが着ている服、遠い記憶に、母親が自慢げに見せてくれたことを思い出す。母親が父親と婚約していた頃の服、豊漁祭においてのビスクスの花は、所謂「売約済み」を意味する─

(あったなぁ、そう言えば、そんなもん…)

今の今まで忘れていた。自分には関係ないことだからと興味も無かったし、母親ののろけ話は当然のように聞き流していたから─

「…セリ、その服ってさ…」

「あ、はい、そうです。お母さんに貸してもらいました。…お母さんが、昔着てたものだって…」

「ふーん。」

セリのこの様子から、どうやら、ビスクスの花が意味するものまでは知らないらしい。

(…おふくろも、セリ囲おうと必死だな。)

自分で思い至らなかったのは失態だったが、知らぬところで母親のフォローが入っていたとは。「セリを絶対に逃がすな」と言っていた言葉は、冗談でもなんでもなかったらしい。

デニス以外の店員を呼んで注文した酒と料理、運ばれてくるのを待つ間─

「…セリ。」

「はい…?」

「…そのカッコ、すっげぇ可愛い。」

「っ!?」

他の男にまで見られるのだけは、どうしても、腹が立つが、

「昨日のカッコも可愛かったけどさ、そういうのも似合うな。…すげぇ好き。」

「…」

固まったセリの顔が赤く染まったかと思うと、目を逸らされてしまった。

「…何で、ルキ、そんな、突然、そんなこと…」

「ん?…何でってわれてもなぁ。…そう思ったから?」

それに、思ったことを言葉にせず逃げられでもしたら、洒落にならないと気づいたから。後から、「あの時もっと」と思っても遅い。カッシュ達のことを見て、そう、痛感させられた。

「…ルキが変なのは、ここの、南国的な、開放的な雰囲気のせいでしょうか?」

「ん?」

「なら、あの、私も言っていいですか?」

「なに?」

「…ルキが、波乗りしているの、すごく、カッコ良かったです。…いつもの、お仕事着のルキも好きですけど、今みたいに、寛いでる恰好のルキも、好き…」

「…」

(…なんつーか…)

言葉の破壊力ってすげぇなと思った─

だったら、もっと、セリに関してはなるべく言葉にしようと決めて、

「…セリ、今日、夜、セリの部屋ってい?」

「え…?」

「大丈夫、シオンはきっちり潰して行くから、問題ねぇよ?」

「…兄を潰すのは、問題なのでは…?」

本題はそこじゃあないけど、困惑しているセリが可愛い。

(拒否は、されてねぇ、よな?)

雰囲気的にそう受け取って、困惑してる隙にもう一押ししてみるかと悪い考えが過ぎる。そのタイミングで聞こえてきた騒音。店の入り口が騒がしくなって、聞きたくもない声が聞こえてきた。




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