【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン

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【サプライズ】好きな人の誕生日に全力でプレゼントを用意しました ▶10話

#4 たくさん、兄のことを

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「セリ君も大変ねぇ…」

「…ご迷惑を、おかけしてます。」

結局、ロカールを出る直前にもまた兄とルキの横やりが入り─曰く、男の比率が高いだの、護衛が頼りないだの、俺が護衛としてついていくだの─、結局、ロカールを出たのが午後の便になってしまった。

ボッツに着いたのが夕方、鑑定士への持ち込みは明日ということで、宿を取り、夕食を終えて、漸く一息。それぞれのベッドの上で、ザーラさんとパジャマパーティもどきを開催している。

「…兄一人の時は、あそこまで酷くはなかったんです。ルキと二人で心配する内に、エスカレートしてしまうようで。…いつもなら、エルが止めてくれるんですけど。」

「ふふ。…何だか、目に浮かぶわ。」

笑ってくれるザーラさんに、気持ち分、姿勢を正す。緊張に、小さく息を吐いて、

「あの、ザーラさん、実は、その、打ち明け話が、一つ、あるんです。…聞いてもらえますか?」

「あら?私に?いいの?」

「はい。…あの、ザーラさんだから聞いて欲しいといいますか…」

「…分かったわ、心して聞くわね?」

ザーラさんまで姿勢を正してくれた。受け入れてくれようとするその姿勢に、少しだけ緊張が解ける。

そのまま、ザーラさんに打ち明けた。兄と自分のこと。異世界の記憶を持って生まれ変わったこと、師に弟子入り出来たのはその前世の知識があったからで、ザーラさんも見たあの銃は兄の前世の記憶を元に造られていることも─

「…不思議な話ね。前世…」

「はい。…ただ、あの、これは一方的に、私がザーラさんに私達のことを知って欲しくて打ち明けただけなので、その…」

「…」

「…ザーラさんが信じられないのは最もだと思うんです。だから、えっと、信じてもらえなくても…、あ、勿論、信じてもらえれば嬉しいですけど、」

「…信じるわ。」

「…」

ザーラさんが笑ってる。いつもの、私の好きな笑顔で。

「セリ君の言葉だから、信じる。」

「…ザーラさん。」

「それに、すごく納得できちゃったの。セリ君の前世の話。だからかぁって…」

「納得ですか?」

「そう。人嫌いで知られるヴァイス導師が弟子を取るなんて、初めてセリ君達から導師の名前聞いた時は、凄く驚いたもの。」

「…そう、なんですね。」

「それに、シオン君も。…たまに、年齢以上にしっかりしてるから、前世があるって言われて、違和感が無いくらい。」

「兄が?…しっかりしてますか?」

「ええ。…セリ君に関わることに関しては、特に。」

「?」

そうだろうか?と考えてみるけれど、私の脳内の兄はいつも呑気に笑っている。

(…それだけが、兄さんの顔じゃないのは知っているけど。)

それでも、兄はいつも、私の前で笑っている─

「…兄は、前世では二十三だったんです。」

「…若かったのね…?セリ君は?」

「十八、でした。」

「そう…」

ザーラさんの顔がくもる。

(こういうところ、ルキとザーラさんは似てる…)

そんなザーラさんだから、知って欲しいと思ってしまう。私のこともだけれど、それ以上に─

「…前世での十八歳は、まだ、半分くらいは子ども扱いで、仕事をせずに進学する人も半分くらいはいるような世界だったんです。…私も、進学する予定でした。」

「…」

「けど、兄は、進学せずに十八から働いてたんです。…だからかもしれません。兄が落ち着いてるっていうのは。…兄は、私よりずっと苦労、…努力、してましたから。」

「…セリ君は、シオン君が自慢なのね?」

「はい、とても…」

家計の負担にならないよう、塾にも通わず公立の進学校へ通っていた兄。地元の国立大学への進学だって確実だって言われていた。でも、

「…うちは、父親が居なくて、母一人で私達を養ってくれてたんです。…兄は、その負担を軽くしたかったみたいで、それで、自分は進学をせずに、私を進学させてくれようとして…」

「…」

「私、全然、知らなかったんです。兄が進学しないって言った時も、『お兄ちゃん、またいい加減なこと言ってる』くらいの気持ちで…」

知ってたはずなのに。兄が、機械いじりも、プログラムを組むことも、大好きだったこと─

「…私が進学を決めた時に、母が教えてくれました。…兄が、母に『母さん大変だから』って言って、進学しなかったこと。」

兄が、本当は、機械工学をやりたいと思っていたこと、飛行機を飛ばしたいと思っていたことも─

「…なのに、私の時は、『俺が行かせてやるから』って、学費、全部出してくれようとして…」

結局、私が大学に進学することはなかったけれど─

「…それまで、年も離れてたから、兄に本気で怒られたことって無かったんです。でも、その進学の話の時だけ、私、兄を本気で怒らせてしまいました。」

「…」

「『お兄ちゃんを犠牲にしてまで進学したくない』って。そしたらもう、兄が、それまで見たこと無いくらい本気で激怒して…」

今なら、その一言がどれほど無神経だったかが分かるけれど、当時の私は、自分の青臭い正義感を振りかざしてしまった─

「『俺の人生を犠牲なんて言うな』、『俺を憐れむな』って…」

「…」

「…私は、二度と兄にあんな顔させたくありません。だから、私は、兄にたくさん感謝はしていても、『犠牲にしてる』って思うことはしないんです。兄が、今度の人生で、また私のために頑張っていても、私はただ、ありがとうって…」

「…」

「でも…、だけど、兄には、今度こそ、…今度の人生では、好きなことをやりたいだけやって、もっとずっと、笑ってて欲しいって思ってるんです。私のことばっかりじゃなくて、兄にはもっと、自分のことを、いっぱい、…」

「セリ君…」

ザーラさんに名前を呼ばれる。ベッドを移動してきたザーラさんに、座ったまま並んで、肩を抱き締められた。思い出して、少し辛い過去ごと─

「…セリ君、…ねぇ?セリ君のこと、これから、セリちゃんって呼んでもいい?」

「…はい。」

「ありがとう。…あのね?セリちゃんとシオン君、凄く仲のいい兄妹なんだなって思った。…大切に思われてるセリちゃんが羨ましくなるくらい。」

「…」

「私は兄弟がいないから、余計にかしら?」

「私は…」

私は、知って欲しいと思った。私だけが知っている兄の強さと優しさを。

もう誰も、兄を守ってくれる人のいないこの世界で、母に似ている、この優しい女性ひとに─

「…ごめんなさい、ザーラさん。」

「あら?どうして謝るの?」

「…私、凄く、ザーラさんに甘えてます。」

「ほんと?…じゃあ、光栄ね?私、セリちゃんに甘えられて嬉しいもの。」

「…甘やかされてます。」

「ふふ。」

ザーラさんが笑う。

(やっぱり、いいな、ザーラさん。…もし、ザーラさんが…)

それが、私のエゴだということは分かっている。だから、口にはしない。

ただ、小さな子どもが星や笹に願いを託すように、願ってしまうことだけはやめられない。

もしも、この女性ひとが、これから先、兄の隣に居てくれたら─




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