【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン

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【重大発表】二人に大切なお知らせがあります ▶6話

#3 好きだから知って欲しい…

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ルキのせいだ。ルキが、いきなりあんなことするから─

「セリー、今日の晩ごはん、何?」

「キャベツ。」

「は?キャベツ?」

兄が覗き込んできた。まな板の上の大量のキャベツを見て考えている。

「食物繊維?腸活…?」

「…うそ。今日はトンカツ。キャベツは付け合わせ。」

「え?メインじゃなくて?」

「…じゃあ、兄さんの分はキャベツだけ。」

「はい!すんませんっした!肉が食べたいです!」

「…」

いつもの三倍は刻んでしまったキャベツを二等分し、バランス悪くトンカツを盛っていく。

キャベツがこんなことになったのは、お料理中の私の脳が思考停止してしまっていたせい。思考停止していたのは、昼間のルキの姿が頭の中でグルグルしているから。ルキが、ルキが─

(…あんなことするから。)

思い出すとまた、エンドレスリピートしてしまうルキの姿。迫る表情、怖いくらいの眼差し、ちょっと掠れた温かさが触れて、それから、耳元で─

─…セリ、もっとシていい?

「っ!?」

ダメだと思う─!

あんな、あんな、人の脳ミソ融解させちゃうような声!ルキが、あんな声出すなんて、知らなかった─!

「…セリー、何か飲むもんある?」

「…」

「冷えてるやつー。」

「…ありがとう、兄さん。」

「え?…どういたしまして?」

兄の声が桃色の世界から私を連れ戻してくれた。

食事の支度を整え、兄が「飲むもの飲むもの」うるさいので、ひとっ走りしてお酒を買ってきたところで、どうにか気持ちが落ち着いてきた。日常の作業を繰り返すって大事。キャベツの千切り然り、兄のお世話然り。

「…兄さん、お話があります。」

「ん?なに?」

二人で食卓につき、兄が最初の一杯を飲み干したところで切り出した、大事な話。

「…ルキとエルに、私達のこと話してもいい?…前世のこと。」

「え?どうしたの?なんで急にそんな話?」

「ルキに、隠し事は嫌だって言われて…。私も、ルキに隠し事したくない。…エルにも。」

「んー、なるほどねー。…まあ、いいんじゃない?」

「…いいの?」

エール片手にあっさりと許可されて、お願いした私の方が戸惑う。

「いいよ。俺も、あの二人に隠し事あんのは、あんまいい気持ちしないし。」

「うん…」

「それに、ルキとエルとは、一生の付き合いになるわけじゃん?」

「えっ!?」

「ん?」

「いっ、しょう…?」

「え?じゃないの?俺、今のパーティ解散する気、サラサラないんだけど。」

「…」

そういう─?

(…駄目だ。)

頭が完全に恋愛脳になってる。思考が直ぐにソッチへ行ってしまう。ルキと一生と言われて浮かんだのが─

(…ルキのせいだ。)

ルキが、あんなことするから─

「てか、まぁ、話すのはいいけど、信じてもらえるかだよなー。師匠じゃあるまいし、普通の感覚のエルとルキじゃ難しいかもなー。」

「…」

「普通に怪しすぎるし、俺が二人の立場だったら、まあ、先ず間違いなく信じないね!セリはともかく、俺の話とか絶対、信憑性ないって言われそー。」

「…」

「…って、おーい、セリ聞いてるー?セリさーん?」








「いらっしゃーい。」

「お邪魔しまーす☆」

「珍しいな、宅飲み。…シオン、これ、俺らの分。こっち、セリのな。」

「え?マジで?わー、ルキが手土産とか普通に意外。意外性の男。」

「…シオンは飲むな。」

「はい!すんませんっした!飲みたいです!」

玄関でわちゃわちゃしながら、三人が部屋に入ってきた。今日の昼間は、食事会の準備でルキとは会っていない。だから、ちょっとだけ緊張する。

「…いらっしゃい、エル、ルキ。」

「うっす。腹へった。セリの手料理、すげぇ楽しみ。」

「…」

「はいはーい☆お邪魔しまーす!」

ルキとの微妙な空気に、エルが割って入ってきた。そのまま、エルとルキが並んで座った向かいに、兄と並んで腰を下ろす。

「えーっと、最初にこれだけ言っとくね?実は、今日は二人に大事な話があって来てもらいました。」

「え!?何それ!?怖いんだけど?パーティ解散とか?」

本気でしかめっ面になってるエルに、慌てて首を振る。

「違います。」

「そうなの?」

「しないしない!何でそんな予備動作無しの豪速球放ってくるの!?俺の方が怖いよ。」

「…ふーん?じゃあ、いいや☆」

「え…?」

その一言で引き下がったエルが、乾杯しようと杯を掲げる。

「え?あの、エルにとって『大事な話』ってそれだけなの?他の可能性、他の危惧は?」

「んー?まぁ、それ以外は割と些事かなー。」

「えー…」

「はいはいーい☆じゃあ、カンパーイ!」

エルの音頭に、慌ててグラスを合わせる。少しだけ見えたグラスの向こう、ルキがちょっと困ったような顔で笑っていた。

それに気づかない振りで、二人に料理を勧める。手料理、ではあるけれど、おもてなしというほど大層なものではなく、いつも兄に作っているような料理。それでも、エルとルキの二人は「美味しい」と言ってくれて、

「セリちゃんって、お料理上手だねー?」

「すげぇ旨い。」

「ありがとう、ございます。…師と住んでいた頃は、私が料理担当だったので。」

「へー、ヴァイズ・ミレンって料理とかするんだ?」

「え?」

「あれ?違うの?そういう意味じゃない?ヴァイズ・ミレンに料理習ったってことじゃなくて?」

「…」

エルの疑問に、兄と二人して黙り込んだ。多分、今が、そのタイミングだから─

「…えー、はい、エルくん、いー質問ですね?ってことで、俺達がしたかった大事な話ってのをするね?」

「うん、どうぞ?」

「…」

「あー、えっと、その前に、大前提として、今からするのって、あり得ない話っていうか、頭大丈夫?ってなるような話だから、直ぐには信じられないかもしれないけど、」

「前置き長過ぎ。」

「…」

エルにぶったぎられて、兄が少し躊躇する。気持ちは分かる。この二人に信じてもらえないのは辛い。

言葉を探す兄に、ルキが口を開いた。

「シオン、いいから話せって。あり得なくても信じるし、別に、嘘でも信じっから。」

「…え?いや、嘘は信じちゃ駄目だよね…?」

「もー!ルキはちょっと極論過ぎ!…でも、まあ、僕も二人の話なら信じるから、話してみなよ?」

「え?信じるの?ってか、まだ、何も言ってないんだけど…」

「信じるってば。まぁ、僕は嘘だったら怒るけど、嘘じゃないんでしょ?」

「うん、そう、だけど…」

兄の声が、ちょっとだけ震えた。

二人の無条件の「信じる」が嬉しくて、私も、ちょっとだけ泣きそうだった。




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