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ダンジョン調査 ▶29話

#22 【RTA】マドンの滝ダンジョン、最下層到達

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私は、どうやら、ルキの力を見誤っていたらしい─

「…すごいねぇ、ルキ。」

「です、ね…」

「いや、これ、マジであるよ。マジで、今日中に最下層きそう。」

「…」

ルキとの仲直り、想いが通じ合った翌日、ルキは一人でダンジョン攻略をしていた。

(…いつも、無双してると思ってたけど、これはちょっと…)

兄の速度強化が掛かっているとは言え、足場の悪い暗闇の中を信じられないくらいのスピードで駆け回るルキ。目的が、下層階への階段、ボス部屋を見つけることだからと、私達を安全地帯に残したまま、一人でダンジョン探索を行っている。私達がすることと言えば、ボス部屋を見つけたルキに呼ばれてボス戦を行うことくらいで─

「…こんなに楽していいんでしょうか?」

「んー?いいんじゃない?ルキ、楽しそうだし☆」

「…」

確かに、水を得た魚、朝から張り切っていたルキは、半日で五階層を攻略してしまった。現在、三十四階層、流石にそろそろ終わりが見えてきてはいるけれど。

「…まぁさ、実際のとこ、簡易ポータルも最下層に設置する分しか残ってないし、最下層でコアルーム封鎖しちゃってから逆走するってのはいい作戦だと思うよ?…あの人らも、完全に引き離せたしね?」

「…それは、確かに。」

ルキがボス部屋までの最短距離を見つけてくれるので、兄は壁を光らせるのをやめた。ルキが敵を一掃してくれたルートをトーチとカンテラで周囲を照らしながら進むから、暫く前に、黎明の人達は暗闇の中に置き去りにしてきてしまっている。

「最初からルキ一人に攻略させといても良かったかもね☆」

「えー?それは、流石にルキも持たないんじゃない?」

ダンジョン下層でしているとは思えないくらいの呑気な会話、ルキが帰ってくるのを三人で待ち続ければ、

「…あったぞ。コアルーム。」

「っ!?」

「わぁっ!?」

「ストーンゴーレムが守護者ボスだった。」

「っビックリしたー!ルキ!無音で現れるの、ホント止めてくれるっ!?心臓に悪い!」

「あ?どんだけ、ダラけてんだよ、シオン。…ちゃんと、セリのこと守ってろ?」

「あー、はいはい。守ってます、大丈夫です。」

「…」

一応、これでもA級冒険者、しかも攻撃職。自分の身は自分で守れるのだけれど。昨日から、ルキは確実に過保護になっている。

「…あの、ルキ、あったんですか?コアルーム…」

「ん?ああ、あった。こっから、五分?くらいだな。…セリは、ストーンゴーレムとったことあるか?」

「はい、ゴーレムなら、師との修行で何度か。師は、ゴーレムを造るのが得意だったので。」

「…ヴァイズ・ミレンって、ゴーレム造れちゃうの?」

「ホント、何でもありだな…」

呆れるエルとルキに、兄が苦笑いしている。

ルキの先導で安全地帯を出て、浮かせたカンテラで通路を照らしながら進む。到達したのは大きな空間、その最奥に、人工物のように見える石の「扉」があった。

「…あれが、コアルーム。」

「そ。まさに『ルーム』って感じでしょ?どこのダンジョンも、コアはあーいう扉の中にあるんだよね。不思議☆」

「気ぃつけろよ、近づくと、左右のゴーレムが起動すっから。ちょっとつついてみた感じ、火属性と水属性っぽかったかな?後、すげぇ固い、物理攻撃は全然通んなかった。」

「…突いたって、ルキ、一人で戦ったの?」

「ん?まさか、本当にちょっと突いただけだって、直ぐ離脱したし。」

「なんで、そんなこと…」

「あ?いや、だって、どんなボスかくらい分かってねぇと危ないだろ?魔法反射とか洒落になんねぇし、物理でどうにかなんなら、セリ連れてくる前に終わらせとこうかと思ってさ。」

「…」

「…ルキが、バカになった。」

「あ?何だ、エル?喧嘩売ってんのか?買うぞ?」

「あー!もう、待って待って、二人とも揉めないで!しかも、何か、原因が凄い、くだらない、低レベル、次元低い、恥ずかしい…」

兄が、二人を止めながら凹んでいった。ボス戦前にこれだけグダグダでいいのだろうか?と思いはしたけれど、ルキの気持ちは伝わったから、というか、かなり嬉しかったから、口をつぐむ

結果、ストーンゴーレムは、魔法で核を破壊することであっさりと倒すことが出来た。二体でルキを追い回す内に接触転倒したところを、核を押しつぶすだけの簡単なお仕事。

「…で、こっからが本番なわけですよ!」

「…頑張って、兄さん。」

コアルームの前に、兄が仁王立ちする。先ほど、チラッとだけのぞかせてもらった扉の向こうには、光輝く球体─かつて、師の研究室で目にしたのと同じもの─が、台座の上で輝いていた。

今後、あの輝きを目にすることが出来るのは、しかるべき手順を踏んだギルド関係者だけなんだなと感慨深いものを感じながら、扉に封印の呪を刻んでいく兄を見守る。

「…忘れてたけど、そう言えば、シオンって呪術師、なんだよね。」

「です。兄の得意分野です。」

魔力の調整こそ苦手とするものの、兄は機械いじりや回路を組むことは好きで、師ともよく何かをいじっていた。

(…好きなのは、もっと前世むかしから、かな…?)

ブロックでロボットを作ったり、ハンダで光や音のなる何かを作って遊んでいた兄。大人になってからは、パソコンでプログラムを組むという、私には全く分からない遊びを楽しんでいた。

(…でも、本当はもっと…)

「おっし!出来た!どう?どう?完璧じゃないっ!?」

「…よく、分からない。」

「自画自賛☆」

「なんか、すげぇな?」

「何その反応!?もっと、褒めて!崇め奉って!」

兄が、無茶を言う。

「…だって、本当によく分からない。」

扉に、小さな文字でグルグルと模様のように描かれた呪が、綺麗だなとは思うけれど。正直、何をどう書いてあるのかは─

「あー、もう、張り合いないなぁ…」

兄が溢したため息、「まぁまぁ」と慰めるつもりで兄の背を叩こうとしたら、

「…ふむ。」

「っ!?」

「なっ!?」

「!!」

突如、現れた人影、遅れて、発動済みの魔力の残滓を感じた。

この魔力は─

「し、しょう…?」

コアルームの扉の前、刻まれた呪を眺めるようにして師が立っていた。




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