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ダンジョン調査 ▶29話

#18 やっと、出来た…

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「…出来、た。」

ダンジョン調査開始から三十日目、ダンジョンの二十八階層、もうすぐ最下層にたどり着くだろうタイミングで、漸く、清浄魔法の発動に成功した。

(良かった…)

清浄薬が完全に切れてしまってから一週間以上、もう、完全に隠せなくなっていた自分の匂い。ふとした瞬間に、自分自身でも気づくその匂いに、最近ではルキだけではなく、兄やエルにも近づけずにいたけれど─

「し、師匠、これ、成功してますよね?」

「…」

「綺麗になった気はするんです。でも、匂いは。自分でももう、鼻が利かなくなってて。」

確認の意味で目の前の師を見上げれば、端正な顔が近づいて来た。

「…」

「…師匠、何やってるんですか?」

「別に、匂いはしない。」

「…」

頭の匂いをかがれてしまった。

(子ども?というか、孫?扱い?)

顔を離した師を見上げて、お願いしてみる。

「師匠、お願いします。さっきの感覚、忘れたくないんで、師匠にもかけてみてもいいですか?」

「…好きにしなさい。」

「ありがとうございます!」

師を実験台にするのは申し訳ないけれど、自分にかけるよりも効果が見えやすい。今は一刻を争う時、背に腹は代えられないから。

目の前の長身に両手を掲げて、

(『清浄』)

上手く紡げた魔力が師を包みこむ。

「…出来た、みたいです。」

「そうだな。」

さっきの感覚を完全に再現できた。まだ、完璧とまでは言い切れないけれど、これなら、一人で練習を続ければ何とかなりそう─

「…師匠、ありがとうございます。ずっと、付き合ってもらって。」

「構わない。巣立ったとはいえ、お前が私の弟子であることに変わりはない。」

「…はい。」

「…ところで、だ、セリ。」

「はい?」

何事かを考え込んだ師が、こちらに真っ直ぐな視線を向けてきた。

「…セリは、S級冒険者の試験を受けたのか?」

「あ、はい、先日、王都で。…えっと、落ちてしまいましたけど。」

「何が駄目だった?」

「…実技は問題無かったみたいです。ただ、筆記、知識問題が惨敗でした。魔法や冒険者のルール的なものはともかく、モンスターに関する知識が圧倒的に不足していたので…」

「…モンスターか。」

「はい、思っていたより出題範囲が広くて、初めて目にするモンスターばかりでした。」

「…」

「あ、でも、ここのモンスターの種類が豊富なので、少しずつ知識も身についてきています。あとは、どこかのタイミングで、体系だった学習も必要かなとは思っていますが…」

「…」

「…師匠?」

こちらをじっと見下ろしたまま、師が動かなくなった。返事も無い。

(これ、意識とんでる…)

自らの思考の海に潜ってしまった師、この状態の師を引き上げるのは、兄を叩き起こすよりも難しい。

「師匠?師匠?」

試しに何度か呼んでみたけれど、予想通り、返事がないので諦める。

「師匠、あの、本当にありがとうございました。…えっと、また明日来ます。」

「…」

意識のない相手に独り言のような挨拶をして、師の元を後にする。

(…でも、本当に良かった。これで…)

皆のところに帰りながら、浮かれた気分を抑えきれない。ダンジョンに入ってから今までで一番、どころか、多分、ここ数年で二番目─ルキがS級冒険者に受かった時の次くらい─にテンションが上がっている。

(習得出来たって報告して、皆にも清浄かけて、それで、それから…)

もうすぐ皆のところ、ルキがこちらを見ている。

「ルキ!」

少し、小走りになる。

「聞いて下さい!私──」



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